后箆∈椒轡蝓璽困發痢

2022年09月03日

作者あとがき(咲良と遥の物語)

44歳になった男がいきなり恋の物語とか結構ヤバくてキモいんで…言い訳。



8月に入り、コロナ感染症の第7波も収まらないところ。

修学旅行前の娘のために、東京には帰らない。

かと言って、人の集まるところにも行けない。

さらに、外出も外食も抑制。

じゃあ、youtube以外に何すればええねん。
(勉強しろ!)

というわけで、この17年も続いているブログを少し振り返ってみた。

・家族との思い出
・過ごした街の風景
・間接的に描写された仕事関係の精神状態
・懐かしい日常

いろいろなものが掲載されている。

これは、老後とか大病で入院した時とか、全記事を読み直して思い出に浸れる最高の自叙伝になると再認識。

いや、逆に死ぬギリギリまで思い出を書き記しているかもしれない。

ふと見たときに、連載シリーズ(カテゴリ)が。

その中でも、数年ぶりに読み直した「咲良と遥の物語」

・昔から日記を書くのが好きだった
・想像した内容を物語にするのも好き
・想像し、それを整理し書くことで左脳と右脳が活性化される
・そして、意外にクオリティが高いじゃん

自分が昔書いた物語を読んで「クオリティ高いじゃん」って思うところがイタくてヤバいね。

・あれを描いたのは徳島にいるとき
・あれから月日も経った
・自分も成長した
・今は群馬にいる
・じゃあ、群馬編を書けばいいんじゃね?

となったわけですよ。

〃嫁呂隆儻地をPRしたい
右脳と左脳を活性化させたい
8充造砲呂△蠧世覆ざ想と妄想の世界でリフレッシュ

ただ、それだけです。

家族の皆さんごめんなさい。



でもね、結構頭使ってるんですよ。

例えば…

(1)第16話(草津温泉編)
・物語と「草津節の歌詞」を同調させたい
・草津良いとこ一度はおいで、お湯の中にも花が咲くヨ
・お医者様でも草津の湯でも惚れた病は治りゃせぬヨ

(2)第17話(伊香保温泉編)
・第16話と同じ表現を少し入れたい
・物語と「HKT48の12秒という曲の歌詞」を同調させたい

とか。

またしばらく書かない予定だけど、一応、物語はまだ未完です。

それでは、また。



(参考:シリーズもの)

<第1話はこちら>
 咲良がさくとき(鹿児島編)

<第2話はこちら>
 咲良がさくとき(岡山編)

<第3話はこちら>
 春が来るのはまだ遙か・・・(池袋編)

<第4話はこちら>
 春が来るのはまだ遙か・・・(浅草編)

<第5話はこちら>
 タブーの花が咲いてしまった(第5話)

<第6話はこちら>
 タブーの花が咲いてしまった(第6話)

<第7話はこちら>
 タブーの花が咲いてしまった(第7話)

<第8話はこちら>
 タブーの花が咲いてしまった(第8話)

<第9話はこちら>
 阿波で心も浮いてきた(第9話)

<第10話はこちら>
 阿波で心も浮いてきた(第10話)

<第11話はこちら>
 ワインの花がまだ開かなくても(第11話)

<第12話はこちら>
 ワインの花がまだ開かなくても(第12話)

<第13話はこちら>
 幸せは涙の中に咲いていく花(第13話)

<第14話はこちら>
 幸せは涙の中に咲いていく花(第14話)

<第15話はこちら>
 黒潮の雰囲気に流されて(第15話)

第16話はこちら
 惚れた病と湯花の香り(第16話)

<第17話はこちら>
 恋人の聖地と黄金の湯に癒されて(第17話)

kou_blue97 at 19:25|PermalinkComments(0)

2022年09月02日

恋人の聖地と黄金の湯に癒されて(第17話)

群馬での初めての夏。

群馬の夏は、暑い。

「先輩、群馬の生活どうですか?東京は暑いから、群馬の山に連れてってください!」

遥からのLINEが届く。

「前橋の夏も暑いよ。ほんと、山に涼みに行きたいね。」

「先輩、上野村には行きましたか?山の上にスカイブリッジがあって、恋人の聖地らしいですよ。」

「上野村はまだ行ったことがないなぁ。確かに山の上だし涼しそうだよね。じゃあ、ドライブしようか。」

「来週の土曜日に行きますね。伊香保温泉に泊まりたいので、お願いしま〜す。」

遥は、いつも強引だ。それは、昔からずっと変わらないけど。



そして、当日。JR高崎駅で待ち合わせ。

新幹線で来る遥をKICKSで迎えに行く。

「赤くて素敵な車。助手席に、誰かを乗せたりしてるんですか?」

遥がニヤニヤ聞いてくる。

そう言われると、こないだ咲良を乗せたんだけどさ…



<神流川>
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ドライブの途中、神流川で涼む。

「きれいな流れの川。やっぱり群馬は涼しくて良いですね。」

「前橋にいると群馬も暑いなって思うけど、ちょっと車を走らせたらこんな大自然が味わえるなんて、ほんと良いところだな。」


<上野村スカイブリッジ>
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「凄ーい。見渡す限り緑と空しかない。空気も澄んで気持ちいい!」

「ほんと素晴らしい場所だね。少し下を見ると怖いけど…」

「先輩、久しぶりに私に会えて、ドキドキしてるんですか?うふっ、可愛い。」

「怖いんだから、あんまり揺らすなよ。」

「だって、恋人の聖地なんだから、たくさんくっつかないと。」


<伊香保温泉>
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「あー、いつもテレビで見る石段ですね。」

石段を見てはしゃぐ遥。

「先輩たちが、練習後にグラウンドの奥の山で階段ダッシュしてたの思い出しますね(笑)」

「それはもう、思い出したくない…」

〜長い年月を経ても、あの頃の面影が大きく残る〜

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「群馬は山が多いですね。東京なんて、山なんか見えない。ビルしかないから…」

「群馬は上毛三山と言って、赤城山、榛名山、妙義山が有名なんだよ。」

「それに、石段街も歴史と風情を感じますね。浴衣で歩きたいなぁ。」



宿に到着し、大浴場で温泉を満喫。

そして、夕食は部屋食。

「伊香保温泉は、黄金の湯なんですね。気持ちよかった!」

「万葉集にも出てくるなんて、ほんと歴史と伝統を感じる温泉だね。」

「今日は一日、空気も景色も温泉もホント最高でした。そして、先輩も。ありがとうございました。」

「そうだね。最高だったね。今日はご飯もビールも美味しくいただけるね。」

「そうですね。でも、美味しいのはご飯とビールだけじゃありませんよ。うふっ。」

〜夢のような幻ような、二人の時間。〜

「先輩。1つだけ、言い忘れてたことがあります。」

「何?どうしたの?」

「実は、私…婚約しました。」

「えっ?婚約…結婚?」

「そうです。私ももうすぐ人妻ですよ。先輩、どんな気持ちですか?」

「結婚するのに…なんで?」

「先輩こそ、結婚してるのに…なんで?って感じですよ。ふふっ。私は先輩のこと、今までも、そしてこれからもずっと、ずーっと好きですから。」

「遥は、相変わらずだね…」

「愛は、変わりません。それに、やっと同じ立場になるんだから。私だって、ずっと苦しかったんだよ。先輩…絶対に逃がさないんだから。」



唇に触れたのは柔らかなダイヤモンド
どうすればいいのだろう
僕はただ腕の中に
君を受け止めるだけだ
動けないよ 12秒




(参考:シリーズもの)

<第1話はこちら>
 咲良がさくとき(鹿児島編)

<第2話はこちら>
 咲良がさくとき(岡山編)

<第3話はこちら>
 春が来るのはまだ遙か・・・(池袋編)

<第4話はこちら>
 春が来るのはまだ遙か・・・(浅草編)

<第5話はこちら>
 タブーの花が咲いてしまった(第5話)

<第6話はこちら>
 タブーの花が咲いてしまった(第6話)

<第7話はこちら>
 タブーの花が咲いてしまった(第7話)

<第8話はこちら>
 タブーの花が咲いてしまった(第8話)

<第9話はこちら>
 阿波で心も浮いてきた(第9話)

<第10話はこちら>
 阿波で心も浮いてきた(第10話)

<第11話はこちら>
 ワインの花がまだ開かなくても(第11話)

<第12話はこちら>
 ワインの花がまだ開かなくても(第12話)

<第13話はこちら>
 幸せは涙の中に咲いていく花(第13話)

<第14話はこちら>
 幸せは涙の中に咲いていく花(第14話)

<第15話はこちら>
 黒潮の雰囲気に流されて(第15話)

第16話はこちら
 惚れた病と湯花の香り(第16話)



kou_blue97 at 18:50|PermalinkComments(0)

2022年09月01日

惚れた病と湯花の香り(第16話)

春、桜が舞う季節の人事異動で群馬県民となった。

人生初の単身赴任がスタート。

仕事も自炊や家事などの生活も落ち着いてきた、梅雨明けの初夏。

「kou、久しぶり!元気?群馬での単身生活はどう??」

咲良からのLINE。

「久しぶりだね。群馬は自然も歴史もいろいろあって良いところだよ。少しは寂しさもあるけど、いろいろ楽しめてるかな。」

「そうなんだ。良かったね。私はね…9月から韓国に転勤になったの…」

「えっ、韓国?転勤??びっくり!さすが、出来る女は違うね〜」

「そうでもないんだけどさ。いろいろ大変なのよ」

「そっか。でも、いずれにしてもご栄転でしょ?だったら、壮行会しないとね!」

「うん。ありがとう。最後に、日本の温泉に泊まりたいな。わがまま言って良い?」

「もちろん。群馬は温泉がたくさんあるからね。じゃあ、草津温泉の宿を探しておくね」



そして、当日。JR高崎駅で待ち合わせ。

新幹線で来る咲良をKICKSで迎えに行く。

「群馬県へようこそ。」

「群馬って、意外と近いんだね。あっという間だったよ。」

咲良を助手席に乗せる。

「kouが運転する車に乗るのなんて、大学生の時以来だね。」

「懐かしいなぁ。小樽の毛無山まで夜景を見にドライブしたり…」

〜あの頃を懐かしむ二人〜

「新幹線で1時間、車で1時間来るだけで、都会とは景色がこんなに変わるんだね。」

「そうだね。この景色、なんか少し北海道を思い出すね。」

草津温泉までの心地よいドライブ。

〜二人の時間が、あの頃に戻り始める〜



そして、草津温泉へ。

<湯畑>
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「あー、いつもテレビで見る湯畑だね。」

湯畑を見てはしゃぐ咲良。

〜長い年月を経ても、あの頃の面影が大きく残る〜

「もう昼過ぎだけど、何か軽く食べる?それともビールでも飲む?」

「うーん。お酒は夜まで我慢。夜はいろいろ話したいこともあるし…。でも、夕食まではたくさん観光しよう!」

「了解。湯畑と湯もみだけじゃなく、裏草津とか西の河原とかいろいろあるみたいだから、行ってみよう!」

<裏草津>
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「裏草津って、なんだか落ち着いてるけど、新しさも感じる雰囲気だね。」

「そうだね。あっ、見て足湯とかあるよ。あと、顔湯だって!」

「美肌に効果があるみたいだよ。でも、化粧が落ちちゃうね。咲良はもうこれ以上美しくならなくても良いんじゃね?」

「ふふふっ。相変わらずお上手ね。」


<西の河原>
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「川が流れてるね。温泉なのかなぁ?触ってみようっと」

咲良が湯の川に手を入れてみる。

「あっ、あったかい。自然の足湯になるよ。」

「ほんとだ。ちょっとたくさん歩いたから、少し休もうか。」

「ねえ、kou。覚えてる?アメフト部の夏合宿が終わった後、同期みんなで露天風呂に行ったの。」

「もちろん覚えてるよ。朝から夜までアメフト漬けの生活からの解放感や達成感の温泉!だけど、生傷が少し染みるやつ。」

「あの時までは、露天風呂は雪景色の冬の風物詩だって思ってたの。でも、あの真夏の露天風呂に入った時、夏の温泉が素晴らしいってことに気がついたんだ。」

「そんなこともあったなぁ。まあ、青春が詰まった日々だったからな。」

「そうよね…」

「さーて、そろそろ宿に行こうか」



宿に到着し、風情のある和室に入る。

「素敵な部屋。しかも、部屋に露天風呂もあるの?贅沢〜」

「まあな、咲良の壮行会だからな。」

「ありがとう。しばらく日本に帰れないかもしれないからさ…本当に嬉しい。」

「ご飯にする?お風呂にする?それとも…」

「はいはい。夕食まで少し時間があるから、大浴場に行きましょう。」



そして、夕食は部屋食。

「さて、お風呂も最高だったし、いよいよ夕食だね。」

「素敵な和食懐石ね。美味しそう。」

「何飲む?ビールにする?」

「日本を離れて韓国に行くから、今日は日本酒を飲みたいな。いい?」

「OK。じゃあ地酒が良いよね。浅間酒造の『秘幻』にしよう。」

〜秘幻。夢のような幻ような、二人の時間。〜

「それで、韓国行きはどうなの?チャンスなの?それとも、本当は行きたくないとか?」

今日、咲良は仕事の話を一切していない。

「うん。チャンスはチャンスで楽しみなんだけどね。でも、外国だから不安も大きいし…」

「まあ、たしかに不安はあるよね。俺なんて、群馬に来るだけで、不安と期待が結構大きかったから。」

「それとね…彼氏が反対していてさ…仕事を取るなら終わりにするって…」

「そっか。今の彼とは結構長いもんね。彼とはさ、将来も考えていたの?」

「まあね。バツイチの40手前だからさ、ラストチャンスかなとか、いろいろ考えてたよ。」

「そうだよな…それにしても、日本酒『秘幻』、美味しいなぁ」

〜二人の時間は、現実に戻る〜

「やっぱりダメね。恋で悩んだり、将来に悩んだときは、ついkouに頼っちゃう。もう甘えちゃいけないんだってわかってるし、いつも言い聞かせてるんだけどね。」

「そんなこと言ったら、俺のほうがダメだよ。そんな権利もないし、愛してるとは少し違うんだけどさ。いつでも頼ってほしいし、咲良の特別でいることが嬉しいし。」

「kouとは久しぶりに会っても、時が流れていても、いつでもあの頃に戻れるの。大人のプライドも捨てて、遠慮も捨てて、本音の自分でいられるの。」

「俺もそうだよ。あの頃から、ずっと変わらない。いつでも前向きで一生懸命な咲良を応援したい。咲良が韓国に行ったって、電話もLINEもあるんだから。遠慮しないで、いつでも連絡してほしい。それが俺の喜び、そして誇りだから。」

「そんな優しいこと言っちゃダメなんだから…そんなこと言ったら、本当に頼っちゃうんだから…」

「わかってる。大丈夫だから。咲良…こっちにおいで…」



二人の間の特別な距離感。
それは、あの頃から続く惚れた病。
泉質の効能高き草津温泉。
草津の湯でも、二人の惚れた病は治りはしない。
草津のお湯の中には花が咲く。
湯花の香りで花が咲く。





(参考:シリーズもの)

<第1話はこちら>
 咲良がさくとき(鹿児島編)

<第2話はこちら>
 咲良がさくとき(岡山編)

<第3話はこちら>
 春が来るのはまだ遙か・・・(池袋編)

<第4話はこちら>
 春が来るのはまだ遙か・・・(浅草編)

<第5話はこちら>
 タブーの花が咲いてしまった(第5話)

<第6話はこちら>
 タブーの花が咲いてしまった(第6話)

<第7話はこちら>
 タブーの花が咲いてしまった(第7話)

<第8話はこちら>
 タブーの花が咲いてしまった(第8話)

<第9話はこちら>
 阿波で心も浮いてきた(第9話)

<第10話はこちら>
 阿波で心も浮いてきた(第10話)

<第11話はこちら>
 ワインの花がまだ開かなくても(第11話)

<第12話はこちら>
 ワインの花がまだ開かなくても(第12話)

<第13話はこちら>
 幸せは涙の中に咲いていく花(第13話)

<第14話はこちら>
 幸せは涙の中に咲いていく花(第14話)

<第15話はこちら>
 黒潮の雰囲気に流されて(第15話)



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2022年08月27日

咲良がさくとき〜大人の恋の物語2016〜

新型コロナ第7波の感染拡大が止まらない2022年8月。

夏休みだけど、北海道にも帰られず、旅行にも行けず。

少しだけ、家族そろって桃鉄でプチ旅行気分。

行きたいところはという話題になり、考えてみた。

四国4県も南九州3県も行ったことがあるし、うーん。

・福岡県
・長崎県
・鳥取県

あたりか。

いずれも、一度も行ったことのないところ。

そういえば、鹿児島に行ったなぁと思い出した。



大人の恋の物語(2016年作)



【第1話 鹿児島】 

仕事で鹿児島に行くことになった。
人生初の、九州上陸。
新幹線「さくら」に乗っての長旅。

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岡山から鹿児島まで。
新幹線で時間を持て余した俺は、咲良にLINEを送る。

俺「今、新幹線さくらに乗って、鹿児島に向かってるよ。人生初の九州。」
咲良「えっ、私も新幹線で大阪から鹿児島に向かってるところ。今、博多を過ぎたあたり。」
俺「ホント、同じ新幹線じゃん。ミラクル!」

偶然にも咲良と鹿児島で再会なんて、運命を感じる。
夕方遅くに鹿児島に到着して、咲良と合流。

俺「何食べたい?」
咲良「行きたいところがあるんだけど、一人じゃ怖くてどうしようかと思ってたの。いい?」

二人が向かったのは「かごっま屋台村」。

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鹿児島の旬の食材と郷土料理を味わえる小さな屋台が並ぶ。
俺と咲良はカウンターに並び座る。

俺「何飲む?」
咲良「貴方と同じのがいい。」
俺「鹿児島に来たんだから、俺は芋焼酎飲まないとね。寒いからお湯割りで。一緒で大丈夫?」
咲良「ちょっと酔いそうだけど、せっかくだから私もいただく。貴方がいるから酔っても大丈夫だもんね。」

芋焼酎で乾杯。
きびなご、黒豚なんこつ煮、さつま揚げを堪能。
咲良の顔が紅く染まる。

咲良「いつもFacebookで見てるけど、あたたかい家庭を築いて幸せそうね。」
俺「まあね、幸せだよ。咲良は?」
咲良「ほんとはもっと幸せになるはずだったんだけどね・・・」
俺「でも、今でも咲良は輝いてる。いい女だよ。」
咲良「私も、貴方と結婚すれば私も幸せになれたのかな。」
俺「そうかもしれないけどさ。俺よりも、元旦那が良くて選んだんだろ(笑)。」
咲良「そうだけどさ・・・あの頃に戻りたいって思う時もあるよ。」

芋焼酎が身体に染み入り、夜も更けていく。

俺「ちょっと歩こうか?」

夜風に当たりながら、甲突川沿いを歩く2人。
自然と手をつないで、寄り添い合う。

俺「歴史、時間の流れを感じさせる町並みだね。昼間に歩けば楽しめそう。」
咲良「でも、貴方はもう結婚してしまったから、昼間に堂々と手をつないで歩くことなんて出来ない。時間の流れを感じてしまうわ。」
俺「いろんな経験があったから、今咲良は輝いてるんだよ。これから素敵な人との出会い、そして幸せが待ってるはず。」
咲良「そうだといいな。でも、今日だけは未来じゃなくて、幸せだった過去にすがりたい・・・」
俺「咲良らしくもないな。ちょっと飲み過ぎたか?」

鹿児島も、まだ3月は夜風が冷たい。

俺「せっかく芋焼酎で暖まったのに、身体が冷えちゃったね。コーヒーでも飲んで帰ろうか?それとも鹿児島ラーメンでも食うか?」
咲良「身体よりも、心の方が冷えちゃった。今日だけはあの頃に戻りたい。独りにしないで。貴方の優しさで、私のさくらを咲かせて欲しいの。」

止まったはずの時計の針が、15年ぶりに動き出した。



【第2話 岡山】 

翌朝、目覚めると隣には咲良の寝顔。
あの頃に比べるとお互い歳を取ったなと感じる。
微笑ましい。

スマホを見ると妻からのLINE。

「おはよう。鹿児島はどう?出張頑張ってね。子供達もお土産楽しみにしてるよ〜」

現実が待ち受ける。
咲良の寝顔をもう一度見る。
可愛い寝顔。
咲良は天使なのか、それとも悪魔なのか。

咲良「おはよう。起きてたの?早いね。」
俺「さっき起きたところだよ。」
咲良「もうわがまま言わないから。ゴメンね。でも、ありがとう。」

俺は何も言わずに彼女を抱きしめ、口づけを交わす。
動き出した時計の針は、もう止まらない。
帰りの新幹線の約束をして、俺は彼女のホテルを出た。
自分のホテルに戻り、シャワーを浴びて着替える。
妻にLINE。

「鹿児島の夜は芋焼酎が美味しかったよ。今日、帰るけど遅くなるから先に寝ててね。お土産、任せとけ。」

鹿児島での仕事を終え、鹿児島中央駅に15時に待ち合わせ。
2人、咲良と新幹線に乗る。

咲良「昔は、2人で旅行したこと思い出すね。懐かしいな。」
俺「そうだね。でも、過去にすがらないで、未来に向かっていけよ。」
咲良「わかってるよ。でも…貴方よりも幸せにしてくれる人に出会うのって、難しいんだよ。」
俺「新幹線さくらって、良い響きだな…。」

鹿児島から岡山まで、3時間ちょっと。
いろいろな話で、あっという間に時間が過ぎ去る。
名残惜しい。

俺「俺は、岡山で乗り換えだから…元気でな!」
咲良「いや、私も一緒に降りる!」

咲良も新幹線を降りた。
途中下車して、岡山駅前でご飯を食べてから帰ることに。

俺「長旅で疲れてるだろ?1杯だけだぞ。」
咲良「大丈夫。もう次はいつ会えるかわからないんだから。ほんとは今日は帰さない!って言いたいところだけど、我慢するからさ。もう少しだけ、一緒にいて。」

瀬戸内海のママカリとタコを味わいながら、最後の時間を過ごす。

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俺「そろそろ終電だよ。さて、帰るぞ。」
咲良「…うん。」

岡山駅の改札を入る。

俺「じゃあ、またな。」
咲良「待って…おやすみのチューしてくれないと、帰らない。」
俺「…人前だぞ。恥ずかしいだろ。」
咲良「…してくれないと、帰らないから。」

天使でもあり、悪魔でもある。
柱の陰に隠れて、軽く口づけを交わす。

咲良「…そんなんじゃ、全然足りないよ。」
俺「もう…わがまま女。」

熱く、長い口づけを交わす。

咲良「…ありがとう。私、頑張って幸せになるから。」
俺「ああ、幸せになれよ。」

咲良の目から、一筋の涙がこぼれる。
いつか本当の幸せを手にして、咲良がさきますように。
そう祈って、もう一度最後の口づけを交わした。
口の中に広がる、咲良とのたくさんの思い出と記憶。
そして切なさ。
頬を伝って流れてきた涙が、少ししょっぱく感じた。

咲良がさきますように。



【第2−2話 徳島】 

咲良と別れ、岡山から瀬戸大橋を渡って徳島に帰る。
鹿児島のお土産は「かるかん」
家族に対する罪の意識から岡山でも「きびだんご」を買ってきた。
子供たちが喜ぶだろう。

咲良からのLINE。

「幸せな思い出をありがとう。もう、貴方には甘えないから。前を向いて歩いていきます。貴方も幸せに。」

返事は返さない。
咲良に会えたのは偶然であり、まさに奇跡。
咲良に会えて良かったのか?
それとも会えない方が良かったのか?
咲良が悪いんじゃない。
むしろ、悪いのは、俺だ。
結果として、彼女の弱さにつけこんだだけ。
彼女を幸せにすることなんて出来やしないのに。
運命のいたずらにしては、幸せも罪の意識も大きすぎる。

徳島に近づくにつれて、膨らんでいく罪悪感。
もう二度と咲良には会わない。
そして、二度と連絡も取らない。
愛しているのは妻だけだし、幸せにしてやれるのも妻だけだ。
そう覚悟を決めて、徳島駅に降り立った。

もう日付が変わろうとしている深夜。
家の鍵を開ける。
リビングに明かりがついている。
妻が起きている。

妻「出張お疲れさま。大変だったね。」
俺「ただいま。これ、お土産。」

コートを脱いで、着替える。

俺「なんかあった?子供たちは変わりなし?」
妻「大丈夫、いつも通りだよ。お風呂は入る?」
俺「うん、入るよ。」

風呂から上がり、妻をハグする。

俺「愛してるよ。」
妻「どうしたの?なんか悪いことでもしてきたの?」
俺「するわけないだろ。」
妻「たった一度の過ちだって、私は絶対に許さないんだから。」
俺「わかってる。俺を信じろ。」
妻「もう二度と会わないって覚悟決めたって、それで終わりに出来るなんて大間違い。」
俺「ああ、わかってるよ。」
妻「悪いことしたら、子供達に二度と会えなくなるんだから、忘れないでね。」

俺はこれから一生、重い十字架を背負っていかなければならないんだな…



【第2−3話 大阪】 

鹿児島出張。
岡山に立ち寄ったので、大阪のマンションに帰ったのは夜中。
興奮冷めやらず、なかなか寝付けなかった。
彼の優しさにすがっちゃった。
彼には大切な家庭があるんだから、甘えちゃダメって何度も自問したのに。
でも、誘惑に負けちゃった。
自分の弱さが身に染みる。

会社ではもう三十代後半で中堅になった。
旦那と別れてからは、女だからって気持ちで負けたくないので、いつも強がってきた。
キャリアウーマンとは聞こえはいいけど、華やかなようであって必死でもがきながら頑張ってる。
そんなバリバリ働く自分に酔いしれるときもあるけど、自分で選んだ道とは言え、やっぱり寂しい。
だから、私とちゃんと向き合ってくれる彼に甘えちゃうのかな。
反省。

でも、やっぱり思うの。
幸せって何なのかなって。
結婚や恋が女の全てじゃないってわかってるんだけど。
でも、心にポッカリ空いたままの穴は、誰かに、何かに埋めて欲しいのよ。
いつかいい人が見つかるよってみんなが軽いノリで言うけど。
私にとっては結構深刻なんだよ。
満たされない中でも、仕事は頑張り続けなければならないの。
充実しているような、でもやっぱり満たされないような、そんな毎日。

わかってる。
未来に向かって前向きに生きていかなければならないの。
でも、過去にすがってしまう。
彼と一緒にいるときは、やっぱり本音で甘えられるし幸せ。
早く彼のことは忘れないといけないのよね。

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過去の思い出だけではなくて、私は今でもきれいな花は咲いている。
まだまだ女盛りだもん。

公園の桜も、もうすぐ満開。
でも、今日は雨上がり。
雨上がりの桜は、雨の重みで花は下を向いている。
まるで私みたい。
この桜も、晴れてお日様が出てくれば、水滴も渇いて、上に向かって大きく花開く。
たぶん、昼過ぎにはきれいな桜が見頃になるはず。
私も、上に向かって、未来に向かって、堂々と大きく良い花を咲かせたい。
それがいつになるのかはわからないんだけど…

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いつか堂々と花を咲かせられるように、今を頑張るしかないよね。
未来をつくるのは、過去じゃなくて、今なんだから。
彼よりも、絶対に幸せになるって決めたんだから。

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(参考:シリーズもの)

<第1話はこちら>
 咲良がさくとき(鹿児島編)

<第2話はこちら>
 咲良がさくとき(岡山編)

<第3話はこちら>
 春が来るのはまだ遙か・・・(池袋編)

<第4話はこちら>
 春が来るのはまだ遙か・・・(浅草編)

<第5話はこちら>
 タブーの花が咲いてしまった(第5話)

<第6話はこちら>
 タブーの花が咲いてしまった(第6話)

<第7話はこちら>
 タブーの花が咲いてしまった(第7話)

<第8話はこちら>
 タブーの花が咲いてしまった(第8話)

<第9話はこちら>
 阿波で心も浮いてきた(第9話)

<第10話はこちら>
 阿波で心も浮いてきた(第10話)

<第11話はこちら>
 ワインの花がまだ開かなくても(第11話)

<第12話はこちら>
 ワインの花がまだ開かなくても(第12話)

<第13話はこちら>
 幸せは涙の中に咲いていく花(第13話)

<第14話はこちら>
 幸せは涙の中に咲いていく花(第14話)

<第15話はこちら>
 黒潮の雰囲気に流されて(第15話)



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2021年07月06日

働くということ(誰がために鐘は鳴る)

娘の中学の土曜公開授業に参加しました。

体育館で、テーマは「働くということ」

3人の社長が、仕事観だけではなく人生観を語る。

会社勤めを辞めて起業した社長、仲間たちと起業し会社を大きくした社長、親から引き継いだ会社を発展させた社長。

それぞれ中学生にもわかるような話が上手で、「誰かのためになりたい」「社会の役に立ちたい」という点が共通。

中学生向けの話でしたが、大人が聞いても興味深かった。

この話を聞いた中学生たちは、何を思ったか、そして何を感じたか。

親や先生などの旧世代の常識が通用しなくなる時代、何が正解かもわからないスピードで変化する社会において、充実して後悔しない人生を送ってほしいものです。

そんなことを思って、願って、過去のこの話を思い出しました。


『誰がために鐘は鳴る』 〜サラリーマンの物語〜

※この物語は、13年前に僕が書いた短編小説です。かけだし金融マンのblog(2008年2月(リンク))に掲載されているもののリメイクです。


<第1話>

今日もあいつの罵声が工場に鳴り響く。マジうざい。能力も人間的魅力もなく、けつの穴も小さいくせに、ゴマすりとおべんちゃらで出世を続け、今や本社の部長。いつも工場長や現場で働く俺たちに偉そうに怒鳴り散らし、自分は定時あがりで飲み会三昧。ホントいい身分だよな。

それに比べて工場長はすげえ。口は悪いしいろいろうるさいが、部下の生活や働きやすい環境のことをしっかり考えてくれていて、何より自分が率先してバリバリ働いてる。この人にならついていきたいと思えるほど男気たっぷり。

そんな部長と工場長はそりが合わない。部長は、工場長が言うことを聞かないので面白くない。工場長は、部長の言っていることが理不尽であり、部下を思うとそんな指示は到底受けられない。

まさに水と油。

そんな中、工場長が左遷されるという噂が僕の耳に入ってきた。


<第2話>

俺の名前はケンタ。社会人3年目。小さい頃から楽しく生きることがモットーで、学生時代はやんちゃばかり楽しい日々だった。でも、曲がったことが大嫌いで、人の気持ちとか、人と人とのふれ合いとか、そういうものは大切にしてきたつもりだ。特に、大学時代にアメフトというスポーツを通じて得た経験と出会った仲間たちのおかけで、本当に大切なものは何かってことに気付くことが出来た。

で、今は某メーカーの会社に就職して3年目。工場に配属されて、ヘルメットをかぶり作業服を着ながら、現場のおっちゃんに怒られたり、どなられたりしながらもうまく連携をとり、事務やら、企画やら、運営やらを頑張っている毎日。

就職活動では、大手都銀とかからも内定をもらっていたけど、銀行なんかよりメーカーの方が、人情味があるというか、泥臭いというか、なんか人と人とのふれ合いがありそうと思ったから今の会社を選んだ。ヘルメットだってアメフトで慣れっこだし、作業着を着て現場に出れるってのも、俺にぴったりな感じだと思う。

それに、工場長も男気があり、人間の温かみを感じさせてくれる人だから、今の環境でバリバリ頑張ろうって、そんな生活を送っていた。

そんな矢先に、工場長が異動でどこかに飛ばされるなんて噂が流れてきた。
まさか。。。


<第3話>

「あなた、お風呂が沸いてるわよ。最近お疲れみたいね。温まってゆっくり休んでください。」台所から妻の声が聞こえる。

子供たちは無事に独立して、今は妻と二人暮らし。俺がこうして工場長になることが出来たのも、子供たちが無事に大人になることが出来たのも、全ては妻のおかげだ。

それは俺だけじゃない。工場で働くみんなにも、支えてくれる妻や、生きがいを与えてくれる子供たちなど、守らなければならない家族が存在するのだ。

最近、部長が進めようとしている「工場合理化計画」。合理化計画という名のリストラ、首切り。たしかに、3年前までは不採算部門で会社の足を引っ張ってはいたが、中期改善計画のもと前期は黒字回復。そして今期も黒字見込み。もう不採算部門などではない。

俺も工場長になって5年。前社長の意思を受け継ぎ、現場の前面に出て、率先して中期計画を実現してきた。工場のみんなも一生懸命頑張ってくれた。やっと軌道に乗り、さあこれからっていう時に。結果も出しているのに。理不尽な首切りなど、納得なんか出来るわけがない。そして何より、頑張ってくれている工場のみんな。口が悪かったり、不器用だったり、いろいろな人がいるが、不採算部門を黒字化するために、一生懸命頑張ってくれた。その結果として、工場の今がある。

工場のためにも、工場で働く人々のためにも、工場で働く人々が支えていかなければならない家族のためにも、俺は、この「合理化計画」という名の首切りを、絶対に阻止しなければならない。断固、反対する!!

そんな俺に、部長からの呼び出しがかかった。


<第4話>

都内の某小料理屋。「工場縮小計画。成功すれば、お前も取締役の仲間入りだな。」お酒も入り饒舌な専務が俺に伝える。業績不振で前社長が引責辞任したのは3年前。社長交代により、新社長−専務ラインの派閥の俺も、専務の計らいで事業部長へと順調に昇進。そして、今、目の前には取締役就任への道が開け始めている。これも全て専務のおかげだ。

前社長の象徴とも言えるあの工場を大幅に縮小し、前社長の息のかかった人を失脚させ、前社長の色を全て無くすこと。それは専務、ひいては新社長の意向。そしてそれが、俺の出世の条件。人事部への根回しも済んでおり、あとは後任の工場長には俺の息のかかった部下を送り込み、工場で大幅なリストラを決行するだけ。計画に問題ない。

「そろそろ実行に移す時期だな。」環八を走るタクシーの中で、俺の決意は固まった。

取締役まで、後一歩。


<第5話>

『これからの時代は国内から海外へ。我が社も生産拠点をアジアへシフトすることが必要だ。君の工場での実績は高く評価している。君の力を、我が社のアジア進出に生かすため、是非海外調査室で頑張ってもらいたい。』

人事部から呼ばれた後、事業部長から話があった。

君の実績を高く評価している、だと。とんだ狸め。だが人事部まで根回ししているとなると、どうやら俺の異動は揺るがないようだ。海外調査室か。事実上の左遷であることは誰の目にも明らかだ。たしかに、国内生産でコスト競争を勝ち抜くのは難しい。工場にもさらなる効率化が求められるのも当然だ。人員削減を含めたリストラクチャリングの必要性もやむを得ない。ただし、削減すべき人員は工場だけではなく、むしろ役員や本社にこそあり、見直し再構築すべきものは、役員や部長などの心構えにこそあろう。

長かった工場勤務の終わりが現実味を帯びてきたが、工場とその従業員の未来は閉ざしてはいけない。


<第6話>

『おい、ケンタ。ちょっと飲みに行くぞ。』 上司の課長に連れられ、居酒屋の暖簾をくぐる。

『お前、今日はいったいどうしたんだ。何ずっとふてくされてるんだよ。』
バイトと思われる店員さんが、ふてくされている俺とは対照的な笑顔で、生中2杯を運んできた。

『だって、工場長の左遷と工場の縮小なんて納得出来ないッスよ。』
ジョッキーの1/3程を流し込む。

『たしかに工場長の左遷はデメリットが多いが、工場の縮小は今の情勢を考えるとやむを得ない面もある。ケンタだってそれくらいわかってるだろ。』
笑顔がキュートな店員さんが枝豆とたこわさを運んでくる。バイトの女子大生だろうか。

『でも、工場長がいるから工場がうまくいってるのに。頑張っていて部下の信頼も厚くて、そんな人が左遷させられ、人望がないのに世渡り上手なだけで出世するなんて、そんなの絶対におかしいッスよ。何のために毎日頑張ってるのか、こんな会社にいていいのか、なんかわかんなくなってきました。』
串焼きを運んでくれたさっきのお姉さんに、生ビールのお代わりを注文する。キュートな笑顔が、大学時代のマネージャーのミキちゃんに似ている。

頑張っていたあの頃の記憶が蘇る。


<第7話>

大学4年の時、俺はアメフト部のキャプテンだった。今だから言えるが、キャプテンとしての自覚と責任は並大抵のものではなかった。ただ、キャプテンを任される以上、それは当然だった。

お金目当てではなく、私利私欲のためでもなく、自分のために、仲間のために、そしてチームのために、大学生活という貴重な時間を捧げてくれる大切な仲間達。絶対に裏切ってはいけない存在。

そんな仲間達みんなの想いを背負って、キャプテンとしての決断をしていかなければならない。明確なビジョンと、それを実現する具体的なイメージを示しながら。たかだか50人ちょっとの部活のキャプテンでさえそうなんだから、みんなの生活や将来をも背負いながら、みんなから慕われ続けたあの工場長の苦労は計り知れない。

はたして事業部長や新しい工場長は、いったいどれほどのものを背負ってくれているのか。僕たち部下に対して、どれだけ責任を感じてくれているのだろうか。不安は尽きない。

会話を続けながらも、いつの間にか、課長はビールから熱燗へと変わっていた。


<第8話>

熱燗をやりながら、課長がしんみり語り始めた。

『俺たちも入社したての頃は、やってやろうじゃねぇかと、熱いハートを持った仲間が多かったな。ケンタを見てると思い出すよ。』
ナスの浅漬けをつまんでいる課長の顔に笑みが浮かぶ。

『課長が入社した頃って、高度経済成長の時代ッスか?』

『バカやろう。俺がそんなに老けて見えるか?俺なんてついこないだも、30代かと思ったぁ〜、って言われたんだぞ。池袋のキャバクラの○×△□。。。おい、何冷たい目で見てるんだよケンタ。冗談に決まってるだろ。』
軽く無視してミキちゃん似の店員さんにハイボールを注文する。

『でもうちの会社も当時はすごい勢いだった。技術革新やらなにやらで、現場だけでなく営業や事務方でも、モノづくりの誇りを感じていられたんだ。多分、会社や仕事に夢を持つことが出来たから、出世や保身なんか考えなくとも良かったのかもしれないな。』
ハイボールの炭酸とともに、複雑な想いが胃を通じて体に響く。


<第9話>

『まあ、ケンタの言いたいことも理解出来る。そして、時代背景や経済情勢が大きく変わり、会社も右肩上がりではなくなったことも要因の1つだ。それで、お前はどうするんだ?ふてくされたままでいいのか?』
課長はいつになく真剣な眼差しだ。

『今回の会社の方針は到底納得なんか出来ません。新しい工場長にも会ったことありませんし。と言っても期待なんかしてないっすけど。課長のおかげでちょっとは頭が冷めました。馬鹿なことはしないから安心してください。モチベーションをあげるのは難しそうだけど、工場のためになんとか頑張ります。』
周りのテーブルのサラリーマン達も、ボチボチ切り上げる時間帯だ。

『ケンタ。俺たちサラリーマンは所詮仕えの身だ。だが誇りを持って、強い心を持って頑張らなきゃいかん。社会や会社の中で、汚い部分やヒドい部分が見えるときもある。そんな時も心を折るな。強い心で頑張れ。そして、今ケンタが抱いているような感情を忘れないで、お前ら若い世代がこの会社を変えていくんだ。だからくじけるな。』

酒が入っているせいか、課長の言葉で体が熱くなっていた。


<第10話>

『ご馳走さまでした。今日はいろいろありがとうございました。』
そう言って僕は課長と別れ、帰りの電車に揺られている。

課長とは色々な話をすることが出来、事実僕の心は落ち着きを取り戻しつつあった。たしかに今の俺の力では、何も変えることなど出来ないし、誰も守ることなど出来やしない。だが、真面目に一生懸命働いている人達が同じ目にあわないように、希望を持って入社してくる後輩達が同じ思いをしないように、俺は知識と経験を積み、モノを言える力をつけていくしかないんだろうな。

『長く遠い道のりだな。』
つり革に掴まりながら、独りつぶやく。周りには仕事帰りのサラリーマンやOLばかり。くたびれている姿もあれば、赤ら顔でご機嫌な姿もある。窓に映る僕の顔は、やや疲れてはいるけれども、目はまだまだ死んではいない。

駅からアパートまでの帰り道。夜空を見上げると、東京にも、北海道と同じ月が顔を出していた。
『窓にうつる 哀れな自分が 愛おしくもある この頃では 僕は僕のままで 譲れぬ夢を抱えて どこまでも歩き続けてゆくよ いいだろう? Mr.myself?』
ミスチルを口ずさみながら、僕の心は明日に向かっていた。


<第11話>

『これは本社からの指示であり、社長の意向である。』 
新しい工場長がやって来た。

あだ名は「イエスさん」。目上だけに忠実だという意味のイエスマンと、イニシャルのSさんが合わさったらしい。イニシャルではなく、部下を苛めて喜ぶからSさんと呼ばれているという説もある。まあそんなあだ名のとおりの男だ。そしてもちろん事業部長の忠実な飼い犬でもある。

『今、工場に求められていることは、コスト削減と人員削減である。いかにスムーズに工場を縮小出来るかということを第一に意識して欲しい。本社の指示通り動いてくれればそれなりの待遇が待っている。本社の方針に従わない者は、リストラの最有力候補とせざるを得ない。』 
リストラの言葉を発しながら、薄気味悪い笑みを浮かべている。

『何がリストラだ。無能な管理職を削減することが先だろ。一番最初がお前だよ。』 
と心の中で呟いた。

本社の指示に忠実な者が出世する構造。その指示が正しいか正しくないかの判断はいらない。YESと言えば、出世の階段に残り、NOと言えば、出世の階段から蹴落とされる。それが歪んだ組織の秩序であり、道徳とされている。

『こうして世界は回っていくんだ。』 
青空を見上げながら、ケンタのため息が、雲に向かって上っていく。


<第12話>

イエスさん(新しい工場長)の言葉は俺の心に響かない。前の工場長の言葉が懐かしく思い出される。

『いいかケンタ。なんでお前みたいな大卒を工場に配属させるかわかるか?よく考えてみろ?』 
そんなことも言われたっけ。

『モノづくりには、生産技術が大切なんだ。これを使ってくれる人のために、いかに良いものを、いかに早く、いかに安く作れるか、それを考えるのが俺たちプロの仕事だ。モノづくりのプロを育てるには、大学の知識なんか役に立たない。工場で何が起きているか、現場を肌で感じてもらうのがまず第1だ。だから最初は、工場なんだ。プロへの第一歩、しっかり頑張れよ。』 

たぶんこの言葉は、自分への激励の言葉だったに違いない。3ヶ月の新人研修を終え、本社や大規模支社に配属される同期がいる一方で、工場勤務を言い渡され、軽く落ち込んでいた自分に対する励ましの言葉だった。

次代を担う若い世代の気持ちを汲み取ってくれて、さりげない激励の言葉をかけてくれる心遣い。その優しさが、3年たった今でも、俺の心に響き続けている。

そうだ、俺は、工場(ここ)で頑張らなければならないんだ。前に向かって進むしかない。


<第13話>

今日も一日仕事を頑張った。

『ケンタさん、飲み行きましょうよ。たまには事務のかおりちゃんも誘って。』 
新人のジュンペイが飲みに誘ってきた。

『そうだな。よし、パーッと行くぞ。』 
ジュンペイとかおりちゃんと3人で、アジアンダイニングへ向かった。

生春巻やフォーなどでお腹も膨れてきた頃、
『なんか最近、工場の雰囲気が良くないですよね。空気が重いっていうか。』 
かおりちゃんが寂しげな目で訴える。

『全部アイツのせいですよ。トップが代わると、こうも見事に組織がおかしくなるんですね。』 
ジュンペイもいろんな思いをぶちまける。

『そうだな。あんなにやる気をそぐ人なんてあんまりいないよな。って酒が不味くなるじゃねぇか。俺らは俺らで楽しく仕事を頑張ろうぜ。』 
言ってみたものの、不平不満は渦巻いているようだ。

そんな時は、楽しく飲むに限る。というわけで、カラオケに場所を変え、ジュンペイと肩を組みながら3人で『明日があるさ』を熱唱。

これからも頑張り続ける自分と、ともに頑張っていく仲間達に、未来があることを本当に信じたい。

『あ〜楽しかったね。ストレス発散。』 
かおりちゃんもご満悦の様子。

『じゃあ帰りは気をつけてね〜。』 
とかおりちゃんを見送り、ジュンペイと繁華街にきびすを返す。

『ケンタさん、仕事でいろいろ嫌なことも多いっすけど、ホントこういう仲間って大切ですね。僕ちょっとモチベーション下がりっぱなしでしたけど、頑張ろうって気になってきましたよ。』 
酒だけじゃなく、自分にも酔い始めたようだ。

俺も熱く語りかける。 『人生はな・・・・。』


<第14話>

お互い心地良い酔い加減の中、俺はジュンペイに語りかける。

『人生はな、必ずしも平等とは限らない。今回みたいに不運な状況に陥ることも多い。嘆いていればいいのか、恨めばいいのか、それとも逃げればいいのか。』

『僕ならとりあえずやけ酒っすよ』 
ジュンペイが応える。

『まあたまにはいいよな。でもそればっかりじゃ悲しいだろ。何事も、今おかれている環境のせいにしちゃいけない。言い訳したくもなるし、恨み辛みもある。となりの芝生だって青く見えるからな。でも、格好いい生き方ってゆうのは、どんな環境だろうと、与えられた環境の中で、精一杯努力し、常に前を向いている、そんな生き方なんじゃね〜かな。』 
ヒートアップして、さらに体が熱くなる。

『そうっすね。周りの環境とかじゃなく、要は自分がどれだけ出来るかってことですよね。自分との戦い。なんか超ヤバいっすね。ケンタさんどんだけヤバいっすか。』 
ジュンペイの気分の高揚が、言葉を意味不明に変えてゆく。

『そうだ。人や周りに惑わされるな。自分の信念を貫け。やってやろうじゃねぇか。』 
繁華街で拳を握りしめるスーツ姿の若造2人が、明日の日本経済を支える。

『ケンタさん、俺、明日から超〜頑張りますよ。今日の俺なんてバイバイ、常に今の自分を超え続けてやる。信念を貫きます。』 
いつになく頼もしい後輩の姿。

『熱く語り合える仲間って、最高だな。』 
俺も清々しい気分だ。

『先輩、俺、信念を貫きます。だから、明日から頑張るために、ちょっとキャバクラ行きたいっス。この前、課長に連れてってもらったとこ。』 
ジュンペイの目が爛々と輝いている。

『しょうがねぇな。割り勘だぞ。』 
繁華街で拳を握りしめるスーツ姿の若造2人が、今日の夜の経済をも支えている。


<第15話>

前工場長のもと積み上げられてきたものが、新しい工場長により取り崩されていく現実。悪に立ち向かう正義が現れるのがドラマや小説の世界だが、そう上手くは行かないのが現実。

物事は、新しい工場長の思い通りに進んでいった。社員や作業員だけではなく、パート、派遣社員も削減されていく。取引先や下請け業者への影響も計り知れない。この大きな犠牲を、経営陣はどう考えているのか。断腸の思い、忸怩たる思いの上の経営判断だと信じたい。そうでなければ、犠牲者達は報われない。派閥争いや保身、私利私欲のための犠牲であれば、許されたものではない。

そして僕らも、今後は中堅社員として、やがては管理職として、我が社を支える歯車の1つとなっていく。その過程で、このような大きな犠牲があったこと、その上で会社の今があることを、決して忘れることなく、胸に刻み込まなければならない。それが残された者達の使命。

こんな会社、辞めようかとも考えた。でもこの使命感を抱きながら、まだまだ頑張っていかなければならない、そう意識は変わっていった。

そして、人事異動の時期がやってきた。思いもかけない異動が発表された。


<第16話>

新しい工場長が赴任してから3ヶ月。工場長の異動は例外的に行われたものであり、今回通常の人事異動の季節がやってきた。社内食堂でジュンペイと昼飯を食べながら、そんな話題が湧き上がった。

『そろそろ異動の季節ですよね。なんかソワソワしちゃいますね。』 
今日の日替わりランチはサバ味噌煮定食。
ご飯いっぱい口にほうばりながら、ジュンペイが話してきた。

『何言ってるんだよ。お前はまだ来たばかりの新人だろ。お前の異動なんかあるわけねーよ。』 
同じ日替わりを食いながら俺は返した。

『そうですけど。人事なんて何が起こるかわからないっスよ。新人だろうが何だろうが、でもそんなの関係ねぇ!!オッパッピーっすよ。』 
この前言ったキャバクラでちょっとモノマネがウケたからって、ジュンペイは最近そればっかだ。。。

『人事はどこまで考えてくれてるんだろうな。一人一人の人事異動なんて全体から見れば取るに足らないことだけど、当事者にしてみれば一大事だからな。』 
血と心の通った人事を行って欲しい。

そんな会話をした数日後、俺とジュンペイの直属の上司である課長に人事異動がなされた。

課長は、本社人事部へ栄転することとなった。


<第17話>

『課長ご栄転おめでとうございま〜す。』

『お−。みんなありがと−。』 
みんなの酌を受けて泥酔状態の課長が、相変わらずの低く渋い声で応えてくれる。もう何回目の乾杯だろうか。

今日は課長の送別会。で、こじんまりとした居酒屋で3次会のスタート。普段から仲のいい5人での3次会だ。

『課長〜、キャバクラのナオミちゃんは、ちゃんと僕に引き継いでくださいよ〜。』
 こっちも完全に出来上がっているジュンペイがそんなネタで絡んでゆく。

『人事に行ったら、まずはあのイエスの野郎をぶっ飛ばしてくださいよ。マジお願いします。』 
主任の先輩も工場長が到底許せないようだ。

『会社の成長は社員なしには語れない。人事とは、社員一人一人がモチベーションを高め、常に上昇志向を持って働ける環境を作り上げることだ。そしてそれが会社の経営戦略達成につながる。今の工場をみると、モチベーションを高めるのが難しい環境だよな。まあいろいろな経営判断の上のことだとは思うが。』 
課長が熱燗を空けるスピードは止まらない。

『たしかに新しい工場長を置いた人事が正しかったのかどうかは、会社全体の今後の業績などをみなければわかりませんが、一つの人事がこれだけ社員のやる気を削いでいるという事実だけは、人事にもちゃんと伝えてもらいたいです。』 
普段おとなしい先輩もこのことについては譲れないようだ。

『でも課長みたいにちゃんと部下のことを考えてくれる人が人事に行くのは、会社全体としてみれば大きなプラスですよね。課長、期待してますよ。』 
俺は本心からそう思う。

『お前らの気持ちは痛いほど分かる。俺にどれだけ力があるかはわからないが、この経験を生かして頑張るつもりだ。お前らもしっかり頑張ってくれよな。』 
課長から一人一人に言葉が贈られる。

言う方も言われる方も泥酔状態だが、
『ケンタ、お前は人の心がわかる男だ。その心を忘れるなよ。そして絶対に偉くなれよ。』 
この言葉は忘れない。

『ジュンペイ、お前にはナオミちゃんはまだ早い。ナオミちゃんを振り向かせるくらい、仕事頑張ってカッコいい男になれよ。』 
たぶん、この言葉も忘れない。

こうして思い出話に花を咲かせた。


<第18話>

工場長が異動でいなくなり、課長も異動でいなくなった。そして工場の生産ラインが縮小し、ここで働く人も減っていった。それでも時は流れる。工場も動き続ける。毎日始業の鐘は鳴り、毎日終業の鐘も鳴る。

工場長が飛ばされるのを知った時、誰のために働くのか、なんのために頑張るのか、それがわからなくなった。

そんなこともあった。

工場長は相変わらずだが、新しい課長も頼りがいのあるタイプで、また違った観点から俺を指導してくれている。ジュンペイにも後輩が出来、持ち前のエネルギーでバリバリ突っ走っている。

誰のために働くのか?
『汝がために鐘は鳴る』とも言い切れない。『それは私』とスズメも言わない。

働く理由なんて人それぞれ。答えもなければ、正確もない。家族のためだっていい。自分のためだって。夢のためだって。ナオミちゃんのためだっていい。

きっと答えは1つじゃない。

そう冷静に受けとめてしまった俺。大人になったからなのか。成長したからなのか。これは進化なのか。それとも退化なのか。

Regress ? or  Progress ?


<第19話>

人事部の課長のもとへ、前工場長がやって来た。
「やあ、ご栄転おめでとう。本社はどうだい?」
課長は立ち上がり、前工場長を迎える。

「ご無沙汰していました。お元気そうで何よりです。」

「実はな、早期退職制度を利用しようかと思っているんだ。」 
工場にいた頃よりは穏やかな顔をしている。

「知り合いのちょっとした小さな工場で働かないかと話があり、家からも近いし、前向きに話を進めていこうかなんて考えている。」 
やはり、人事異動の傷は癒えないんだろうか。

「あれからいろんなことを考えたよ。辛く悲しい思いももちろんした。でも、大切なことを気付かせてくれた。」 課長は完全に聞き手にまわっている。

「どうだ?やっぱり俺は出世ラインから外れた負け組みにしか見えないか?」 
笑いながら前工場長は続ける。
「仕事は、わがままも許してもらったし、自分の好きなようにやらせてもらうことが出来て、本当に満足している。この年にもなって、他人の評価が全てで一喜一憂するなんて寂しい人生じゃないか。自分の信念を貫いて今までやってきて本当に良かったと思っている。そして工場長としていい仲間たちに囲まれて、これ以上の贅沢はあるか?俺は胸をはって会社を辞めれるよ。俺は頑張ったってな。これからも、新しい現場でバリバリ頑張るさ。君とか、工場のケンタとか熱いハートの男には、後悔しない充実した仕事と人生を歩んでもらいたい。信念と誇りをもって、楽しかったと胸をはれるよう頑張って、この会社を支えていって欲しいと思うよ。老兵は去るのみ。頑張ってくれ。みんなによろしくな。」 
そう言って、前工場長はこの部屋を後にした。

俺は、数週間後に課長の口から聞いた。さすが男だなって率直に思った。ジュンペイもわかってんだかわかってないんだかよくわからないが、「格好いいっスね」と口にしていた。

俺は、それから前工場長に会うことはなかった。でも、前工場長は工場にいろいろなモノを残していった。一緒に働くことが出来たのはわずかだが、俺の心の中にもたくさんのモノが残っている。

「胸をはって辞められる」という言葉の意味を深く感じる。それは、時をかけて、社会をめぐって、次代に引き継がれ、そうして誰かの心に伝わっていく。そうして時代に刻まれてゆく。

そのために、鐘は鳴っているのかもしれない。


<第20話>

若さと元気だけが取り柄だったジュンペイも、今では一人前に仕事をこなしている。大きな仕事も少しずつ任されるようになってきた。そして、仕事の質と量の増加とともに、苦労や責任も少しずつ増え、時には大きな壁にぶち当たったりしているようだ。

定食屋で晩飯を食いながら、ジュンペイが聞いてきた。

『ケンタさん、工場長がかわるときに、何のために働くのかわかんなくなったって言ってましたよね。答えは出たんですか?』

『答えなんてないんだよ。ないと言うか、なくてもいいじゃんみたいな。』

『僕も最近ツラいなとか空しいなとか、たまに何で頑張ってるのかわかんなくなったりしますよ。そんな時は何で頑張ってるんだろうとか悩んだりしちゃいます。同じだなと思って。』

『仕事がうまくいってる時は、きっとそんなこと考えずにバリバリ働いていて、仕事だって仕事以外だって充実した時間を過ごしていて、そんなこと考えたりしないんじゃないかな。仕事でつまずいたり、上司や同僚と合わなかったり、仕事が上手くいってない時に、何で頑張ってるのかとか、何のために働いてるのかとか、何かのきっかけを見つけたくて、そんなこと考えたりするんじゃないかなと思って。』

僕たちを走らせている無数のもの 
夢だったり目標だったり 
誇りだったり信念だったり 
家族だったり仲間だったり 
楽しみだったり趣味だったり 
振り返ればいろんなものが集まって 僕てちの背中を押してくれているはず

でも辛い時や苦しい時に それらに気がつかないで ふと立ち止まって考えてしまう 何のために走っているのか

ナンノタメニガンバッテイルノカ

理由が欲しくて きっかけが欲しくて 僕らは悩み苦悩する

でもいろんなものが背中を押してくれていることに気付き 僕らはまた走り出す 
そうして世界は回っている

『答えなんか見つからなくても、そうやって悩んで、壁にぶち当たって、また頑張っていけばいい。辛い時は泣いてもいいし、飲んでもいいし、無理する必要なんかないよ。』 
こう言いながらジュンペイがまた成長の階段を一歩ずつ登っていくのを俺は喜んでいた。

『ケンタさん。そうですね。今は辛いけど乗り越えなきゃならない壁ですよね。乗り越えた先にはまた一歩成長した俺が待っているから。』

『そうだ。頑張れよ。みんな期待しているんだから。』

『ケンタさん、辛い時は泣いても飲んでもいいんですよね。』

『ああ、リフレッシュして明日の活力を生むのも大切だからな。』

『じゃあ、これからナオミちゃんの店行きましょう。可愛い後輩の明日の活力のためですよ、先輩。』 
こうして夜が更けてゆき、また明日が始まってゆく。

課長も、工場長も、部長もみんな、こうして壁にぶち当たって、成長していったはず。

僕らも同じように成長の階段を登ってゆく。出世して歴史に名を残す人も入れば、心や技術を伝承して後世に名を残す人もいる。目指すべきものは、人それぞれ。何のために働くのか、それも人それぞれ。

でも誇りと信念を大切に、明日へ生きるサラリーマン物語。

ケンタとジュンペイを代表する世代の未来に期待して。(完)


<epilogue>

ここは別世界。小さい頃、東京ディズニーランドに行った時に、ここは別世界、まるでファンタジー、なんて体験をした時のように、俺は今ここで素晴らしい体験をしている。

そう、ここは別世界、大人のファンタジー、in キャバクラ。

『ジュンペイくんお疲れ〜』

『うぃ〜』 
水割りのグラスが重なり合う。

『会社という戦場でひたすら戦い続ける俺。この俺の心の隙間を埋めてくれるもの。それがナオミちゃん。君の瞳と笑顔だ。』

『もうジュンペイくんったら口が上手いんだから〜。』

『本当だってば。俺もようやく1人で仕事任されるようになってさ、嬉しいしやりがいあるんだけど、やっぱ責任も大きいし俺もまだまだ未熟で毎日大変なわけ。何のためにこんなに頑張ってんだろうとか悩みも多いしさ。どんだけナオミちゃんに癒されてるかわかってる?もうどんだけ〜。』

『そうなんだ〜。ありがとう。ジュンペイくんの真面目に頑張ってる姿とかも見てみたいな。』 

この別世界とも言える時間と空間が、お酒とともにいろいろなモノを忘れさせてくれる。

『ナオミちゃんはさ、何で毎日頑張れるの?』

『う〜ん。やっぱり私に逢いに来てくれる人がたくさんいるのも嬉しいし、私と話して楽しかったとか元気が出たとか、喜んでくれる顔を見れるのが一番かな。凄く励みになるよ。もちろんジュンペイくんの言葉もね。』

『そうだね。僕も上司の評価とか抜きに、お客さんや取引先の笑顔、仲間達の感謝の言葉、自分の中の達成感、いろいろ励みになることも多いな。もちろん一番励みになるのはナオミちゃんの笑顔だけど。』

『もうジュンペイくんったら、まともなこと言ってるようですぐからかうんだから〜。』 
彼女の笑顔が僕を幸せする。

僕の幸せが笑顔をつくり、また誰かが幸せになる。

僕のした一つの仕事が また新らしい何かを生み出し 新しい何かを作り上げてゆく

僕のした一つの仕事が この世界を回り回って また誰かを幸せにして 誰かの笑顔を生み出している

そうして世界は回っている

ナオミちゃんの笑顔が僕を幸せにし 僕の仕事が誰かを幸せにしその誰かがまた新しい誰かを幸せにする

それはサラリーマンだって 政治家だって キャバクラ嬢だって ラーメン屋さんだって 主婦だって 誰かを幸せにして 誰かに幸せをもらっているのは 生きている限りみんな同じ

誰かを支え 誰かに支えられ 僕らはまた生きていく

こんな僕でも 誰かを幸せにすることが出来るんだね 
そう信じて 明日も頑張ろう。

(久しぶりに読み返したけど、結構面白かったなぁ)

kou_blue97 at 20:59|PermalinkComments(0)

2018年10月27日

誰がために鐘は鳴る(remake版)

『誰がために鐘は鳴る』 〜サラリーマンの物語〜

※この物語は、10年前に僕が書いた短編小説です。かけだし金融マンのblog(2008年2月(リンク))に掲載されているもののリメイクです。



<第1話>

今日もあいつの罵声が工場に鳴り響く。マジうざい。能力も人間的魅力もなく、けつの穴も小さいくせに、ゴマすりとおべんちゃらで出世を続け、今や本社の部長。いつも工場長や現場で働く俺たちに偉そうに怒鳴り散らし、自分は定時あがりで飲み会三昧。ホントいい身分だよな。

それに比べて工場長はすげえ。口は悪いしいろいろうるさいが、部下の生活や働きやすい環境のことをしっかり考えてくれていて、何より自分が率先してバリバリ働いてる。この人にならついていきたいと思えるほど男気たっぷり。

そんな部長と工場長はそりが合わない。部長は、工場長が言うことを聞かないので面白くない。工場長は、部長の言っていることが理不尽であり、部下を思うとそんな指示は到底受けられない。

まさに水と油。

そんな中、工場長が左遷されるという噂が僕の耳に入ってきた。


<第2話>

俺の名前はケンタ。社会人3年目。小さい頃から楽しく生きることがモットーで、学生時代はやんちゃばかり楽しい日々だった。でも、曲がったことが大嫌いで、人の気持ちとか、人と人とのふれ合いとか、そういうものは大切にしてきたつもりだ。特に、大学時代にアメフトというスポーツを通じて得た経験と出会った仲間たちのおかけで、本当に大切なものは何かってことに気付くことが出来た。

で、今は某メーカーの会社に就職して3年目。工場に配属されて、ヘルメットをかぶり作業服を着ながら、現場のおっちゃんに怒られたり、どなられたりしながらもうまく連携をとり、事務やら、企画やら、運営やらを頑張っている毎日。

就職活動では、大手都銀とかからも内定をもらっていたけど、銀行なんかよりメーカーの方が、人情味があるというか、泥臭いというか、なんか人と人とのふれ合いがありそうと思ったから今の会社を選んだ。ヘルメットだってアメフトで慣れっこだし、作業着を着て現場に出れるってのも、俺にぴったりな感じだと思う。

それに、工場長も男気があり、人間の温かみを感じさせてくれる人だから、今の環境でバリバリ頑張ろうって、そんな生活を送っていた。

そんな矢先に、工場長が異動でどこかに飛ばされるなんて噂が流れてきた。
まさか。。。


<第3話>

「あなた、お風呂が沸いてるわよ。最近お疲れみたいね。温まってゆっくり休んでください。」台所から妻の声が聞こえる。

子供たちは無事に独立して、今は妻と二人暮らし。俺がこうして工場長になることが出来たのも、子供たちが無事に大人になることが出来たのも、全ては妻のおかげだ。

それは俺だけじゃない。工場で働くみんなにも、支えてくれる妻や、生きがいを与えてくれる子供たちなど、守らなければならない家族が存在するのだ。

最近、部長が進めようとしている「工場合理化計画」。合理化計画という名のリストラ、首切り。たしかに、3年前までは不採算部門で会社の足を引っ張ってはいたが、中期改善計画のもと前期は黒字回復。そして今期も黒字見込み。もう不採算部門などではない。

俺も工場長になって5年。前社長の意思を受け継ぎ、現場の前面に出て、率先して中期計画を実現してきた。工場のみんなも一生懸命頑張ってくれた。やっと軌道に乗り、さあこれからっていう時に。結果も出しているのに。理不尽な首切りなど、納得なんか出来るわけがない。そして何より、頑張ってくれている工場のみんな。口が悪かったり、不器用だったり、いろいろな人がいるが、不採算部門を黒字化するために、一生懸命頑張ってくれた。その結果として、工場の今がある。

工場のためにも、工場で働く人々のためにも、工場で働く人々が支えていかなければならない家族のためにも、俺は、この「合理化計画」という名の首切りを、絶対に阻止しなければならない。断固、反対する!!

そんな俺に、部長からの呼び出しがかかった。


<第4話>

都内の某小料理屋。「工場縮小計画。成功すれば、お前も取締役の仲間入りだな。」お酒も入り饒舌な専務が俺に伝える。業績不振で前社長が引責辞任したのは3年前。社長交代により、新社長−専務ラインの派閥の俺も、専務の計らいで事業部長へと順調に昇進。そして、今、目の前には取締役就任への道が開け始めている。これも全て専務のおかげだ。

前社長の象徴とも言えるあの工場を大幅に縮小し、前社長の息のかかった人を失脚させ、前社長の色を全て無くすこと。それは専務、ひいては新社長の意向。そしてそれが、俺の出世の条件。人事部への根回しも済んでおり、あとは後任の工場長には俺の息のかかった部下を送り込み、工場で大幅なリストラを決行するだけ。計画に問題ない。

「そろそろ実行に移す時期だな。」環八を走るタクシーの中で、俺の決意は固まった。

取締役まで、後一歩。


<第5話>

『これからの時代は国内から海外へ。我が社も生産拠点をアジアへシフトすることが必要だ。君の工場での実績は高く評価している。君の力を、我が社のアジア進出に生かすため、是非海外調査室で頑張ってもらいたい。』

人事部から呼ばれた後、事業部長から話があった。

君の実績を高く評価している、だと。とんだ狸め。だが人事部まで根回ししているとなると、どうやら俺の異動は揺るがないようだ。海外調査室か。事実上の左遷であることは誰の目にも明らかだ。たしかに、国内生産でコスト競争を勝ち抜くのは難しい。工場にもさらなる効率化が求められるのも当然だ。人員削減を含めたリストラクチャリングの必要性もやむを得ない。ただし、削減すべき人員は工場だけではなく、むしろ役員や本社にこそあり、見直し再構築すべきものは、役員や部長などの心構えにこそあろう。

長かった工場勤務の終わりが現実味を帯びてきたが、工場とその従業員の未来は閉ざしてはいけない。


<第6話>

『おい、ケンタ。ちょっと飲みに行くぞ。』 上司の課長に連れられ、居酒屋の暖簾をくぐる。

『お前、今日はいったいどうしたんだ。何ずっとふてくされてるんだよ。』
バイトと思われる店員さんが、ふてくされている俺とは対照的な笑顔で、生中2杯を運んできた。

『だって、工場長の左遷と工場の縮小なんて納得出来ないッスよ。』
ジョッキーの1/3程を流し込む。

『たしかに工場長の左遷はデメリットが多いが、工場の縮小は今の情勢を考えるとやむを得ない面もある。ケンタだってそれくらいわかってるだろ。』
笑顔がキュートな店員さんが枝豆とたこわさを運んでくる。バイトの女子大生だろうか。

『でも、工場長がいるから工場がうまくいってるのに。頑張っていて部下の信頼も厚くて、そんな人が左遷させられ、人望がないのに世渡り上手なだけで出世するなんて、そんなの絶対におかしいッスよ。何のために毎日頑張ってるのか、こんな会社にいていいのか、なんかわかんなくなってきました。』
串焼きを運んでくれたさっきのお姉さんに、生ビールのお代わりを注文する。キュートな笑顔が、大学時代のマネージャーのミキちゃんに似ている。

頑張っていたあの頃の記憶が蘇る。


<第7話>

大学4年の時、俺はアメフト部のキャプテンだった。今だから言えるが、キャプテンとしての自覚と責任は並大抵のものではなかった。ただ、キャプテンを任される以上、それは当然だった。

お金目当てではなく、私利私欲のためでもなく、自分のために、仲間のために、そしてチームのために、大学生活という貴重な時間を捧げてくれる大切な仲間達。絶対に裏切ってはいけない存在。

そんな仲間達みんなの想いを背負って、キャプテンとしての決断をしていかなければならない。明確なビジョンと、それを実現する具体的なイメージを示しながら。たかだか50人ちょっとの部活のキャプテンでさえそうなんだから、みんなの生活や将来をも背負いながら、みんなから慕われ続けたあの工場長の苦労は計り知れない。

はたして事業部長や新しい工場長は、いったいどれほどのものを背負ってくれているのか。僕たち部下に対して、どれだけ責任を感じてくれているのだろうか。不安は尽きない。

会話を続けながらも、いつの間にか、課長はビールから熱燗へと変わっていた。


<第8話>

熱燗をやりながら、課長がしんみり語り始めた。

『俺たちも入社したての頃は、やってやろうじゃねぇかと、熱いハートを持った仲間が多かったな。ケンタを見てると思い出すよ。』
ナスの浅漬けをつまんでいる課長の顔に笑みが浮かぶ。

『課長が入社した頃って、高度経済成長の時代ッスか?』

『バカやろう。俺がそんなに老けて見えるか?俺なんてついこないだも、30代かと思ったぁ〜、って言われたんだぞ。池袋のキャバクラの○×△□。。。おい、何冷たい目で見てるんだよケンタ。冗談に決まってるだろ。』
軽く無視してミキちゃん似の店員さんにハイボールを注文する。

『でもうちの会社も当時はすごい勢いだった。技術革新やらなにやらで、現場だけでなく営業や事務方でも、モノづくりの誇りを感じていられたんだ。多分、会社や仕事に夢を持つことが出来たから、出世や保身なんか考えなくとも良かったのかもしれないな。』
ハイボールの炭酸とともに、複雑な想いが胃を通じて体に響く。


<第9話>

『まあ、ケンタの言いたいことも理解出来る。そして、時代背景や経済情勢が大きく変わり、会社も右肩上がりではなくなったことも要因の1つだ。それで、お前はどうするんだ?ふてくされたままでいいのか?』
課長はいつになく真剣な眼差しだ。

『今回の会社の方針は到底納得なんか出来ません。新しい工場長にも会ったことありませんし。と言っても期待なんかしてないっすけど。課長のおかげでちょっとは頭が冷めました。馬鹿なことはしないから安心してください。モチベーションをあげるのは難しそうだけど、工場のためになんとか頑張ります。』
周りのテーブルのサラリーマン達も、ボチボチ切り上げる時間帯だ。

『ケンタ。俺たちサラリーマンは所詮仕えの身だ。だが誇りを持って、強い心を持って頑張らなきゃいかん。社会や会社の中で、汚い部分やヒドい部分が見えるときもある。そんな時も心を折るな。強い心で頑張れ。そして、今ケンタが抱いているような感情を忘れないで、お前ら若い世代がこの会社を変えていくんだ。だからくじけるな。』

酒が入っているせいか、課長の言葉で体が熱くなっていた。


<第10話>

『ご馳走さまでした。今日はいろいろありがとうございました。』
そう言って僕は課長と別れ、帰りの電車に揺られている。

課長とは色々な話をすることが出来、事実僕の心は落ち着きを取り戻しつつあった。たしかに今の俺の力では、何も変えることなど出来ないし、誰も守ることなど出来やしない。だが、真面目に一生懸命働いている人達が同じ目にあわないように、希望を持って入社してくる後輩達が同じ思いをしないように、俺は知識と経験を積み、モノを言える力をつけていくしかないんだろうな。

『長く遠い道のりだな。』
つり革に掴まりながら、独りつぶやく。周りには仕事帰りのサラリーマンやOLばかり。くたびれている姿もあれば、赤ら顔でご機嫌な姿もある。窓に映る僕の顔は、やや疲れてはいるけれども、目はまだまだ死んではいない。

駅からアパートまでの帰り道。夜空を見上げると、東京にも、北海道と同じ月が顔を出していた。
『窓にうつる 哀れな自分が 愛おしくもある この頃では 僕は僕のままで 譲れぬ夢を抱えて どこまでも歩き続けてゆくよ いいだろう? Mr.myself?』
ミスチルを口ずさみながら、僕の心は明日に向かっていた。


<第11話>

『これは本社からの指示であり、社長の意向である。』 
新しい工場長がやって来た。

あだ名は「イエスさん」。目上だけに忠実だという意味のイエスマンと、イニシャルのSさんが合わさったらしい。イニシャルではなく、部下を苛めて喜ぶからSさんと呼ばれているという説もある。まあそんなあだ名のとおりの男だ。そしてもちろん事業部長の忠実な飼い犬でもある。

『今、工場に求められていることは、コスト削減と人員削減である。いかにスムーズに工場を縮小出来るかということを第一に意識して欲しい。本社の指示通り動いてくれればそれなりの待遇が待っている。本社の方針に従わない者は、リストラの最有力候補とせざるを得ない。』 
リストラの言葉を発しながら、薄気味悪い笑みを浮かべている。

『何がリストラだ。無能な管理職を削減することが先だろ。一番最初がお前だよ。』 
と心の中で呟いた。

本社の指示に忠実な者が出世する構造。その指示が正しいか正しくないかの判断はいらない。YESと言えば、出世の階段に残り、NOと言えば、出世の階段から蹴落とされる。それが歪んだ組織の秩序であり、道徳とされている。

『こうして世界は回っていくんだ。』 
青空を見上げながら、ケンタのため息が、雲に向かって上っていく。


<第12話>

イエスさん(新しい工場長)の言葉は俺の心に響かない。前の工場長の言葉が懐かしく思い出される。

『いいかケンタ。なんでお前みたいな大卒を工場に配属させるかわかるか?よく考えてみろ?』 
そんなことも言われたっけ。

『モノづくりには、生産技術が大切なんだ。これを使ってくれる人のために、いかに良いものを、いかに早く、いかに安く作れるか、それを考えるのが俺たちプロの仕事だ。モノづくりのプロを育てるには、大学の知識なんか役に立たない。工場で何が起きているか、現場を肌で感じてもらうのがまず第1だ。だから最初は、工場なんだ。プロへの第一歩、しっかり頑張れよ。』 

たぶんこの言葉は、自分への激励の言葉だったに違いない。3ヶ月の新人研修を終え、本社や大規模支社に配属される同期がいる一方で、工場勤務を言い渡され、軽く落ち込んでいた自分に対する励ましの言葉だった。

次代を担う若い世代の気持ちを汲み取ってくれて、さりげない激励の言葉をかけてくれる心遣い。その優しさが、3年たった今でも、俺の心に響き続けている。

そうだ、俺は、工場(ここ)で頑張らなければならないんだ。前に向かって進むしかない。


<第13話>

今日も一日仕事を頑張った。

『ケンタさん、飲み行きましょうよ。たまには事務のかおりちゃんも誘って。』 
新人のジュンペイが飲みに誘ってきた。

『そうだな。よし、パーッと行くぞ。』 
ジュンペイとかおりちゃんと3人で、アジアンダイニングへ向かった。

生春巻やフォーなどでお腹も膨れてきた頃、
『なんか最近、工場の雰囲気が良くないですよね。空気が重いっていうか。』 
かおりちゃんが寂しげな目で訴える。

『全部アイツのせいですよ。トップが代わると、こうも見事に組織がおかしくなるんですね。』 
ジュンペイもいろんな思いをぶちまける。

『そうだな。あんなにやる気をそぐ人なんてあんまりいないよな。って酒が不味くなるじゃねぇか。俺らは俺らで楽しく仕事を頑張ろうぜ。』 
言ってみたものの、不平不満は渦巻いているようだ。

そんな時は、楽しく飲むに限る。というわけで、カラオケに場所を変え、ジュンペイと肩を組みながら3人で『明日があるさ』を熱唱。

これからも頑張り続ける自分と、ともに頑張っていく仲間達に、未来があることを本当に信じたい。

『あ〜楽しかったね。ストレス発散。』 
かおりちゃんもご満悦の様子。

『じゃあ帰りは気をつけてね〜。』 
とかおりちゃんを見送り、ジュンペイと繁華街にきびすを返す。

『ケンタさん、仕事でいろいろ嫌なことも多いっすけど、ホントこういう仲間って大切ですね。僕ちょっとモチベーション下がりっぱなしでしたけど、頑張ろうって気になってきましたよ。』 
酒だけじゃなく、自分にも酔い始めたようだ。

俺も熱く語りかける。 『人生はな・・・・。』


<第14話>

お互い心地良い酔い加減の中、俺はジュンペイに語りかける。

『人生はな、必ずしも平等とは限らない。今回みたいに不運な状況に陥ることも多い。嘆いていればいいのか、恨めばいいのか、それとも逃げればいいのか。』

『僕ならとりあえずやけ酒っすよ』 
ジュンペイが応える。

『まあたまにはいいよな。でもそればっかりじゃ悲しいだろ。何事も、今おかれている環境のせいにしちゃいけない。言い訳したくもなるし、恨み辛みもある。となりの芝生だって青く見えるからな。でも、格好いい生き方ってゆうのは、どんな環境だろうと、与えられた環境の中で、精一杯努力し、常に前を向いている、そんな生き方なんじゃね〜かな。』 
ヒートアップして、さらに体が熱くなる。

『そうっすね。周りの環境とかじゃなく、要は自分がどれだけ出来るかってことですよね。自分との戦い。なんか超ヤバいっすね。ケンタさんどんだけヤバいっすか。』 
ジュンペイの気分の高揚が、言葉を意味不明に変えてゆく。

『そうだ。人や周りに惑わされるな。自分の信念を貫け。やってやろうじゃねぇか。』 
繁華街で拳を握りしめるスーツ姿の若造2人が、明日の日本経済を支える。

『ケンタさん、俺、明日から超〜頑張りますよ。今日の俺なんてバイバイ、常に今の自分を超え続けてやる。信念を貫きます。』 
いつになく頼もしい後輩の姿。

『熱く語り合える仲間って、最高だな。』 
俺も清々しい気分だ。

『先輩、俺、信念を貫きます。だから、明日から頑張るために、ちょっとキャバクラ行きたいっス。この前、課長に連れてってもらったとこ。』 
ジュンペイの目が爛々と輝いている。

『しょうがねぇな。割り勘だぞ。』 
繁華街で拳を握りしめるスーツ姿の若造2人が、今日の夜の経済をも支えている。


<第15話>

前工場長のもと積み上げられてきたものが、新しい工場長により取り崩されていく現実。悪に立ち向かう正義が現れるのがドラマや小説の世界だが、そう上手くは行かないのが現実。

物事は、新しい工場長の思い通りに進んでいった。社員や作業員だけではなく、パート、派遣社員も削減されていく。取引先や下請け業者への影響も計り知れない。この大きな犠牲を、経営陣はどう考えているのか。断腸の思い、忸怩たる思いの上の経営判断だと信じたい。そうでなければ、犠牲者達は報われない。派閥争いや保身、私利私欲のための犠牲であれば、許されたものではない。

そして僕らも、今後は中堅社員として、やがては管理職として、我が社を支える歯車の1つとなっていく。その過程で、このような大きな犠牲があったこと、その上で会社の今があることを、決して忘れることなく、胸に刻み込まなければならない。それが残された者達の使命。

こんな会社、辞めようかとも考えた。でもこの使命感を抱きながら、まだまだ頑張っていかなければならない、そう意識は変わっていった。

そして、人事異動の時期がやってきた。思いもかけない異動が発表された。


<第16話>

新しい工場長が赴任してから3ヶ月。工場長の異動は例外的に行われたものであり、今回通常の人事異動の季節がやってきた。社内食堂でジュンペイと昼飯を食べながら、そんな話題が湧き上がった。

『そろそろ異動の季節ですよね。なんかソワソワしちゃいますね。』 
今日の日替わりランチはサバ味噌煮定食。
ご飯いっぱい口にほうばりながら、ジュンペイが話してきた。

『何言ってるんだよ。お前はまだ来たばかりの新人だろ。お前の異動なんかあるわけねーよ。』 
同じ日替わりを食いながら俺は返した。

『そうですけど。人事なんて何が起こるかわからないっスよ。新人だろうが何だろうが、でもそんなの関係ねぇ!!オッパッピーっすよ。』 
この前言ったキャバクラでちょっとモノマネがウケたからって、ジュンペイは最近そればっかだ。。。

『人事はどこまで考えてくれてるんだろうな。一人一人の人事異動なんて全体から見れば取るに足らないことだけど、当事者にしてみれば一大事だからな。』 
血と心の通った人事を行って欲しい。

そんな会話をした数日後、俺とジュンペイの直属の上司である課長に人事異動がなされた。

課長は、本社人事部へ栄転することとなった。


<第17話>

『課長ご栄転おめでとうございま〜す。』

『お−。みんなありがと−。』 
みんなの酌を受けて泥酔状態の課長が、相変わらずの低く渋い声で応えてくれる。もう何回目の乾杯だろうか。

今日は課長の送別会。で、こじんまりとした居酒屋で3次会のスタート。普段から仲のいい5人での3次会だ。

『課長〜、キャバクラのナオミちゃんは、ちゃんと僕に引き継いでくださいよ〜。』
 こっちも完全に出来上がっているジュンペイがそんなネタで絡んでゆく。

『人事に行ったら、まずはあのイエスの野郎をぶっ飛ばしてくださいよ。マジお願いします。』 
主任の先輩も工場長が到底許せないようだ。

『会社の成長は社員なしには語れない。人事とは、社員一人一人がモチベーションを高め、常に上昇志向を持って働ける環境を作り上げることだ。そしてそれが会社の経営戦略達成につながる。今の工場をみると、モチベーションを高めるのが難しい環境だよな。まあいろいろな経営判断の上のことだとは思うが。』 
課長が熱燗を空けるスピードは止まらない。

『たしかに新しい工場長を置いた人事が正しかったのかどうかは、会社全体の今後の業績などをみなければわかりませんが、一つの人事がこれだけ社員のやる気を削いでいるという事実だけは、人事にもちゃんと伝えてもらいたいです。』 
普段おとなしい先輩もこのことについては譲れないようだ。

『でも課長みたいにちゃんと部下のことを考えてくれる人が人事に行くのは、会社全体としてみれば大きなプラスですよね。課長、期待してますよ。』 
俺は本心からそう思う。

『お前らの気持ちは痛いほど分かる。俺にどれだけ力があるかはわからないが、この経験を生かして頑張るつもりだ。お前らもしっかり頑張ってくれよな。』 
課長から一人一人に言葉が贈られる。

言う方も言われる方も泥酔状態だが、
『ケンタ、お前は人の心がわかる男だ。その心を忘れるなよ。そして絶対に偉くなれよ。』 
この言葉は忘れない。

『ジュンペイ、お前にはナオミちゃんはまだ早い。ナオミちゃんを振り向かせるくらい、仕事頑張ってカッコいい男になれよ。』 
たぶん、この言葉も忘れない。

こうして思い出話に花を咲かせた。


<第18話>

工場長が異動でいなくなり、課長も異動でいなくなった。そして工場の生産ラインが縮小し、ここで働く人も減っていった。それでも時は流れる。工場も動き続ける。毎日始業の鐘は鳴り、毎日終業の鐘も鳴る。

工場長が飛ばされるのを知った時、誰のために働くのか、なんのために頑張るのか、それがわからなくなった。

そんなこともあった。

工場長は相変わらずだが、新しい課長も頼りがいのあるタイプで、また違った観点から俺を指導してくれている。ジュンペイにも後輩が出来、持ち前のエネルギーでバリバリ突っ走っている。

誰のために働くのか?
『汝がために鐘は鳴る』とも言い切れない。『それは私』とスズメも言わない。

働く理由なんて人それぞれ。答えもなければ、正確もない。家族のためだっていい。自分のためだって。夢のためだって。ナオミちゃんのためだっていい。

きっと答えは1つじゃない。

そう冷静に受けとめてしまった俺。大人になったからなのか。成長したからなのか。これは進化なのか。それとも退化なのか。

Regress ? or  Progress ?


<第19話>

人事部の課長のもとへ、前工場長がやって来た。
「やあ、ご栄転おめでとう。本社はどうだい?」
課長は立ち上がり、前工場長を迎える。

「ご無沙汰していました。お元気そうで何よりです。」

「実はな、早期退職制度を利用しようかと思っているんだ。」 
工場にいた頃よりは穏やかな顔をしている。

「知り合いのちょっとした小さな工場で働かないかと話があり、家からも近いし、前向きに話を進めていこうかなんて考えている。」 
やはり、人事異動の傷は癒えないんだろうか。

「あれからいろんなことを考えたよ。辛く悲しい思いももちろんした。でも、大切なことを気付かせてくれた。」 課長は完全に聞き手にまわっている。

「どうだ?やっぱり俺は出世ラインから外れた負け組みにしか見えないか?」 
笑いながら前工場長は続ける。
「仕事は、わがままも許してもらったし、自分の好きなようにやらせてもらうことが出来て、本当に満足している。この年にもなって、他人の評価が全てで一喜一憂するなんて寂しい人生じゃないか。自分の信念を貫いて今までやってきて本当に良かったと思っている。そして工場長としていい仲間たちに囲まれて、これ以上の贅沢はあるか?俺は胸をはって会社を辞めれるよ。俺は頑張ったってな。これからも、新しい現場でバリバリ頑張るさ。君とか、工場のケンタとか熱いハートの男には、後悔しない充実した仕事と人生を歩んでもらいたい。信念と誇りをもって、楽しかったと胸をはれるよう頑張って、この会社を支えていって欲しいと思うよ。老兵は去るのみ。頑張ってくれ。みんなによろしくな。」 
そう言って、前工場長はこの部屋を後にした。

俺は、数週間後に課長の口から聞いた。さすが男だなって率直に思った。ジュンペイもわかってんだかわかってないんだかよくわからないが、「格好いいっスね」と口にしていた。

俺は、それから前工場長に会うことはなかった。でも、前工場長は工場にいろいろなモノを残していった。一緒に働くことが出来たのはわずかだが、俺の心の中にもたくさんのモノが残っている。

「胸をはって辞められる」という言葉の意味を深く感じる。それは、時をかけて、社会をめぐって、次代に引き継がれ、そうして誰かの心に伝わっていく。そうして時代に刻まれてゆく。

そのために、鐘は鳴っているのかもしれない。


<第20話>

若さと元気だけが取り柄だったジュンペイも、今では一人前に仕事をこなしている。大きな仕事も少しずつ任されるようになってきた。そして、仕事の質と量の増加とともに、苦労や責任も少しずつ増え、時には大きな壁にぶち当たったりしているようだ。

定食屋で晩飯を食いながら、ジュンペイが聞いてきた。

『ケンタさん、工場長がかわるときに、何のために働くのかわかんなくなったって言ってましたよね。答えは出たんですか?』

『答えなんてないんだよ。ないと言うか、なくてもいいじゃんみたいな。』

『僕も最近ツラいなとか空しいなとか、たまに何で頑張ってるのかわかんなくなったりしますよ。そんな時は何で頑張ってるんだろうとか悩んだりしちゃいます。同じだなと思って。』

『仕事がうまくいってる時は、きっとそんなこと考えずにバリバリ働いていて、仕事だって仕事以外だって充実した時間を過ごしていて、そんなこと考えたりしないんじゃないかな。仕事でつまずいたり、上司や同僚と合わなかったり、仕事が上手くいってない時に、何で頑張ってるのかとか、何のために働いてるのかとか、何かのきっかけを見つけたくて、そんなこと考えたりするんじゃないかなと思って。』

僕たちを走らせている無数のもの 
夢だったり目標だったり 
誇りだったり信念だったり 
家族だったり仲間だったり 
楽しみだったり趣味だったり 
振り返ればいろんなものが集まって 僕てちの背中を押してくれているはず

でも辛い時や苦しい時に それらに気がつかないで ふと立ち止まって考えてしまう 何のために走っているのか

ナンノタメニガンバッテイルノカ

理由が欲しくて きっかけが欲しくて 僕らは悩み苦悩する

でもいろんなものが背中を押してくれていることに気付き 僕らはまた走り出す 
そうして世界は回っている

『答えなんか見つからなくても、そうやって悩んで、壁にぶち当たって、また頑張っていけばいい。辛い時は泣いてもいいし、飲んでもいいし、無理する必要なんかないよ。』 
こう言いながらジュンペイがまた成長の階段を一歩ずつ登っていくのを俺は喜んでいた。

『ケンタさん。そうですね。今は辛いけど乗り越えなきゃならない壁ですよね。乗り越えた先にはまた一歩成長した俺が待っているから。』

『そうだ。頑張れよ。みんな期待しているんだから。』

『ケンタさん、辛い時は泣いても飲んでもいいんですよね。』

『ああ、リフレッシュして明日の活力を生むのも大切だからな。』

『じゃあ、これからナオミちゃんの店行きましょう。可愛い後輩の明日の活力のためですよ、先輩。』 
こうして夜が更けてゆき、また明日が始まってゆく。

課長も、工場長も、部長もみんな、こうして壁にぶち当たって、成長していったはず。

僕らも同じように成長の階段を登ってゆく。出世して歴史に名を残す人も入れば、心や技術を伝承して後世に名を残す人もいる。目指すべきものは、人それぞれ。何のために働くのか、それも人それぞれ。

でも誇りと信念を大切に、明日へ生きるサラリーマン物語。

ケンタとジュンペイを代表する世代の未来に期待して。(完)


<epilogue>

ここは別世界。小さい頃、東京ディズニーランドに行った時に、ここは別世界、まるでファンタジー、なんて体験をした時のように、俺は今ここで素晴らしい体験をしている。

そう、ここは別世界、大人のファンタジー、in キャバクラ。

『ジュンペイくんお疲れ〜』

『うぃ〜』 
水割りのグラスが重なり合う。

『会社という戦場でひたすら戦い続ける俺。この俺の心の隙間を埋めてくれるもの。それがナオミちゃん。君の瞳と笑顔だ。』

『もうジュンペイくんったら口が上手いんだから〜。』

『本当だってば。俺もようやく1人で仕事任されるようになってさ、嬉しいしやりがいあるんだけど、やっぱ責任も大きいし俺もまだまだ未熟で毎日大変なわけ。何のためにこんなに頑張ってんだろうとか悩みも多いしさ。どんだけナオミちゃんに癒されてるかわかってる?もうどんだけ〜。』

『そうなんだ〜。ありがとう。ジュンペイくんの真面目に頑張ってる姿とかも見てみたいな。』 

この別世界とも言える時間と空間が、お酒とともにいろいろなモノを忘れさせてくれる。

『ナオミちゃんはさ、何で毎日頑張れるの?』

『う〜ん。やっぱり私に逢いに来てくれる人がたくさんいるのも嬉しいし、私と話して楽しかったとか元気が出たとか、喜んでくれる顔を見れるのが一番かな。凄く励みになるよ。もちろんジュンペイくんの言葉もね。』

『そうだね。僕も上司の評価とか抜きに、お客さんや取引先の笑顔、仲間達の感謝の言葉、自分の中の達成感、いろいろ励みになることも多いな。もちろん一番励みになるのはナオミちゃんの笑顔だけど。』

『もうジュンペイくんったら、まともなこと言ってるようですぐからかうんだから〜。』 
彼女の笑顔が僕を幸せする。

僕の幸せが笑顔をつくり、また誰かが幸せになる。

僕のした一つの仕事が また新らしい何かを生み出し 新しい何かを作り上げてゆく

僕のした一つの仕事が この世界を回り回って また誰かを幸せにして 誰かの笑顔を生み出している

そうして世界は回っている

ナオミちゃんの笑顔が僕を幸せにし 僕の仕事が誰かを幸せにしその誰かがまた新しい誰かを幸せにする

それはサラリーマンだって 政治家だって キャバクラ嬢だって ラーメン屋さんだって 主婦だって 誰かを幸せにして 誰かに幸せをもらっているのは 生きている限りみんな同じ

誰かを支え 誰かに支えられ 僕らはまた生きていく

こんな僕でも 誰かを幸せにすることが出来るんだね 
そう信じて 明日も頑張ろう。

(久しぶりに読み返したけど、結構面白かったなぁ)

kou_blue97 at 00:27|PermalinkComments(0)

2016年12月19日

GIFT〜love one another〜(第局堯

GIFT〜love one another〜(第局堯

※この物語は僕が2013年に作った短編小説風の物語を、remakeしたものです。

「Xmasの贈り物〜1つの恋の物語〜」の続編



<第1話>

X'masは赤ちゃんを囲みながら家族水入らずで過ごし、年末年始は実家に帰ったケンジ。家族の絆を再認識する時間が流れる。胸の中につかえる罪悪感と背徳感。夜、布団に入り寝ようとすると、ケイコの笑顔が思い出される。

「こういう風に終わって良かったんだ」  

そう、言い聞かせる。それが正しい選択。年が明け、また現実の多忙な日々が戻る。仕事は忙しい。忙しくて、幸せだ。いろんなことを忘れさせてくれる。

「家族のために、チビのためにも、頑張らないとな。」  

充実した日々。

「ケンジさん、最近輝いてますね!なんかいいことあったんですか?」  

昼飯を食いながら、ジュンペイが声をかける。

「まぁな。守るべきものがあると、男も強くなるんだよ。お前もそのうちわかるさ。」  

軽くケンジが返す。

「今日は夕方から営業会議ですよね。終わったらパァーと行きましょうね!」

営業会議。3月は多忙だ。スケジュール確認のため手帳を開く。3月19日に赤いマークが。

「ケイコさんの誕生日だ。」  

忘れかけていたケイコを強く思い出す。


<第2話>

X'masは、娘と息子のために料理に腕をふるう。毎年恒例のクリスマスチキンと手作りケーキ。子供達のリクエストどおり。旦那とは10年くらいクリスマスなど過ごしていない。もちろん旦那からはプレゼントなどない。毎年、手作りのクリスマスケーキを美味しそうに食べてくれる子供達の笑顔が最高のX'masプレゼント。それだけで充分に幸せ。

それに、今年は。。。ケンジとの楽しいひと時。

「神様がくれたX'masプレゼントだったのかな。」 

大切な思い出として胸に刻み込まれた。

でも、もう思い出してはいけない。胸の奥に封印しないと。夢は見ない。見てはいけない。目の前の現実という幸せを、子供達の笑顔を、大切に守らなければならないんだから。

「たぶん、人生で男の人とKissをすることなんて、もう二度とないことだろうな。。。」 

ケイコは自分にそう言い聞かせた。


<第3話>

明日はケイコの誕生日。3月ということで、仕事は忙しい。世間は出会いと別れの季節だ。

「仕事がケイコさんを忘れさせてくれるかと思ったけど、結局忘れられなかったな。」 

取引先との飲みの後、帰りの電車でケイコのことを考える。

「最後の別れにあんなキスされたら、忘れられるわけないよな。」 

背徳感と罪悪感を、自分だけのせいじゃないと、正当化させようとしている。

「とりあえず、明日はケイコさんの誕生日。自然にBirthdayメールを贈って、どんな反応してくれるか。それからだな。」 

頭の中で、いろんなシチュエーションを想定する。もちろん、返事が来ないことも当然ありえる。

ケイコの気持ちは、わからない。でも、心優しい女性だから、ちょっと向き合って返事はくれるだろう。

「もし返事が来なかったり、イマイチな返事だったら、未練なく諦める。」 

そう覚悟を決め、ケイコの誕生日を迎える。
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2016年12月18日

Xmasの贈り物〜1つの恋の物語〜(第吃堯

最近、クリスマス前の恋の楽しい話を聞く機会が多いので、こんな物語を思い出しました。



「Xmasの贈り物〜1つの恋の物語〜」(第吃堯

※この物語は僕が2008年に作った短編小説風の物語を、remakeしたものです。


<第1話>

『お疲れ様です。お先に失礼します。』 

5時半頃、ケイコは会社を出て駅へと向かう。秋風が身にしみ始める季節。

『今日は温かいお鍋にしようかなー』 

と独り言をつぶやきながら、子どもたちが待つ家へと向かってゆく。

ケイコは今年37歳。いわゆる一流企業に勤める夫がいて、中学生の娘と小学生の息子に囲まれた、そんな普通の家庭。普通以上の理想に近い家庭。

実態はちょっと違う。

夫はここ数年単身赴任中で、家庭には寄りつかない。もともと同居していた頃から、つきあいだ接待だと家庭をかえりみることなんてなかったし、女の影もちらほら見え隠れしていて、単身赴任という名目で別居が出来てお互い清々している。

ケイコは子どもたちを連れて、単身赴任中だけということで、実家の母と同居して、昼間は外に働きに出る。

『子どもたちは私が守る』 

そんなケイコの冬物語。


<第2話>

ケイコは最寄り駅そばのスーパーで買い物をするのが日課。夕食の準備は自分でする。そして子どもたちと夕食を食べる。

それだけは譲れない。

その信念は変わらない。帰宅して夕食をつくり、子どもたちと食卓を囲む。そして台所を片付け、明日の準備をする。子どもたちが寝るまでは休まる暇がない。でも、絶対に仕事を言い訳にはしない。

私は夫とは違う。

そう自分に言い聞かせて。子どもたちが寝静まった後、ゆっくりお風呂に入るのがささやかな幸せ。深夜にベッドに入り、朝早くから朝の準備。こうしてケイコの毎日が過ぎていく。

家庭を守り、子どもを育てて、外で働く。それが当たり前であり、毎日のごく普通の生活。それがたぶん、親として、人間として、生きているということなんだ、と感じながら。


<第3話>

ケイコの職場はオフィスビルが立ち並ぶ街の一角にある。仕事は経理だったり庶務だったり事務やら雑用やらの何でも屋さん。与えられた仕事は真面目にテキパキこなすタイプであり、若い女性陣からの評判も悪くない。事務所はそんなに大きいわけではないが、毎日多数の営業マンや業者の人達が出入りする。

たくさん事務所に訪れる営業マンたち。その中にケンジもいた。

ケンジ28歳
ケイコ37歳。

ただの営業マンと普通の事務員。

そんな2人の、クリスマスの物語。


<第4話>

ケンジは営業マン。

実質的な営業ノルマは厳しいが、人脈が広がっていく仕事がそれなり楽しい生活。入社5年目で、営業も自分の形を築き上げつつある年頃。

そして結婚3年目。今年子供を授かったばかりであり、父親としても、人間としても大きく成長していく年頃。

『ジュンペイ。今日ちょっと飲んで帰ろうか。』 

営業から戻ったジュンペイに話しかける。

『いいっスけど、最近飲み続いてますよね。ご家庭大丈夫っスか?』 

ジュンペイが一応気遣う。

『仕事には打ち合わせが必要だろ。打・ち・合・わ・せ。』 

ケンジが強引にジュンペイを連れ出す。

『いやー寒いですねー。こんな日はやっぱお湯割りですよね。』

『こう寒い日が続くと彼女に温めてもらいたくなんねーのか?早く新しい彼女見つけろよ。』

そう言ってケンジが生中を流し込む。

『彼女は欲しくてもなかなか出来ないんですよー。それよりケンジさん赤ちゃんはもうハイハイしてるんですか?』 

ジュンペイがモツ鍋をつつく。

『なんかさー。仕事もそれなりにうまくいってて、子どもも超可愛いけど、なんか家に帰りたくないんだよね。』 

ケンジがジョッキグラスを見つめながら語り始めた。


<第5話>

『仕事とか接待とかで帰りが遅くなるとさ、「男は仕事だけやってれば許されるんだからいいわね」って、冷たい顔をされるんだ。』 

ケンジは遠い目をして続ける。

『子育てってさ、かけがえのない幸せである反面、ものすごくエネルギーを費やす。嫁がさ、家事と育児で家庭を切り盛りして大変なのはよくわかる。感謝こそすれ、非難なんかするつもりはないよ。でもさ、俺だってクタクタになりながら仕事してきて、家族のために嫌なことがあっても耐えて。それなのにそんな冷たい態度が続けば、俺もちょっとキツいよな。なんのために頑張ってんのかなって。』 

ケンジがビールを流し込む。

『うーん。難しいですね。。。』 

ジュンペイが唸る。

『なーんて本当に贅沢な悩みだよな。わかってるんだ。理屈じゃなくて、頑張るしかないって。』 

いつもの笑顔のケンジに戻った。

『まだ8時だな。よーし、』

『じゃあパァーッと行きましょうか。最近いいキャバクラ見つけたんですよ。ナオミちゃんって可愛い子が、』

『ばーか。俺は妻子のいる我が家に帰るよ。ジュンペイもいいかげん落ち着けよ。』 

ジュンペイの優しさを感じながら、早めに帰路につくケンジだった。
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2016年08月09日

黒潮の雰囲気に流されて(第15話)

「ねえ先輩。再来週の日曜日空いてませんか?大阪で待ってまーす。」

遥からのお誘い。

ちょうど空いてるし。

「良かった。じゃあ、朝9時に新大阪駅まで迎えに来てください。よろしくです♪」

朝9時に大阪って、徳島6時出発じゃないか・・・。いつも振り回されるなぁ。嫌いじゃないけど。



そして、日曜日。

早起きして、大鳴門橋と明石海峡大橋を渡り、合流。

遥「お久しぶりです。先輩。私に逢えなくて寂しかったですか?」

俺「うん。とっても寂しかったよ〜。って、結構早起きだったんだけど・・・。」

遥「こんな時間に来てくれるなんて、愛の力ですね。嬉しい。」

俺「はいはい。ところで、今日はどこ行きたいの?とりあえず、車に乗るか?」

遥「もちろん、ドライブ連れてってくださいね。」

俺「神戸、大阪、京都、淡路島、どこでも連れて行ってあげるよ」

遥「う〜ん、行ったことのないところがいいな。じゃあ、和歌山とか!」

俺「和歌山?何があるの?」

遥「わかんないけど、初めての県がいいの。だから、レッツゴー!」

俺「はいはい。でも、明日は仕事だから、あんまり遠くまでは行けないよ。」

遥「わかってます。私も東京に帰らないとダメだから大丈夫。」



車は阪和高速に乗り、海沿いを進む。

遥「海沿いの景色、首都高速湾岸線に似てるね。もっと自然な海がみたいわ。」

俺「和歌山県に入ったら、そんな海に出会えるかもね。」

車は南下を続け、和歌山県へ。

紀ノ川SAで休憩。

遥「ねえ、見て見て〜。みかんジュースがいっぱい。面白〜い。」

俺「ホントだ。飲み比べてみようか。甘いのと、酸味が強いのと両方。」

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俺「はっさく、酸っぱいね。」

遥「酸っぱいけど、ビタミンたっぷり。日焼けにはビタミンCが欠かせないから、夏には最高。」

俺「きよみは、甘くて美味しい。」

遥「先輩、子供みたい。うふっ。」



SAで情報を得て、和歌山マリーナシティへ。



フランス風の広場。

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イタリア風の路地。

112d0213.jpg


遥「なんか、デートっぽくなってきましたね。」

恋人つなぎで寄り添う2人。

俺「腹減った〜。」

遥「ムードないんだから。もう〜。でも私もお腹すいたけどね。」

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黒潮市場でマグロの解体ショー。

遥「マグロは美味しいし、お土産はミカンと梅だらけ。面白〜い。」

俺「ホントに。楽しいな〜。」



遥「でも、まだ帰らないわよ。南紀白浜の海に向かってGO!」

俺「もう昼下がりだから、そんなに遠くまで行けないよ。」

遥「途中まででもいいからいいから。とりあえず南下してきれいな海を見せてちょうだい。」



車はさらに南下し、ミカンの町、梅の町、そして美しい海が広がる町を堪能。



俺「おい、そろそろ帰るぞ。」

遥「は〜い。」

俺「新大阪まで2時間以上かかるじゃん。しかも大渋滞。新幹線はラスト何時?」

遥「えっと、21時かな。」



俺「全然車が進まないよ。新幹線間に合わないかも。」

遥「じゃあ、大阪で1泊しちゃいましょうか。」

俺「えっ?仕事じゃないの?」

遥「実は、明日はお休みでした〜。」

俺「なんたよ。俺、ふつうに仕事だけど。」

遥「朝早く起きれば大丈夫。ちょっとくらい遅刻したっていいから、今夜は楽しみましょう!」

俺「全然良くないんですけど・・・。」

遥「とりあえず、スマホでホテル取れました。だから、もう急がなくていいですよ。ゆっくり帰りましょう。」



SAで見つけた「平和クラフトビール」を飲み出す遥。



俺「黒潮にいいように流されて漂流している気分なんですけど・・・」

遥「私と夜を過ごせるなんて、贅沢だぞ!うふっ。」

俺「まあ、いいけどさ。で、いつから泊まる気だったの?どこまでが計算なの?」

遥「ご想像におまかせしてま〜す。先輩、大好き。」





<第1話はこちら>
咲良がさくとき(鹿児島編)

<第2話はこちら>
咲良がさくとき(岡山編)

<第3話はこちら>
春が来るのはまだ遙か・・・(池袋編)

<第4話はこちら>
春が来るのはまだ遙か・・・(浅草編)

<第5話はこちら>
タブーの花が咲いてしまった(第5話)

<第6話はこちら>
タブーの花が咲いてしまった(第6話)

<第7話はこちら>
タブーの花が咲いてしまった(第7話)

<第8話はこちら>
タブーの花が咲いてしまった(第8話)

<第9話はこちら>
阿波で心も浮いてきた(第9話)

<第10話はこちら>
阿波で心も浮いてきた(第10話)

<第11話はこちら>
ワインの花がまだ開かなくても(第11話)

<第12話はこちら>
ワインの花がまだ開かなくても(第12話)

<第13話はこちら>
幸せは涙の中に咲いていく花(第13話)

<第14話はこちら>
幸せは涙の中に咲いていく花(第14話)



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2016年05月07日

幸せは涙の中に咲いていく花(第14話)

遥「私はその頃も船橋とか成田山とかでkou先輩とデートしてましたよ。やったー。咲良さんに勝ってる所もありました。」

咲良「遥ちゃん、負けず嫌いだね・・・。面白い。」

遥「だって、ずっと咲良さんには負けてたんだから、1つくらい勝ちたいですよ。」

咲良「遥ちゃんが勝ってる所なんて、たくさんあるのにな。」

房総半島の最南端に到着。

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海に囲まれる。

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遥「絶景ですねー。」

咲良「海が広がってるね。癒されるー。」

遥「海って、心が和みますよね。そして、思い出す。」

咲良「うん。思い出すね。」

遥「kou先輩との小樽の海ですか?」

咲良「そうだね・・・。懐かしいな。」

遥「私だって、瀬戸内海とか・・・先輩の海の思い出をたくさん上塗りしてますよ!」

少しの間、沈黙が辺りを包み、波の音だけが響き渡る。



咲良「遥ちゃん、私ね、新しい彼氏が出来たの。」

遥「えっ・・・。そうなんですか・・・。いつからですか?」

咲良「まだ、つき合って2週間くらいだよ。」

遥「そうなんだ。どんな人ですか?」

咲良「仕事の関係で知り合った人なんだけど、実は結構年下なの。優しくて、芯が強くて真っ直ぐな人、かな。」

遥「優しくて、真っ直ぐな人だなんて、先輩みたいですね・・・。」

咲良「ううん、全然似てないよ。」

遥「それで、咲良さんは先輩のこと、完全に忘れられたんですか?」

咲良「難しいけど、忘れるしかないよね。これから時間をかけて。忘れるためにも、kouには伝えたよ。彼氏が出来たよって。」

遥「先輩に伝えたんですか?先輩は、何て言ってました?」

咲良「kouはね『おめでとう!応援するよ!』って」。

遥「咲良さんは、忘れるために頑張ってるんですね。私は、どうやったら忘れられるかな・・・」

海はずっと波を打ち続け、水しぶきと潮の香りを運んでくれた。



2人は海を後にし、宿にたどり着いた。

房総半島と言えば、伊勢海老。千葉県は伊勢海老の水揚げが日本一だ。

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遥「伊勢海老も海の幸も全部美味しいですね。」

咲良「花と海に囲まれて。美味しい海の幸と温泉があって、ホント幸せ過ぎる。」

遥「今日も、日本酒が進んじゃいますね。」

咲良「遥ちゃん、温泉にもう1回入るんだから、飲み過ぎちゃダメよ。」

遥「はーい。でも飲まずにいられないですけどねっ。」



酔いが進む前に温泉に入り、また飲み直す2人。

咲良「遥ちゃんは、彼のこと本当に好きなんだね。」

遥「好きですよ。咲良さんよりも、先輩を好きな自信があります。でも、彼にとって咲良さんは特別なんです。」

咲良「私はね、そんなに好きじゃないかも。ってゆうか、大学時代につき合っていた頃は本気で好きだったよ。でも10年以上会ってなかったし、その間に結婚もしたし、離婚もしたし。その10年以上の間、彼は私の人生に登場してこなかったから、ずっと好きだったわけじゃない。そういう意味では、遥ちゃんの方が長い関係よね。私は、たぶん負けてる。」

遥「私は、その10年間彼に愛されてきました。私だけが特別な存在だと思ってました。でも去年、鹿児島で先輩と咲良さんが偶然出会ってしまっただけで、たった1回再会しただけで、咲良さんはまた先輩の中で特別な存在になってしまったんです。それはとても悔しいですよ。」

咲良「そう。私も10年以上も彼のことなんて頭の中になかったのに、鹿児島で偶然出会って、一緒にお酒を飲んでいたら、幸せだったあの頃を思い出して、あの頃のように愛して欲しいって思ったの。止まっていたはずの時計の針が、動き出してしまった感じ。やっぱり運命の人なのかなって思っちゃった。」

遥「羨ましいな、そんな一瞬であの頃の関係に戻れるなんて。それを聞いて、泣いた日もあるし、自信を失った日もあります。咲良さんが、私の中でいつも輝いて見えるから。」

咲良「私も10年以上ぶりに愛されて幸せで、運命かもってさえ思ったけど、現実が待ち構えているの。彼には奥さんがいて子供がいる。時計の針は戻ったようで、実際の時間は戻らないのよ。それを思い出すと、私も悲しくて泣いた日もある。だからね、こないだも話したけど、後悔もしたくないし、過去にもすがりたくないから、前を向いて生きるしかないのよ。そう思って、新しい恋に踏み出せたところなの。」

遥「先輩には、過去には咲良さんがいて、現在には奥さんがいるの。私はいつも1番にはなれない・・・。新しい恋、私も踏み出せるかな。」

咲良「遥ちゃんは、彼とどうしたいの?このままでいいの?結婚まで考えてるの?」

遥「先輩が奥さんとお子さんを愛してるのはわかってます。だから、先輩との結婚に期待を持つほど私も子供じゃありませんよ。私だって、この10年間の間にいろんな恋をしてきましたから。年上も、年下も、バツイチともつき合いました。先輩には全部内緒でしたけど。でも、先輩よりもいい男には一度も出会えていないんです。『この人なら』って男と出会ったら、すぐに先輩に自慢しようって決めてるんですけどね。」

咲良「遥ちゃんも、いろんな経験をして、いろいろ悩んでるんだよね。そんな歳だもんね、私たち。」

遥「私も、本当は後悔もしたくないから前に向かっていきたいんだけど、どんな後悔が待ってるか考えると怖くて、泣いちゃいます。先輩よりも素敵な男に出会えたら幸せだけど、出会えなくて先輩までも失ってしまったら、私は強く生きていく自信がないです。もし、先輩よりも素敵な男に出会えないんなら、無理に結婚なんかしないで、先輩の特別な人であり続けるしかないのかなって、諦めも感じつつあるんですけどね・・・。泣いてばかりの人生になりそうですけど。」

咲良「私だって、新しい彼と本当に愛を育めるのか、不安で心配で眠れない日もあるよ。でも、私は諦めたくない。」

遥「先輩っていう逃げ場があるから、甘えちゃうのかな。一度、断ち切らないと幸せを掴めないのかもしれないなって思うこともあります。もちろん。でも、失うにはかけがえのない人だから。」

咲良「答えはわからないよね。何が正しいのか、何が幸せなのかは、わからない・・・。」



咲良「今日見た花、とってもきれいに咲いていたよね。幸せの花が私にも咲くのかなって不安になる時もある。でもね、女の涙の中にはね、幸せの花が少しづつ咲いていくんだよ。幸せの花は、涙の先にあるの。泣き止んだ微笑みの中に。だから、泣いてもいいし、強がる必要もない。ちゃんと芽を出して、やがて花は咲くの。そう信じてるんだ。」

遥「咲良さん・・・。私も、たくさん泣いちゃうこともあるけど、幸せの花が少しづつ咲いてるかな。」

咲良「きっと咲いてるよ。そう信じよう。」



ねえ、貴方のせいでたくさん涙を流してるよ。

それでも貴方を愛しているの。

涙の中で、幸せの花が少しづつ咲いているの。

貴方の前で微笑む時にも、咲いてるのよ。

貴方にも、ちゃんと見えてますか?






<第1話はこちら>
咲良がさくとき(鹿児島編)

<第2話はこちら>
咲良がさくとき(岡山編)

<第3話はこちら>
春が来るのはまだ遙か・・・(池袋編)

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タブーの花が咲いてしまった(第5話)

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タブーの花が咲いてしまった(第6話)

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阿波で心も浮いてきた(第9話)

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kou_blue97

【自己紹介】
・札幌生まれ札幌育ち
・現在は群馬在住
(←東京←徳島←千葉…)
・転勤族のサラリーマン
・ミスチル世代の団塊ジュニア

【好きなモノ】
・アメフト観戦
・ミスチル鑑賞
・子供とおでかけ
・転勤で知らない土地を満喫
・現実と妄想の狭間で微笑ましく生きる
・小さな幸せのかけらを積み重ねる

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