后箆∈椒轡蝓璽困發痢

2018年10月27日

誰がために鐘は鳴る(remake版)

『誰がために鐘は鳴る』 〜サラリーマンの物語〜

※この物語は、10年前に僕が書いた短編小説です。かけだし金融マンのblog(2008年2月(リンク))に掲載されているもののリメイクです。



<第1話>

今日もあいつの罵声が工場に鳴り響く。マジうざい。能力も人間的魅力もなく、けつの穴も小さいくせに、ゴマすりとおべんちゃらで出世を続け、今や本社の部長。いつも工場長や現場で働く俺たちに偉そうに怒鳴り散らし、自分は定時あがりで飲み会三昧。ホントいい身分だよな。

それに比べて工場長はすげえ。口は悪いしいろいろうるさいが、部下の生活や働きやすい環境のことをしっかり考えてくれていて、何より自分が率先してバリバリ働いてる。この人にならついていきたいと思えるほど男気たっぷり。

そんな部長と工場長はそりが合わない。部長は、工場長が言うことを聞かないので面白くない。工場長は、部長の言っていることが理不尽であり、部下を思うとそんな指示は到底受けられない。

まさに水と油。

そんな中、工場長が左遷されるという噂が僕の耳に入ってきた。


<第2話>

俺の名前はケンタ。社会人3年目。小さい頃から楽しく生きることがモットーで、学生時代はやんちゃばかり楽しい日々だった。でも、曲がったことが大嫌いで、人の気持ちとか、人と人とのふれ合いとか、そういうものは大切にしてきたつもりだ。特に、大学時代にアメフトというスポーツを通じて得た経験と出会った仲間たちのおかけで、本当に大切なものは何かってことに気付くことが出来た。

で、今は某メーカーの会社に就職して3年目。工場に配属されて、ヘルメットをかぶり作業服を着ながら、現場のおっちゃんに怒られたり、どなられたりしながらもうまく連携をとり、事務やら、企画やら、運営やらを頑張っている毎日。

就職活動では、大手都銀とかからも内定をもらっていたけど、銀行なんかよりメーカーの方が、人情味があるというか、泥臭いというか、なんか人と人とのふれ合いがありそうと思ったから今の会社を選んだ。ヘルメットだってアメフトで慣れっこだし、作業着を着て現場に出れるってのも、俺にぴったりな感じだと思う。

それに、工場長も男気があり、人間の温かみを感じさせてくれる人だから、今の環境でバリバリ頑張ろうって、そんな生活を送っていた。

そんな矢先に、工場長が異動でどこかに飛ばされるなんて噂が流れてきた。
まさか。。。


<第3話>

「あなた、お風呂が沸いてるわよ。最近お疲れみたいね。温まってゆっくり休んでください。」台所から妻の声が聞こえる。

子供たちは無事に独立して、今は妻と二人暮らし。俺がこうして工場長になることが出来たのも、子供たちが無事に大人になることが出来たのも、全ては妻のおかげだ。

それは俺だけじゃない。工場で働くみんなにも、支えてくれる妻や、生きがいを与えてくれる子供たちなど、守らなければならない家族が存在するのだ。

最近、部長が進めようとしている「工場合理化計画」。合理化計画という名のリストラ、首切り。たしかに、3年前までは不採算部門で会社の足を引っ張ってはいたが、中期改善計画のもと前期は黒字回復。そして今期も黒字見込み。もう不採算部門などではない。

俺も工場長になって5年。前社長の意思を受け継ぎ、現場の前面に出て、率先して中期計画を実現してきた。工場のみんなも一生懸命頑張ってくれた。やっと軌道に乗り、さあこれからっていう時に。結果も出しているのに。理不尽な首切りなど、納得なんか出来るわけがない。そして何より、頑張ってくれている工場のみんな。口が悪かったり、不器用だったり、いろいろな人がいるが、不採算部門を黒字化するために、一生懸命頑張ってくれた。その結果として、工場の今がある。

工場のためにも、工場で働く人々のためにも、工場で働く人々が支えていかなければならない家族のためにも、俺は、この「合理化計画」という名の首切りを、絶対に阻止しなければならない。断固、反対する!!

そんな俺に、部長からの呼び出しがかかった。


<第4話>

都内の某小料理屋。「工場縮小計画。成功すれば、お前も取締役の仲間入りだな。」お酒も入り饒舌な専務が俺に伝える。業績不振で前社長が引責辞任したのは3年前。社長交代により、新社長−専務ラインの派閥の俺も、専務の計らいで事業部長へと順調に昇進。そして、今、目の前には取締役就任への道が開け始めている。これも全て専務のおかげだ。

前社長の象徴とも言えるあの工場を大幅に縮小し、前社長の息のかかった人を失脚させ、前社長の色を全て無くすこと。それは専務、ひいては新社長の意向。そしてそれが、俺の出世の条件。人事部への根回しも済んでおり、あとは後任の工場長には俺の息のかかった部下を送り込み、工場で大幅なリストラを決行するだけ。計画に問題ない。

「そろそろ実行に移す時期だな。」環八を走るタクシーの中で、俺の決意は固まった。

取締役まで、後一歩。


<第5話>

『これからの時代は国内から海外へ。我が社も生産拠点をアジアへシフトすることが必要だ。君の工場での実績は高く評価している。君の力を、我が社のアジア進出に生かすため、是非海外調査室で頑張ってもらいたい。』

人事部から呼ばれた後、事業部長から話があった。

君の実績を高く評価している、だと。とんだ狸め。だが人事部まで根回ししているとなると、どうやら俺の異動は揺るがないようだ。海外調査室か。事実上の左遷であることは誰の目にも明らかだ。たしかに、国内生産でコスト競争を勝ち抜くのは難しい。工場にもさらなる効率化が求められるのも当然だ。人員削減を含めたリストラクチャリングの必要性もやむを得ない。ただし、削減すべき人員は工場だけではなく、むしろ役員や本社にこそあり、見直し再構築すべきものは、役員や部長などの心構えにこそあろう。

長かった工場勤務の終わりが現実味を帯びてきたが、工場とその従業員の未来は閉ざしてはいけない。


<第6話>

『おい、ケンタ。ちょっと飲みに行くぞ。』 上司の課長に連れられ、居酒屋の暖簾をくぐる。

『お前、今日はいったいどうしたんだ。何ずっとふてくされてるんだよ。』
バイトと思われる店員さんが、ふてくされている俺とは対照的な笑顔で、生中2杯を運んできた。

『だって、工場長の左遷と工場の縮小なんて納得出来ないッスよ。』
ジョッキーの1/3程を流し込む。

『たしかに工場長の左遷はデメリットが多いが、工場の縮小は今の情勢を考えるとやむを得ない面もある。ケンタだってそれくらいわかってるだろ。』
笑顔がキュートな店員さんが枝豆とたこわさを運んでくる。バイトの女子大生だろうか。

『でも、工場長がいるから工場がうまくいってるのに。頑張っていて部下の信頼も厚くて、そんな人が左遷させられ、人望がないのに世渡り上手なだけで出世するなんて、そんなの絶対におかしいッスよ。何のために毎日頑張ってるのか、こんな会社にいていいのか、なんかわかんなくなってきました。』
串焼きを運んでくれたさっきのお姉さんに、生ビールのお代わりを注文する。キュートな笑顔が、大学時代のマネージャーのミキちゃんに似ている。

頑張っていたあの頃の記憶が蘇る。


<第7話>

大学4年の時、俺はアメフト部のキャプテンだった。今だから言えるが、キャプテンとしての自覚と責任は並大抵のものではなかった。ただ、キャプテンを任される以上、それは当然だった。

お金目当てではなく、私利私欲のためでもなく、自分のために、仲間のために、そしてチームのために、大学生活という貴重な時間を捧げてくれる大切な仲間達。絶対に裏切ってはいけない存在。

そんな仲間達みんなの想いを背負って、キャプテンとしての決断をしていかなければならない。明確なビジョンと、それを実現する具体的なイメージを示しながら。たかだか50人ちょっとの部活のキャプテンでさえそうなんだから、みんなの生活や将来をも背負いながら、みんなから慕われ続けたあの工場長の苦労は計り知れない。

はたして事業部長や新しい工場長は、いったいどれほどのものを背負ってくれているのか。僕たち部下に対して、どれだけ責任を感じてくれているのだろうか。不安は尽きない。

会話を続けながらも、いつの間にか、課長はビールから熱燗へと変わっていた。


<第8話>

熱燗をやりながら、課長がしんみり語り始めた。

『俺たちも入社したての頃は、やってやろうじゃねぇかと、熱いハートを持った仲間が多かったな。ケンタを見てると思い出すよ。』
ナスの浅漬けをつまんでいる課長の顔に笑みが浮かぶ。

『課長が入社した頃って、高度経済成長の時代ッスか?』

『バカやろう。俺がそんなに老けて見えるか?俺なんてついこないだも、30代かと思ったぁ〜、って言われたんだぞ。池袋のキャバクラの○×△□。。。おい、何冷たい目で見てるんだよケンタ。冗談に決まってるだろ。』
軽く無視してミキちゃん似の店員さんにハイボールを注文する。

『でもうちの会社も当時はすごい勢いだった。技術革新やらなにやらで、現場だけでなく営業や事務方でも、モノづくりの誇りを感じていられたんだ。多分、会社や仕事に夢を持つことが出来たから、出世や保身なんか考えなくとも良かったのかもしれないな。』
ハイボールの炭酸とともに、複雑な想いが胃を通じて体に響く。


<第9話>

『まあ、ケンタの言いたいことも理解出来る。そして、時代背景や経済情勢が大きく変わり、会社も右肩上がりではなくなったことも要因の1つだ。それで、お前はどうするんだ?ふてくされたままでいいのか?』
課長はいつになく真剣な眼差しだ。

『今回の会社の方針は到底納得なんか出来ません。新しい工場長にも会ったことありませんし。と言っても期待なんかしてないっすけど。課長のおかげでちょっとは頭が冷めました。馬鹿なことはしないから安心してください。モチベーションをあげるのは難しそうだけど、工場のためになんとか頑張ります。』
周りのテーブルのサラリーマン達も、ボチボチ切り上げる時間帯だ。

『ケンタ。俺たちサラリーマンは所詮仕えの身だ。だが誇りを持って、強い心を持って頑張らなきゃいかん。社会や会社の中で、汚い部分やヒドい部分が見えるときもある。そんな時も心を折るな。強い心で頑張れ。そして、今ケンタが抱いているような感情を忘れないで、お前ら若い世代がこの会社を変えていくんだ。だからくじけるな。』

酒が入っているせいか、課長の言葉で体が熱くなっていた。


<第10話>

『ご馳走さまでした。今日はいろいろありがとうございました。』
そう言って僕は課長と別れ、帰りの電車に揺られている。

課長とは色々な話をすることが出来、事実僕の心は落ち着きを取り戻しつつあった。たしかに今の俺の力では、何も変えることなど出来ないし、誰も守ることなど出来やしない。だが、真面目に一生懸命働いている人達が同じ目にあわないように、希望を持って入社してくる後輩達が同じ思いをしないように、俺は知識と経験を積み、モノを言える力をつけていくしかないんだろうな。

『長く遠い道のりだな。』
つり革に掴まりながら、独りつぶやく。周りには仕事帰りのサラリーマンやOLばかり。くたびれている姿もあれば、赤ら顔でご機嫌な姿もある。窓に映る僕の顔は、やや疲れてはいるけれども、目はまだまだ死んではいない。

駅からアパートまでの帰り道。夜空を見上げると、東京にも、北海道と同じ月が顔を出していた。
『窓にうつる 哀れな自分が 愛おしくもある この頃では 僕は僕のままで 譲れぬ夢を抱えて どこまでも歩き続けてゆくよ いいだろう? Mr.myself?』
ミスチルを口ずさみながら、僕の心は明日に向かっていた。


<第11話>

『これは本社からの指示であり、社長の意向である。』 
新しい工場長がやって来た。

あだ名は「イエスさん」。目上だけに忠実だという意味のイエスマンと、イニシャルのSさんが合わさったらしい。イニシャルではなく、部下を苛めて喜ぶからSさんと呼ばれているという説もある。まあそんなあだ名のとおりの男だ。そしてもちろん事業部長の忠実な飼い犬でもある。

『今、工場に求められていることは、コスト削減と人員削減である。いかにスムーズに工場を縮小出来るかということを第一に意識して欲しい。本社の指示通り動いてくれればそれなりの待遇が待っている。本社の方針に従わない者は、リストラの最有力候補とせざるを得ない。』 
リストラの言葉を発しながら、薄気味悪い笑みを浮かべている。

『何がリストラだ。無能な管理職を削減することが先だろ。一番最初がお前だよ。』 
と心の中で呟いた。

本社の指示に忠実な者が出世する構造。その指示が正しいか正しくないかの判断はいらない。YESと言えば、出世の階段に残り、NOと言えば、出世の階段から蹴落とされる。それが歪んだ組織の秩序であり、道徳とされている。

『こうして世界は回っていくんだ。』 
青空を見上げながら、ケンタのため息が、雲に向かって上っていく。


<第12話>

イエスさん(新しい工場長)の言葉は俺の心に響かない。前の工場長の言葉が懐かしく思い出される。

『いいかケンタ。なんでお前みたいな大卒を工場に配属させるかわかるか?よく考えてみろ?』 
そんなことも言われたっけ。

『モノづくりには、生産技術が大切なんだ。これを使ってくれる人のために、いかに良いものを、いかに早く、いかに安く作れるか、それを考えるのが俺たちプロの仕事だ。モノづくりのプロを育てるには、大学の知識なんか役に立たない。工場で何が起きているか、現場を肌で感じてもらうのがまず第1だ。だから最初は、工場なんだ。プロへの第一歩、しっかり頑張れよ。』 

たぶんこの言葉は、自分への激励の言葉だったに違いない。3ヶ月の新人研修を終え、本社や大規模支社に配属される同期がいる一方で、工場勤務を言い渡され、軽く落ち込んでいた自分に対する励ましの言葉だった。

次代を担う若い世代の気持ちを汲み取ってくれて、さりげない激励の言葉をかけてくれる心遣い。その優しさが、3年たった今でも、俺の心に響き続けている。

そうだ、俺は、工場(ここ)で頑張らなければならないんだ。前に向かって進むしかない。


<第13話>

今日も一日仕事を頑張った。

『ケンタさん、飲み行きましょうよ。たまには事務のかおりちゃんも誘って。』 
新人のジュンペイが飲みに誘ってきた。

『そうだな。よし、パーッと行くぞ。』 
ジュンペイとかおりちゃんと3人で、アジアンダイニングへ向かった。

生春巻やフォーなどでお腹も膨れてきた頃、
『なんか最近、工場の雰囲気が良くないですよね。空気が重いっていうか。』 
かおりちゃんが寂しげな目で訴える。

『全部アイツのせいですよ。トップが代わると、こうも見事に組織がおかしくなるんですね。』 
ジュンペイもいろんな思いをぶちまける。

『そうだな。あんなにやる気をそぐ人なんてあんまりいないよな。って酒が不味くなるじゃねぇか。俺らは俺らで楽しく仕事を頑張ろうぜ。』 
言ってみたものの、不平不満は渦巻いているようだ。

そんな時は、楽しく飲むに限る。というわけで、カラオケに場所を変え、ジュンペイと肩を組みながら3人で『明日があるさ』を熱唱。

これからも頑張り続ける自分と、ともに頑張っていく仲間達に、未来があることを本当に信じたい。

『あ〜楽しかったね。ストレス発散。』 
かおりちゃんもご満悦の様子。

『じゃあ帰りは気をつけてね〜。』 
とかおりちゃんを見送り、ジュンペイと繁華街にきびすを返す。

『ケンタさん、仕事でいろいろ嫌なことも多いっすけど、ホントこういう仲間って大切ですね。僕ちょっとモチベーション下がりっぱなしでしたけど、頑張ろうって気になってきましたよ。』 
酒だけじゃなく、自分にも酔い始めたようだ。

俺も熱く語りかける。 『人生はな・・・・。』


<第14話>

お互い心地良い酔い加減の中、俺はジュンペイに語りかける。

『人生はな、必ずしも平等とは限らない。今回みたいに不運な状況に陥ることも多い。嘆いていればいいのか、恨めばいいのか、それとも逃げればいいのか。』

『僕ならとりあえずやけ酒っすよ』 
ジュンペイが応える。

『まあたまにはいいよな。でもそればっかりじゃ悲しいだろ。何事も、今おかれている環境のせいにしちゃいけない。言い訳したくもなるし、恨み辛みもある。となりの芝生だって青く見えるからな。でも、格好いい生き方ってゆうのは、どんな環境だろうと、与えられた環境の中で、精一杯努力し、常に前を向いている、そんな生き方なんじゃね〜かな。』 
ヒートアップして、さらに体が熱くなる。

『そうっすね。周りの環境とかじゃなく、要は自分がどれだけ出来るかってことですよね。自分との戦い。なんか超ヤバいっすね。ケンタさんどんだけヤバいっすか。』 
ジュンペイの気分の高揚が、言葉を意味不明に変えてゆく。

『そうだ。人や周りに惑わされるな。自分の信念を貫け。やってやろうじゃねぇか。』 
繁華街で拳を握りしめるスーツ姿の若造2人が、明日の日本経済を支える。

『ケンタさん、俺、明日から超〜頑張りますよ。今日の俺なんてバイバイ、常に今の自分を超え続けてやる。信念を貫きます。』 
いつになく頼もしい後輩の姿。

『熱く語り合える仲間って、最高だな。』 
俺も清々しい気分だ。

『先輩、俺、信念を貫きます。だから、明日から頑張るために、ちょっとキャバクラ行きたいっス。この前、課長に連れてってもらったとこ。』 
ジュンペイの目が爛々と輝いている。

『しょうがねぇな。割り勘だぞ。』 
繁華街で拳を握りしめるスーツ姿の若造2人が、今日の夜の経済をも支えている。


<第15話>

前工場長のもと積み上げられてきたものが、新しい工場長により取り崩されていく現実。悪に立ち向かう正義が現れるのがドラマや小説の世界だが、そう上手くは行かないのが現実。

物事は、新しい工場長の思い通りに進んでいった。社員や作業員だけではなく、パート、派遣社員も削減されていく。取引先や下請け業者への影響も計り知れない。この大きな犠牲を、経営陣はどう考えているのか。断腸の思い、忸怩たる思いの上の経営判断だと信じたい。そうでなければ、犠牲者達は報われない。派閥争いや保身、私利私欲のための犠牲であれば、許されたものではない。

そして僕らも、今後は中堅社員として、やがては管理職として、我が社を支える歯車の1つとなっていく。その過程で、このような大きな犠牲があったこと、その上で会社の今があることを、決して忘れることなく、胸に刻み込まなければならない。それが残された者達の使命。

こんな会社、辞めようかとも考えた。でもこの使命感を抱きながら、まだまだ頑張っていかなければならない、そう意識は変わっていった。

そして、人事異動の時期がやってきた。思いもかけない異動が発表された。


<第16話>

新しい工場長が赴任してから3ヶ月。工場長の異動は例外的に行われたものであり、今回通常の人事異動の季節がやってきた。社内食堂でジュンペイと昼飯を食べながら、そんな話題が湧き上がった。

『そろそろ異動の季節ですよね。なんかソワソワしちゃいますね。』 
今日の日替わりランチはサバ味噌煮定食。
ご飯いっぱい口にほうばりながら、ジュンペイが話してきた。

『何言ってるんだよ。お前はまだ来たばかりの新人だろ。お前の異動なんかあるわけねーよ。』 
同じ日替わりを食いながら俺は返した。

『そうですけど。人事なんて何が起こるかわからないっスよ。新人だろうが何だろうが、でもそんなの関係ねぇ!!オッパッピーっすよ。』 
この前言ったキャバクラでちょっとモノマネがウケたからって、ジュンペイは最近そればっかだ。。。

『人事はどこまで考えてくれてるんだろうな。一人一人の人事異動なんて全体から見れば取るに足らないことだけど、当事者にしてみれば一大事だからな。』 
血と心の通った人事を行って欲しい。

そんな会話をした数日後、俺とジュンペイの直属の上司である課長に人事異動がなされた。

課長は、本社人事部へ栄転することとなった。


<第17話>

『課長ご栄転おめでとうございま〜す。』

『お−。みんなありがと−。』 
みんなの酌を受けて泥酔状態の課長が、相変わらずの低く渋い声で応えてくれる。もう何回目の乾杯だろうか。

今日は課長の送別会。で、こじんまりとした居酒屋で3次会のスタート。普段から仲のいい5人での3次会だ。

『課長〜、キャバクラのナオミちゃんは、ちゃんと僕に引き継いでくださいよ〜。』
 こっちも完全に出来上がっているジュンペイがそんなネタで絡んでゆく。

『人事に行ったら、まずはあのイエスの野郎をぶっ飛ばしてくださいよ。マジお願いします。』 
主任の先輩も工場長が到底許せないようだ。

『会社の成長は社員なしには語れない。人事とは、社員一人一人がモチベーションを高め、常に上昇志向を持って働ける環境を作り上げることだ。そしてそれが会社の経営戦略達成につながる。今の工場をみると、モチベーションを高めるのが難しい環境だよな。まあいろいろな経営判断の上のことだとは思うが。』 
課長が熱燗を空けるスピードは止まらない。

『たしかに新しい工場長を置いた人事が正しかったのかどうかは、会社全体の今後の業績などをみなければわかりませんが、一つの人事がこれだけ社員のやる気を削いでいるという事実だけは、人事にもちゃんと伝えてもらいたいです。』 
普段おとなしい先輩もこのことについては譲れないようだ。

『でも課長みたいにちゃんと部下のことを考えてくれる人が人事に行くのは、会社全体としてみれば大きなプラスですよね。課長、期待してますよ。』 
俺は本心からそう思う。

『お前らの気持ちは痛いほど分かる。俺にどれだけ力があるかはわからないが、この経験を生かして頑張るつもりだ。お前らもしっかり頑張ってくれよな。』 
課長から一人一人に言葉が贈られる。

言う方も言われる方も泥酔状態だが、
『ケンタ、お前は人の心がわかる男だ。その心を忘れるなよ。そして絶対に偉くなれよ。』 
この言葉は忘れない。

『ジュンペイ、お前にはナオミちゃんはまだ早い。ナオミちゃんを振り向かせるくらい、仕事頑張ってカッコいい男になれよ。』 
たぶん、この言葉も忘れない。

こうして思い出話に花を咲かせた。


<第18話>

工場長が異動でいなくなり、課長も異動でいなくなった。そして工場の生産ラインが縮小し、ここで働く人も減っていった。それでも時は流れる。工場も動き続ける。毎日始業の鐘は鳴り、毎日終業の鐘も鳴る。

工場長が飛ばされるのを知った時、誰のために働くのか、なんのために頑張るのか、それがわからなくなった。

そんなこともあった。

工場長は相変わらずだが、新しい課長も頼りがいのあるタイプで、また違った観点から俺を指導してくれている。ジュンペイにも後輩が出来、持ち前のエネルギーでバリバリ突っ走っている。

誰のために働くのか?
『汝がために鐘は鳴る』とも言い切れない。『それは私』とスズメも言わない。

働く理由なんて人それぞれ。答えもなければ、正確もない。家族のためだっていい。自分のためだって。夢のためだって。ナオミちゃんのためだっていい。

きっと答えは1つじゃない。

そう冷静に受けとめてしまった俺。大人になったからなのか。成長したからなのか。これは進化なのか。それとも退化なのか。

Regress ? or  Progress ?


<第19話>

人事部の課長のもとへ、前工場長がやって来た。
「やあ、ご栄転おめでとう。本社はどうだい?」
課長は立ち上がり、前工場長を迎える。

「ご無沙汰していました。お元気そうで何よりです。」

「実はな、早期退職制度を利用しようかと思っているんだ。」 
工場にいた頃よりは穏やかな顔をしている。

「知り合いのちょっとした小さな工場で働かないかと話があり、家からも近いし、前向きに話を進めていこうかなんて考えている。」 
やはり、人事異動の傷は癒えないんだろうか。

「あれからいろんなことを考えたよ。辛く悲しい思いももちろんした。でも、大切なことを気付かせてくれた。」 課長は完全に聞き手にまわっている。

「どうだ?やっぱり俺は出世ラインから外れた負け組みにしか見えないか?」 
笑いながら前工場長は続ける。
「仕事は、わがままも許してもらったし、自分の好きなようにやらせてもらうことが出来て、本当に満足している。この年にもなって、他人の評価が全てで一喜一憂するなんて寂しい人生じゃないか。自分の信念を貫いて今までやってきて本当に良かったと思っている。そして工場長としていい仲間たちに囲まれて、これ以上の贅沢はあるか?俺は胸をはって会社を辞めれるよ。俺は頑張ったってな。これからも、新しい現場でバリバリ頑張るさ。君とか、工場のケンタとか熱いハートの男には、後悔しない充実した仕事と人生を歩んでもらいたい。信念と誇りをもって、楽しかったと胸をはれるよう頑張って、この会社を支えていって欲しいと思うよ。老兵は去るのみ。頑張ってくれ。みんなによろしくな。」 
そう言って、前工場長はこの部屋を後にした。

俺は、数週間後に課長の口から聞いた。さすが男だなって率直に思った。ジュンペイもわかってんだかわかってないんだかよくわからないが、「格好いいっスね」と口にしていた。

俺は、それから前工場長に会うことはなかった。でも、前工場長は工場にいろいろなモノを残していった。一緒に働くことが出来たのはわずかだが、俺の心の中にもたくさんのモノが残っている。

「胸をはって辞められる」という言葉の意味を深く感じる。それは、時をかけて、社会をめぐって、次代に引き継がれ、そうして誰かの心に伝わっていく。そうして時代に刻まれてゆく。

そのために、鐘は鳴っているのかもしれない。


<第20話>

若さと元気だけが取り柄だったジュンペイも、今では一人前に仕事をこなしている。大きな仕事も少しずつ任されるようになってきた。そして、仕事の質と量の増加とともに、苦労や責任も少しずつ増え、時には大きな壁にぶち当たったりしているようだ。

定食屋で晩飯を食いながら、ジュンペイが聞いてきた。

『ケンタさん、工場長がかわるときに、何のために働くのかわかんなくなったって言ってましたよね。答えは出たんですか?』

『答えなんてないんだよ。ないと言うか、なくてもいいじゃんみたいな。』

『僕も最近ツラいなとか空しいなとか、たまに何で頑張ってるのかわかんなくなったりしますよ。そんな時は何で頑張ってるんだろうとか悩んだりしちゃいます。同じだなと思って。』

『仕事がうまくいってる時は、きっとそんなこと考えずにバリバリ働いていて、仕事だって仕事以外だって充実した時間を過ごしていて、そんなこと考えたりしないんじゃないかな。仕事でつまずいたり、上司や同僚と合わなかったり、仕事が上手くいってない時に、何で頑張ってるのかとか、何のために働いてるのかとか、何かのきっかけを見つけたくて、そんなこと考えたりするんじゃないかなと思って。』

僕たちを走らせている無数のもの 
夢だったり目標だったり 
誇りだったり信念だったり 
家族だったり仲間だったり 
楽しみだったり趣味だったり 
振り返ればいろんなものが集まって 僕てちの背中を押してくれているはず

でも辛い時や苦しい時に それらに気がつかないで ふと立ち止まって考えてしまう 何のために走っているのか

ナンノタメニガンバッテイルノカ

理由が欲しくて きっかけが欲しくて 僕らは悩み苦悩する

でもいろんなものが背中を押してくれていることに気付き 僕らはまた走り出す 
そうして世界は回っている

『答えなんか見つからなくても、そうやって悩んで、壁にぶち当たって、また頑張っていけばいい。辛い時は泣いてもいいし、飲んでもいいし、無理する必要なんかないよ。』 
こう言いながらジュンペイがまた成長の階段を一歩ずつ登っていくのを俺は喜んでいた。

『ケンタさん。そうですね。今は辛いけど乗り越えなきゃならない壁ですよね。乗り越えた先にはまた一歩成長した俺が待っているから。』

『そうだ。頑張れよ。みんな期待しているんだから。』

『ケンタさん、辛い時は泣いても飲んでもいいんですよね。』

『ああ、リフレッシュして明日の活力を生むのも大切だからな。』

『じゃあ、これからナオミちゃんの店行きましょう。可愛い後輩の明日の活力のためですよ、先輩。』 
こうして夜が更けてゆき、また明日が始まってゆく。

課長も、工場長も、部長もみんな、こうして壁にぶち当たって、成長していったはず。

僕らも同じように成長の階段を登ってゆく。出世して歴史に名を残す人も入れば、心や技術を伝承して後世に名を残す人もいる。目指すべきものは、人それぞれ。何のために働くのか、それも人それぞれ。

でも誇りと信念を大切に、明日へ生きるサラリーマン物語。

ケンタとジュンペイを代表する世代の未来に期待して。(完)


<epilogue>

ここは別世界。小さい頃、東京ディズニーランドに行った時に、ここは別世界、まるでファンタジー、なんて体験をした時のように、俺は今ここで素晴らしい体験をしている。

そう、ここは別世界、大人のファンタジー、in キャバクラ。

『ジュンペイくんお疲れ〜』

『うぃ〜』 
水割りのグラスが重なり合う。

『会社という戦場でひたすら戦い続ける俺。この俺の心の隙間を埋めてくれるもの。それがナオミちゃん。君の瞳と笑顔だ。』

『もうジュンペイくんったら口が上手いんだから〜。』

『本当だってば。俺もようやく1人で仕事任されるようになってさ、嬉しいしやりがいあるんだけど、やっぱ責任も大きいし俺もまだまだ未熟で毎日大変なわけ。何のためにこんなに頑張ってんだろうとか悩みも多いしさ。どんだけナオミちゃんに癒されてるかわかってる?もうどんだけ〜。』

『そうなんだ〜。ありがとう。ジュンペイくんの真面目に頑張ってる姿とかも見てみたいな。』 

この別世界とも言える時間と空間が、お酒とともにいろいろなモノを忘れさせてくれる。

『ナオミちゃんはさ、何で毎日頑張れるの?』

『う〜ん。やっぱり私に逢いに来てくれる人がたくさんいるのも嬉しいし、私と話して楽しかったとか元気が出たとか、喜んでくれる顔を見れるのが一番かな。凄く励みになるよ。もちろんジュンペイくんの言葉もね。』

『そうだね。僕も上司の評価とか抜きに、お客さんや取引先の笑顔、仲間達の感謝の言葉、自分の中の達成感、いろいろ励みになることも多いな。もちろん一番励みになるのはナオミちゃんの笑顔だけど。』

『もうジュンペイくんったら、まともなこと言ってるようですぐからかうんだから〜。』 
彼女の笑顔が僕を幸せする。

僕の幸せが笑顔をつくり、また誰かが幸せになる。

僕のした一つの仕事が また新らしい何かを生み出し 新しい何かを作り上げてゆく

僕のした一つの仕事が この世界を回り回って また誰かを幸せにして 誰かの笑顔を生み出している

そうして世界は回っている

ナオミちゃんの笑顔が僕を幸せにし 僕の仕事が誰かを幸せにしその誰かがまた新しい誰かを幸せにする

それはサラリーマンだって 政治家だって キャバクラ嬢だって ラーメン屋さんだって 主婦だって 誰かを幸せにして 誰かに幸せをもらっているのは 生きている限りみんな同じ

誰かを支え 誰かに支えられ 僕らはまた生きていく

こんな僕でも 誰かを幸せにすることが出来るんだね 
そう信じて 明日も頑張ろう。

(久しぶりに読み返したけど、結構面白かったなぁ)

kou_blue97 at 00:27|PermalinkComments(0)

2016年12月19日

GIFT〜love one another〜(第局堯

GIFT〜love one another〜(第局堯

※この物語は僕が2013年に作った短編小説風の物語を、remakeしたものです。

「Xmasの贈り物〜1つの恋の物語〜」の続編



<第1話>

X'masは赤ちゃんを囲みながら家族水入らずで過ごし、年末年始は実家に帰ったケンジ。家族の絆を再認識する時間が流れる。胸の中につかえる罪悪感と背徳感。夜、布団に入り寝ようとすると、ケイコの笑顔が思い出される。

「こういう風に終わって良かったんだ」  

そう、言い聞かせる。それが正しい選択。年が明け、また現実の多忙な日々が戻る。仕事は忙しい。忙しくて、幸せだ。いろんなことを忘れさせてくれる。

「家族のために、チビのためにも、頑張らないとな。」  

充実した日々。

「ケンジさん、最近輝いてますね!なんかいいことあったんですか?」  

昼飯を食いながら、ジュンペイが声をかける。

「まぁな。守るべきものがあると、男も強くなるんだよ。お前もそのうちわかるさ。」  

軽くケンジが返す。

「今日は夕方から営業会議ですよね。終わったらパァーと行きましょうね!」

営業会議。3月は多忙だ。スケジュール確認のため手帳を開く。3月19日に赤いマークが。

「ケイコさんの誕生日だ。」  

忘れかけていたケイコを強く思い出す。


<第2話>

X'masは、娘と息子のために料理に腕をふるう。毎年恒例のクリスマスチキンと手作りケーキ。子供達のリクエストどおり。旦那とは10年くらいクリスマスなど過ごしていない。もちろん旦那からはプレゼントなどない。毎年、手作りのクリスマスケーキを美味しそうに食べてくれる子供達の笑顔が最高のX'masプレゼント。それだけで充分に幸せ。

それに、今年は。。。ケンジとの楽しいひと時。

「神様がくれたX'masプレゼントだったのかな。」 

大切な思い出として胸に刻み込まれた。

でも、もう思い出してはいけない。胸の奥に封印しないと。夢は見ない。見てはいけない。目の前の現実という幸せを、子供達の笑顔を、大切に守らなければならないんだから。

「たぶん、人生で男の人とKissをすることなんて、もう二度とないことだろうな。。。」 

ケイコは自分にそう言い聞かせた。


<第3話>

明日はケイコの誕生日。3月ということで、仕事は忙しい。世間は出会いと別れの季節だ。

「仕事がケイコさんを忘れさせてくれるかと思ったけど、結局忘れられなかったな。」 

取引先との飲みの後、帰りの電車でケイコのことを考える。

「最後の別れにあんなキスされたら、忘れられるわけないよな。」 

背徳感と罪悪感を、自分だけのせいじゃないと、正当化させようとしている。

「とりあえず、明日はケイコさんの誕生日。自然にBirthdayメールを贈って、どんな反応してくれるか。それからだな。」 

頭の中で、いろんなシチュエーションを想定する。もちろん、返事が来ないことも当然ありえる。

ケイコの気持ちは、わからない。でも、心優しい女性だから、ちょっと向き合って返事はくれるだろう。

「もし返事が来なかったり、イマイチな返事だったら、未練なく諦める。」 

そう覚悟を決め、ケイコの誕生日を迎える。
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2016年12月18日

Xmasの贈り物〜1つの恋の物語〜(第吃堯

最近、クリスマス前の恋の楽しい話を聞く機会が多いので、こんな物語を思い出しました。



「Xmasの贈り物〜1つの恋の物語〜」(第吃堯

※この物語は僕が2008年に作った短編小説風の物語を、remakeしたものです。


<第1話>

『お疲れ様です。お先に失礼します。』 

5時半頃、ケイコは会社を出て駅へと向かう。秋風が身にしみ始める季節。

『今日は温かいお鍋にしようかなー』 

と独り言をつぶやきながら、子どもたちが待つ家へと向かってゆく。

ケイコは今年37歳。いわゆる一流企業に勤める夫がいて、中学生の娘と小学生の息子に囲まれた、そんな普通の家庭。普通以上の理想に近い家庭。

実態はちょっと違う。

夫はここ数年単身赴任中で、家庭には寄りつかない。もともと同居していた頃から、つきあいだ接待だと家庭をかえりみることなんてなかったし、女の影もちらほら見え隠れしていて、単身赴任という名目で別居が出来てお互い清々している。

ケイコは子どもたちを連れて、単身赴任中だけということで、実家の母と同居して、昼間は外に働きに出る。

『子どもたちは私が守る』 

そんなケイコの冬物語。


<第2話>

ケイコは最寄り駅そばのスーパーで買い物をするのが日課。夕食の準備は自分でする。そして子どもたちと夕食を食べる。

それだけは譲れない。

その信念は変わらない。帰宅して夕食をつくり、子どもたちと食卓を囲む。そして台所を片付け、明日の準備をする。子どもたちが寝るまでは休まる暇がない。でも、絶対に仕事を言い訳にはしない。

私は夫とは違う。

そう自分に言い聞かせて。子どもたちが寝静まった後、ゆっくりお風呂に入るのがささやかな幸せ。深夜にベッドに入り、朝早くから朝の準備。こうしてケイコの毎日が過ぎていく。

家庭を守り、子どもを育てて、外で働く。それが当たり前であり、毎日のごく普通の生活。それがたぶん、親として、人間として、生きているということなんだ、と感じながら。


<第3話>

ケイコの職場はオフィスビルが立ち並ぶ街の一角にある。仕事は経理だったり庶務だったり事務やら雑用やらの何でも屋さん。与えられた仕事は真面目にテキパキこなすタイプであり、若い女性陣からの評判も悪くない。事務所はそんなに大きいわけではないが、毎日多数の営業マンや業者の人達が出入りする。

たくさん事務所に訪れる営業マンたち。その中にケンジもいた。

ケンジ28歳
ケイコ37歳。

ただの営業マンと普通の事務員。

そんな2人の、クリスマスの物語。


<第4話>

ケンジは営業マン。

実質的な営業ノルマは厳しいが、人脈が広がっていく仕事がそれなり楽しい生活。入社5年目で、営業も自分の形を築き上げつつある年頃。

そして結婚3年目。今年子供を授かったばかりであり、父親としても、人間としても大きく成長していく年頃。

『ジュンペイ。今日ちょっと飲んで帰ろうか。』 

営業から戻ったジュンペイに話しかける。

『いいっスけど、最近飲み続いてますよね。ご家庭大丈夫っスか?』 

ジュンペイが一応気遣う。

『仕事には打ち合わせが必要だろ。打・ち・合・わ・せ。』 

ケンジが強引にジュンペイを連れ出す。

『いやー寒いですねー。こんな日はやっぱお湯割りですよね。』

『こう寒い日が続くと彼女に温めてもらいたくなんねーのか?早く新しい彼女見つけろよ。』

そう言ってケンジが生中を流し込む。

『彼女は欲しくてもなかなか出来ないんですよー。それよりケンジさん赤ちゃんはもうハイハイしてるんですか?』 

ジュンペイがモツ鍋をつつく。

『なんかさー。仕事もそれなりにうまくいってて、子どもも超可愛いけど、なんか家に帰りたくないんだよね。』 

ケンジがジョッキグラスを見つめながら語り始めた。


<第5話>

『仕事とか接待とかで帰りが遅くなるとさ、「男は仕事だけやってれば許されるんだからいいわね」って、冷たい顔をされるんだ。』 

ケンジは遠い目をして続ける。

『子育てってさ、かけがえのない幸せである反面、ものすごくエネルギーを費やす。嫁がさ、家事と育児で家庭を切り盛りして大変なのはよくわかる。感謝こそすれ、非難なんかするつもりはないよ。でもさ、俺だってクタクタになりながら仕事してきて、家族のために嫌なことがあっても耐えて。それなのにそんな冷たい態度が続けば、俺もちょっとキツいよな。なんのために頑張ってんのかなって。』 

ケンジがビールを流し込む。

『うーん。難しいですね。。。』 

ジュンペイが唸る。

『なーんて本当に贅沢な悩みだよな。わかってるんだ。理屈じゃなくて、頑張るしかないって。』 

いつもの笑顔のケンジに戻った。

『まだ8時だな。よーし、』

『じゃあパァーッと行きましょうか。最近いいキャバクラ見つけたんですよ。ナオミちゃんって可愛い子が、』

『ばーか。俺は妻子のいる我が家に帰るよ。ジュンペイもいいかげん落ち着けよ。』 

ジュンペイの優しさを感じながら、早めに帰路につくケンジだった。
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2016年08月09日

黒潮の雰囲気に流されて(第15話)

「ねえ先輩。再来週の日曜日空いてませんか?大阪で待ってまーす。」

遥からのお誘い。

ちょうど空いてるし。

「良かった。じゃあ、朝9時に新大阪駅まで迎えに来てください。よろしくです♪」

朝9時に大阪って、徳島6時出発じゃないか・・・。いつも振り回されるなぁ。嫌いじゃないけど。



そして、日曜日。

早起きして、大鳴門橋と明石海峡大橋を渡り、合流。

遥「お久しぶりです。先輩。私に逢えなくて寂しかったですか?」

俺「うん。とっても寂しかったよ〜。って、結構早起きだったんだけど・・・。」

遥「こんな時間に来てくれるなんて、愛の力ですね。嬉しい。」

俺「はいはい。ところで、今日はどこ行きたいの?とりあえず、車に乗るか?」

遥「もちろん、ドライブ連れてってくださいね。」

俺「神戸、大阪、京都、淡路島、どこでも連れて行ってあげるよ」

遥「う〜ん、行ったことのないところがいいな。じゃあ、和歌山とか!」

俺「和歌山?何があるの?」

遥「わかんないけど、初めての県がいいの。だから、レッツゴー!」

俺「はいはい。でも、明日は仕事だから、あんまり遠くまでは行けないよ。」

遥「わかってます。私も東京に帰らないとダメだから大丈夫。」



車は阪和高速に乗り、海沿いを進む。

遥「海沿いの景色、首都高速湾岸線に似てるね。もっと自然な海がみたいわ。」

俺「和歌山県に入ったら、そんな海に出会えるかもね。」

車は南下を続け、和歌山県へ。

紀ノ川SAで休憩。

遥「ねえ、見て見て〜。みかんジュースがいっぱい。面白〜い。」

俺「ホントだ。飲み比べてみようか。甘いのと、酸味が強いのと両方。」

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俺「はっさく、酸っぱいね。」

遥「酸っぱいけど、ビタミンたっぷり。日焼けにはビタミンCが欠かせないから、夏には最高。」

俺「きよみは、甘くて美味しい。」

遥「先輩、子供みたい。うふっ。」



SAで情報を得て、和歌山マリーナシティへ。



フランス風の広場。

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イタリア風の路地。

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遥「なんか、デートっぽくなってきましたね。」

恋人つなぎで寄り添う2人。

俺「腹減った〜。」

遥「ムードないんだから。もう〜。でも私もお腹すいたけどね。」

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黒潮市場でマグロの解体ショー。

遥「マグロは美味しいし、お土産はミカンと梅だらけ。面白〜い。」

俺「ホントに。楽しいな〜。」



遥「でも、まだ帰らないわよ。南紀白浜の海に向かってGO!」

俺「もう昼下がりだから、そんなに遠くまで行けないよ。」

遥「途中まででもいいからいいから。とりあえず南下してきれいな海を見せてちょうだい。」



車はさらに南下し、ミカンの町、梅の町、そして美しい海が広がる町を堪能。



俺「おい、そろそろ帰るぞ。」

遥「は〜い。」

俺「新大阪まで2時間以上かかるじゃん。しかも大渋滞。新幹線はラスト何時?」

遥「えっと、21時かな。」



俺「全然車が進まないよ。新幹線間に合わないかも。」

遥「じゃあ、大阪で1泊しちゃいましょうか。」

俺「えっ?仕事じゃないの?」

遥「実は、明日はお休みでした〜。」

俺「なんたよ。俺、ふつうに仕事だけど。」

遥「朝早く起きれば大丈夫。ちょっとくらい遅刻したっていいから、今夜は楽しみましょう!」

俺「全然良くないんですけど・・・。」

遥「とりあえず、スマホでホテル取れました。だから、もう急がなくていいですよ。ゆっくり帰りましょう。」



SAで見つけた「平和クラフトビール」を飲み出す遥。



俺「黒潮にいいように流されて漂流している気分なんですけど・・・」

遥「私と夜を過ごせるなんて、贅沢だぞ!うふっ。」

俺「まあ、いいけどさ。で、いつから泊まる気だったの?どこまでが計算なの?」

遥「ご想像におまかせしてま〜す。先輩、大好き。」





<第1話はこちら>
咲良がさくとき(鹿児島編)

<第2話はこちら>
咲良がさくとき(岡山編)

<第3話はこちら>
春が来るのはまだ遙か・・・(池袋編)

<第4話はこちら>
春が来るのはまだ遙か・・・(浅草編)

<第5話はこちら>
タブーの花が咲いてしまった(第5話)

<第6話はこちら>
タブーの花が咲いてしまった(第6話)

<第7話はこちら>
タブーの花が咲いてしまった(第7話)

<第8話はこちら>
タブーの花が咲いてしまった(第8話)

<第9話はこちら>
阿波で心も浮いてきた(第9話)

<第10話はこちら>
阿波で心も浮いてきた(第10話)

<第11話はこちら>
ワインの花がまだ開かなくても(第11話)

<第12話はこちら>
ワインの花がまだ開かなくても(第12話)

<第13話はこちら>
幸せは涙の中に咲いていく花(第13話)

<第14話はこちら>
幸せは涙の中に咲いていく花(第14話)



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2016年05月07日

幸せは涙の中に咲いていく花(第14話)

遥「私はその頃も船橋とか成田山とかでkou先輩とデートしてましたよ。やったー。咲良さんに勝ってる所もありました。」

咲良「遥ちゃん、負けず嫌いだね・・・。面白い。」

遥「だって、ずっと咲良さんには負けてたんだから、1つくらい勝ちたいですよ。」

咲良「遥ちゃんが勝ってる所なんて、たくさんあるのにな。」

房総半島の最南端に到着。

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海に囲まれる。

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遥「絶景ですねー。」

咲良「海が広がってるね。癒されるー。」

遥「海って、心が和みますよね。そして、思い出す。」

咲良「うん。思い出すね。」

遥「kou先輩との小樽の海ですか?」

咲良「そうだね・・・。懐かしいな。」

遥「私だって、瀬戸内海とか・・・先輩の海の思い出をたくさん上塗りしてますよ!」

少しの間、沈黙が辺りを包み、波の音だけが響き渡る。



咲良「遥ちゃん、私ね、新しい彼氏が出来たの。」

遥「えっ・・・。そうなんですか・・・。いつからですか?」

咲良「まだ、つき合って2週間くらいだよ。」

遥「そうなんだ。どんな人ですか?」

咲良「仕事の関係で知り合った人なんだけど、実は結構年下なの。優しくて、芯が強くて真っ直ぐな人、かな。」

遥「優しくて、真っ直ぐな人だなんて、先輩みたいですね・・・。」

咲良「ううん、全然似てないよ。」

遥「それで、咲良さんは先輩のこと、完全に忘れられたんですか?」

咲良「難しいけど、忘れるしかないよね。これから時間をかけて。忘れるためにも、kouには伝えたよ。彼氏が出来たよって。」

遥「先輩に伝えたんですか?先輩は、何て言ってました?」

咲良「kouはね『おめでとう!応援するよ!』って」。

遥「咲良さんは、忘れるために頑張ってるんですね。私は、どうやったら忘れられるかな・・・」

海はずっと波を打ち続け、水しぶきと潮の香りを運んでくれた。



2人は海を後にし、宿にたどり着いた。

房総半島と言えば、伊勢海老。千葉県は伊勢海老の水揚げが日本一だ。

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遥「伊勢海老も海の幸も全部美味しいですね。」

咲良「花と海に囲まれて。美味しい海の幸と温泉があって、ホント幸せ過ぎる。」

遥「今日も、日本酒が進んじゃいますね。」

咲良「遥ちゃん、温泉にもう1回入るんだから、飲み過ぎちゃダメよ。」

遥「はーい。でも飲まずにいられないですけどねっ。」



酔いが進む前に温泉に入り、また飲み直す2人。

咲良「遥ちゃんは、彼のこと本当に好きなんだね。」

遥「好きですよ。咲良さんよりも、先輩を好きな自信があります。でも、彼にとって咲良さんは特別なんです。」

咲良「私はね、そんなに好きじゃないかも。ってゆうか、大学時代につき合っていた頃は本気で好きだったよ。でも10年以上会ってなかったし、その間に結婚もしたし、離婚もしたし。その10年以上の間、彼は私の人生に登場してこなかったから、ずっと好きだったわけじゃない。そういう意味では、遥ちゃんの方が長い関係よね。私は、たぶん負けてる。」

遥「私は、その10年間彼に愛されてきました。私だけが特別な存在だと思ってました。でも去年、鹿児島で先輩と咲良さんが偶然出会ってしまっただけで、たった1回再会しただけで、咲良さんはまた先輩の中で特別な存在になってしまったんです。それはとても悔しいですよ。」

咲良「そう。私も10年以上も彼のことなんて頭の中になかったのに、鹿児島で偶然出会って、一緒にお酒を飲んでいたら、幸せだったあの頃を思い出して、あの頃のように愛して欲しいって思ったの。止まっていたはずの時計の針が、動き出してしまった感じ。やっぱり運命の人なのかなって思っちゃった。」

遥「羨ましいな、そんな一瞬であの頃の関係に戻れるなんて。それを聞いて、泣いた日もあるし、自信を失った日もあります。咲良さんが、私の中でいつも輝いて見えるから。」

咲良「私も10年以上ぶりに愛されて幸せで、運命かもってさえ思ったけど、現実が待ち構えているの。彼には奥さんがいて子供がいる。時計の針は戻ったようで、実際の時間は戻らないのよ。それを思い出すと、私も悲しくて泣いた日もある。だからね、こないだも話したけど、後悔もしたくないし、過去にもすがりたくないから、前を向いて生きるしかないのよ。そう思って、新しい恋に踏み出せたところなの。」

遥「先輩には、過去には咲良さんがいて、現在には奥さんがいるの。私はいつも1番にはなれない・・・。新しい恋、私も踏み出せるかな。」

咲良「遥ちゃんは、彼とどうしたいの?このままでいいの?結婚まで考えてるの?」

遥「先輩が奥さんとお子さんを愛してるのはわかってます。だから、先輩との結婚に期待を持つほど私も子供じゃありませんよ。私だって、この10年間の間にいろんな恋をしてきましたから。年上も、年下も、バツイチともつき合いました。先輩には全部内緒でしたけど。でも、先輩よりもいい男には一度も出会えていないんです。『この人なら』って男と出会ったら、すぐに先輩に自慢しようって決めてるんですけどね。」

咲良「遥ちゃんも、いろんな経験をして、いろいろ悩んでるんだよね。そんな歳だもんね、私たち。」

遥「私も、本当は後悔もしたくないから前に向かっていきたいんだけど、どんな後悔が待ってるか考えると怖くて、泣いちゃいます。先輩よりも素敵な男に出会えたら幸せだけど、出会えなくて先輩までも失ってしまったら、私は強く生きていく自信がないです。もし、先輩よりも素敵な男に出会えないんなら、無理に結婚なんかしないで、先輩の特別な人であり続けるしかないのかなって、諦めも感じつつあるんですけどね・・・。泣いてばかりの人生になりそうですけど。」

咲良「私だって、新しい彼と本当に愛を育めるのか、不安で心配で眠れない日もあるよ。でも、私は諦めたくない。」

遥「先輩っていう逃げ場があるから、甘えちゃうのかな。一度、断ち切らないと幸せを掴めないのかもしれないなって思うこともあります。もちろん。でも、失うにはかけがえのない人だから。」

咲良「答えはわからないよね。何が正しいのか、何が幸せなのかは、わからない・・・。」



咲良「今日見た花、とってもきれいに咲いていたよね。幸せの花が私にも咲くのかなって不安になる時もある。でもね、女の涙の中にはね、幸せの花が少しづつ咲いていくんだよ。幸せの花は、涙の先にあるの。泣き止んだ微笑みの中に。だから、泣いてもいいし、強がる必要もない。ちゃんと芽を出して、やがて花は咲くの。そう信じてるんだ。」

遥「咲良さん・・・。私も、たくさん泣いちゃうこともあるけど、幸せの花が少しづつ咲いてるかな。」

咲良「きっと咲いてるよ。そう信じよう。」



ねえ、貴方のせいでたくさん涙を流してるよ。

それでも貴方を愛しているの。

涙の中で、幸せの花が少しづつ咲いているの。

貴方の前で微笑む時にも、咲いてるのよ。

貴方にも、ちゃんと見えてますか?






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咲良がさくとき(鹿児島編)

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咲良がさくとき(岡山編)

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春が来るのはまだ遙か・・・(池袋編)

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春が来るのはまだ遙か・・・(浅草編)

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タブーの花が咲いてしまった(第5話)

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タブーの花が咲いてしまった(第6話)

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タブーの花が咲いてしまった(第8話)

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阿波で心も浮いてきた(第10話)

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ワインの花がまだ開かなくても(第11話)

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ワインの花がまだ開かなくても(第12話)

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幸せは涙の中に咲いていく花(第13話)



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2016年05月06日

幸せは涙の中に咲いていく花(第13話)

「咲良さん、そういえば東京にいらっしゃるんですよね。久しぶりにお会いしたいです。ご都合の良い週末があれば、2人で女子旅しませんか?」

遥ちゃんからのメール。

遥ちゃんとはお正月に札幌で再会した後もたまに連絡を取り合っていたけど、「東京に引っ越しが決まったよ」と連絡して、「近いうちに飲みに行きましょう」と言われてから、連絡を取らなくなった。

職場が変わって私が忙しくなったからなのかもしれないし、いつでも会える距離に近づいたからなのかもしれない。

それなのに、このタイミングで連絡が来るなんて、先週kouとワイン巡りに行ったばかりだから、遥ちゃんも何か感ずるものがあったのかな。

でも、遥ちゃんとは会いたいな。女子旅も面白そうだし。



咲良「遥ちゃん久しぶりだね。来月の2週目と3週目の週末は大丈夫だよ。ぜひ女子旅行きたい!」

遥「ありがとうございまーす。じゃあ、来月の2週目でお願いします。土曜日の朝から1泊2日で。場所は私に任せてもらっていいですか?」

咲良「うん。お任せします。楽しみだね。」

あっという間に、遥ちゃんとの女子旅が決まった。さすが私と遥ちゃんの間柄。楽しい旅になればいいな。

数日後、遥ちゃんからメールが来た。

遥「場所は決まりました。花と魚の房総半島です。私の運転で行きますので、安心してください。」



土曜日の朝。遥の運転で女子旅が始まった。

咲良「遥ちゃん、今日は誘ってくれて、運転もしてくれてありがとう。とっても嬉しいよ。」

遥「こちらこそありがとうございます。私も咲良さんに会えて嬉しいです。いろいろ話したかったです。」

咲良「そうだね。天気もいいし、アクアラインも房総半島も初めてだから楽しみ。」

お互いの仕事や生活の近況報告で快適なドライブは進み、房総半島を順調に南下。

まずは南房総で花めぐり。

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花々に囲まれて。

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咲良「初めて房総半島に来たんだけど、東京から数時間でこんなに花に囲まれるなんてヤバいね。最高。」

遥「房総半島初めてなんですね。実は私もです。近いのに、こんなに花が咲いてるなんてホント素敵〜。」

咲良「花に囲まれると心が癒されるね。さすが遥ちゃん。ナイスチョイス!」

遥「ありがとうございます。でも、本当は房総半島に決めた理由があるんですよ。咲良さん、わかりますか?」

咲良「えっ、なんでだろう。花がきれいで魚が美味しい。とかじゃなくて?」

遥「もちろん、それもあるんですけどね。癒されたかったし。それよりももっと大きな理由があるんです。」

咲良「なんだろう。私か遥ちゃんに関係あるのかな?暴走してるとか?」

遥「咲良さんと行くなら千葉県って決めてました。千葉県、kou先輩が5年間住んでいた所ですから。私と咲良さんに相応しいかなって思って、決めました。」

咲良「そっかー。kouって千葉に住んでたんだよね。その頃のkouのことは全然知らないな〜。」

遥「私はその頃も船橋とか成田山とかでkou先輩とデートしてましたよ。やったー。咲良さんに勝ってる所もありました。」








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2016年04月29日

ワインの花がまだ開かなくても(第12話)

土曜日、朝から俺と咲良は新宿駅から特急あずさに乗り、勝沼に向かう。

咲良「やっぱり駅弁を食べると、小旅行って気分を味わえるね。」

俺「朝から食欲旺盛だね。」

咲良「うん、ずっと楽しみだったから。天気も良くてよかった。後は、ワインを飲みながら素敵な思い出になればいいな。」

俺「いつからワイン好きになったの?」

咲良「実は、ドラマで『神の雫』を観てから飲むようになっただけのミーハーだよ。」

俺「俺も漫画で読んだからちょっとわかる気がする。ワインの世界観に触れられたら嬉しいな。」



電車は勝沼ぶどう郷駅に着いた。

ぶどう畑が広がる光景。

咲良「すごーい。ぶどう畑!」

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俺「これは素敵な光景だね。圧巻。」

咲良「ワインが楽しみ。早く行こう!」



ぶどう畑の脇の道を息を切らせながら小高い丘を登る。

そして一面に広がるぶどう畑が心地よい。

甲州市勝沼ぶどうの丘に到着。

地下の貯蔵庫(ワインカーヴ)では、200近い銘柄のワインが並び自由に試飲が出来る。

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俺「赤から飲む?白から飲む?」

咲良「白から飲みたい。」

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まずは白ワインから試飲。

辛口を口に含むと大人の味わい。

俺「辛口だけに、辛いね。」

咲良「何、その普通の感想〜。」

そして次に甘口を味わう。

俺「うん。ぶどうの甘みと香りが口に広がる。」

咲良「美味しいね。」

ほどよい甘みと辛さのバランスを確かめるため、やや辛口とやや辛口を行ったり来たり。

咲良「これじゃあ、すぐに酔っ払っちゃうわ。気をつけないとね。」

俺「咲良の顔が紅くなってきて、可愛いよ。」

咲良「薄暗いけどちゃんと見えてるの?」

俺「あんまり見えてないよ。バレたか。」

咲良「もう〜。でも、白ワインは強すぎない適度な甘みがいいね。」



そして、ロゼをたしなむ。

咲良「いよいよ赤ワインね。」

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ライトボディの赤ワインから嗜む。

咲良「思ったより甘味が強いね。」

俺「甘いけど、ぶどうの力強さを感じる。」

そしてフルボディの赤ワイン。

咲良「なんか渋いというか、固い気がする。」

俺「そうかもね。あんまりワインに詳しくないけど、これが勝沼の赤ワインの味なのかな。」

いろいろな種類を味わうも、同じような印象のまま。

咲良「普段飲んでるボルドーとかのフルボディと違う気がする。」

俺「神の雫的に言うと、若くてまだ花が開いてないのかもね。」

俺たちは、地下ワインカーヴを後にした。



咲良「赤ワインを飲んだら世界観が変わるかなって思って期待してたけど、何も変わらなかった。」

咲良の表情が沈む。

俺「他にも試飲ができるワイナリーがあるみたいから、行ってみようよ。」



ワイナリーでの試飲を重ね、レストランで休憩しながらランチの時間だ。

咲良「私ね、昨日は逢うつもりはなかったの。結局逢っちゃったけど、本当は今日だけにしようって思ってたんだ。」

俺「そう言ってたけどさ、俺は逢えて良かったよ。」

咲良「実はね、ちょっと気になってる人が出来たの。だから新しい恋のスタートを切らなきゃと思ってた。」

俺「そうなんだ・・・。ちょっと妬けるけど、それよりもおめでとう。応援するよ。」

咲良「逢えるって聞かれたときは気になる存在だっただけなんだけど、最近、彼に告白されたんだ。」

俺「じゃあ、つき合ってるの?彼氏が出来たってこと?」

咲良「返事は急がないって言われてて、まだ返事はしてない。OKするつもりだけど、結構年下だから踏ん切りもつかなくて。だから、貴方に逢って美味しい赤ワインに出会えたら、新しい恋を始められるかなって思ったの。」

俺「年下なんだね。ちょっと意外だけどさ、年なんて関係ないよ。恋したいって思えるなら、いいんじゃない?」

咲良「それなのに結局、貴方に昨日逢いに行っちゃったし、赤ワインもちょっと期待と違ったし、なんか恋をスタート出来ないかも・・・。」

咲良の表情はさらに曇る。

咲良「さっきの赤ワインみたいに、私の恋もまだ花開かないのかな・・・」

俺「そんなことないよ。慣れてないだけで、ボルドーと違った良さもあるはずだよ。単純に比べられるものではないしね。」

咲良「そうよね。貴方と新しい彼だって、単純に比べられるものではないわよね。私と彼の愛はこれから育んでいくものだから。」

俺「そうだよ。彼のこと気になってたんだろ?告白されて、嬉しかったんだろ?その感覚は信じていいんじゃないか?」

咲良「貴方は、私にとって特別な存在だけど、でも、もう逢えなくなるわよ。」

俺「それは覚悟できてるよ。逢えなくたって、俺にとって特別な存在なのも変わらないし。それに、いつかまたきっと逢えるよ。」

咲良「そうね。でも、またすぐに逢えるってことは、新しい恋が上手くいかないことになるから、しばらくは逢えない方がいいな。私も、早く幸せになりたいから。」

俺「咲良なら、ちゃんと幸せになれるよ。」



そしてまたぶどう畑を眺めながら勝沼ぶどう郷駅まで歩く。

歩くというより丘を登る。

暑く息が切れるが心地良い。

自然の息吹きと香りを感じながら。

ちょっとした切なさも噛みしめながら。



帰りの電車では、咲良はすぐに眠ってしまった。

俺は、咲良の横顔を見て、心の底から幸せを願った。

ワインの花はまだ開かなくとも、咲良の恋は花開くはず。

そう信じている。





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ワインの花がまだ開かなくても(第11話)


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2016年04月28日

ワインの花がまだ開かなくても(第11話)

遥が徳島に来た1週間後、咲良から連絡がきた。

「大阪から東京に転勤になったよ。また東京で頑張るね。」

咲良も遥も、東京か。



そして夏、東京出張が決まった。

今までは東京に行くたびに遥に逢っていた。

でも、今回は咲良も東京にいる。

咲良に逢うべきか、遥に逢うべきか、どちらにも逢わないべきか。

数日悩んだ末、俺が声をかけたのは・・・

俺「来週の金曜に出張で東京に行くんだけど、金曜か土曜に逢える?」



彼からメールを貰って、嬉しさも大きかったけど、戸惑いも大きかった。

なぜなら、私には気になっている人が出来て、新しい恋の予感が生まれたところ。

だから、本当はもう彼には逢ってはいけないんだと思う。

でも彼に逢いたいし、新しい恋についても背中を押してもらいたい。

どうしていいかわからないから、その日は返信出来なかった。

1日悩んで結論が出た。

過去にすがってもいけないし、過ちが起きてしまってはいけないから、金曜日の夜は逢わない。

土曜日の日中だけ逢うことにした。

最後の思い出に。

咲良「久しぶりだね。連絡ありがとう。金曜日は遅くまで約束があるの。ゴメンね。でも土曜日は大丈夫だよ。」



咲良から返信が来た。

金曜日の夜がメインなのに、逢えないのか。

残念だけど、そう都合よくばかりはいかないよな。

俺「ありがとう。じゃあ土曜日によろしく。どこか行きたいところある?」

咲良「最近、ワインの魅力に惹きつけられてて、勝沼のワイナリーに行ってみたい。」





金曜日、東京での仕事は無事に終わった。

会社の後輩に軽く付き合ってもらい、ほろ酔い気分で新宿のビジネスホテルにチェックインした。

時計を見ると10時。

「遥を誘えば良かったかな・・・」

寂しさのあまり、遥のことを考えてしまう。

俺「新宿のホテルに入ったよ。明日はよろしくね。勝沼に行くのは初めてだから、楽しみだよ。」

咲良にメールを送る。

すぐに返信が来る。

咲良「やっぱり、逢いたい。今から部屋に行って泊まってもいい?」



しばらくして、部屋に咲良が来た。

咲良に会うのは鹿児島以来、1年以上経つ。

俺「ありがとう。嬉しいよ。」

咲良「ごめんね・・・、急に・・・。」

俺「謝らなくていいよ、何も言わなくていいから・・・。おいで。」

俺は咲良を抱き寄せた。

俺「俺は咲良のすべてを受け入れるから・・・」



出会ってしまえば、決して止めることのできない、特別な2人の愛。






<第1話はこちら>
咲良がさくとき(鹿児島編)

<第2話はこちら>
咲良がさくとき(岡山編)

<第3話はこちら>
春が来るのはまだ遙か・・・(池袋編)

<第4話はこちら>
春が来るのはまだ遙か・・・(浅草編)

<第5話はこちら>
タブーの花が咲いてしまった(第5話)

<第6話はこちら>
タブーの花が咲いてしまった(第6話)

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タブーの花が咲いてしまった(第7話)

<第8話はこちら>
タブーの花が咲いてしまった(第8話)

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阿波で心も浮いてきた(第9話)

<第10話はこちら>
阿波で心も浮いてきた(第10話)

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2016年04月27日

阿波で心も浮いてきた(第10話)

俺と遥はしまなみ海道を渡り、広島に抜け、岡山から瀬戸大橋を渡り、四国に戻るところだった。

遥「瀬戸大橋、長いですね。真っ直ぐー」

俺「そうだね。でも横風が強くて、車が揺れる〜」

遥「揺れる〜想い〜体じゅう感じて〜。先輩、感じてくれてますか?遥の想い。」

俺「感じてるよ。もちろん。でも、今は横風を一番感じてる・・・ちょっと怖い。」

遥「結構な距離を運転させてしまいましたね。夜は、マッサージで癒してあげますから。お楽しみに!」

瀬戸大橋を無事に通過し、香川県から徳島県に戻る。



俺「徳島着いたら、何食べる?鯛とか魚系か、阿波尾鶏系がおススメだけど。」

遥「そうですねー。先輩と一緒なら何でもいいけど・・・今日は阿波尾鶏で!」

俺「了解。ところで、宿は取ったんだっけ?」

遥「宿?取ってないですよ。私を1人にする気ですか?そんなわけないですよね!」

俺「はいはい。お付き合いしますよ。」



空腹もピークになりつつある頃、徳島に到着。

阿波尾鶏を堪能。

99319456.jpg阿波尾鶏


遥「美味しいですね。阿波尾鶏。一度見てみたいな〜阿波おどりも。」

俺「阿波おどりも凄いよ。本当に感動と興奮。男おどりも女おどりも素晴らしい!」

遥「すぐに約束できる関係ならいいんだけどね・・・」

俺「そうだな・・・」

口数が減り、すだち酒を飲む。



遥「年末に、札幌で咲良さんに逢いましたよ。」

俺「咲良に会ったんだ。元気だった?」

遥「元気でしたよ。私もホント久しぶりに会いました。偶然会って、そのまま遅くまで2人で飲みながら語り合いました。」

俺「偶然会ったんだ。そして遅くまで語り合うなんて、凄いね。何話したの?」

遥「何話したと思います?気になりますか?特別な2人ですもんね。」

俺「別に気にならないよ・・・。お前らだって、よき先輩と後輩だもん、積もる話もあるだろうし。」

遥「私と咲良さんには共通の点があるんですよ。わかりますか?」

俺「なんだろう・・・。難しいな・・・。」

遥「それはね・・・。まだ教えてあげない。もう1軒行きましょう。徳島のお酒が飲めるところでゆっくりと。」



場所を変えて、「すだち」と「なると金時」のお酒を堪能。

3fe0de98.jpgすだち酒


遥「で、私と咲良さんの共通点は?わかりましたか?」

俺「共通点ね。どっちも、いい女。」

遥「それは当たり前じゃないですか。心当たりがあるけど、言いにくいですよね。」

俺「心当たりね・・・。」

遥「じゃあ質問を変えます。先輩は優しくて良いところがいっぱいあるんですけど、1つだけ大きな欠点があります。わかりますか?」

俺「なんだろう。欠点はいっぱいあるからさ。」

遥「それはね。私と咲良さん2人に優しくて、それぞれに特別な人って思わせているところ。それって、本当の優しさなんかじゃないの。」

俺「そうなのかもしれないな。」

遥「私はそれに気付いたの。それでも、先輩のことを忘れられなくって、また逢いに来ちゃうの。ダメな女。」

俺「ダメなのは俺の方だよ。俺がダメな男なだけ。」

遥「先輩、本当に悪いと思ってる?お詫びしたい?」

俺「悪いと思ってるよ。お詫びしたい。」

遥「じゃあ、今日は先輩の家に泊めてください。家族の、夫婦の聖域で、私を愛する自信と覚悟ありますか?」

俺「ああ。泊まれよ。それくらいの覚悟はあるよ。半端な気持ちでお前を愛してないから。」

遥「ウフフ。じゃあ、おじゃまします。いっぱい愛してくださいね。」

俺「俺だけじゃなくて、やっぱりお前も相当悪い女なのかもしれないな。」

遥「今頃気がついたんですか?もっと早く気がつけば良かったですね。でも、もう遅いですよ。ウフフ。」



お先のお方にお負けなよ。わたしは負けるの大嫌い。

ひょうたんばかりが浮きものか。私の心も浮いてきた。

阿波・徳島の夜。








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2016年04月26日

阿波で心も浮いてきた(第9話)

時は3月。桜が咲いている。

咲良からも遥からも、年明けに「あけおめ」メールが来て以来、連絡もない。

「あいつら、いい恋してればいいな」なんて思いながら、桜の木の下のカップルを眺めている。

そんな折の、1通のメール。



「先輩、元気ですか?金曜日、急に神戸出張に決まったんですけど、土曜日逢えませんか?ちょっとでも逢えたら、徳島まで行きますよ!でも、ご家族の予定があれば、諦めますから・・・(笑)」

遥からのメールだ。

「元気だよ。遥は?偶然だけど、家族は春休みで実家の山形に帰ってるから、土曜日大丈夫だよ。俺も逢いたかった。俺が神戸まで行こうか?」

すぐにメールを返す。

「逢えるんだ。やったー、嬉しい!私が徳島まで行きますよ。四国は初めてだから。それと、先輩が住んでる街を手をつないで歩いてみたいからっ。」

「じゃあ、楽しみに待ってるね。お気をつけて!」

「お・も・て・な・し、期待してますよ。」

週末はもうすぐ。さて、どうしようか。



土曜日の朝、徳島駅で高速バスを降り立った遥を迎える。

俺「長旅お疲れさん。徳島にようこそ。」

遥の荷物をさりげなく持つ。

遥「お久しぶりです。逢いたかった。」

休日の午前中から、遥は熱い抱擁を交わしてくる。

遥「徳島って、ヤシの木があって南国チックですね。面白い。」

俺「そうだよね。四国は北海道と全然違って、とてもいいところだよ。」

駅前の駐車場でトランクに荷物を積み、車に乗り込む。

俺「で、どっか行きたいところある?かずら橋?うず潮?桜?それとも高知や愛媛まで行く?」

遥「桜はキライです。響きが嫌。天気もいいからゆっくりドライブしたいです。海がいいな。」

俺の車は、西に向かって走り出した。



積もる話もたくさんあり、話題には事欠かない。

この居心地の良さ。やっぱり、惹かれ合う2人の間には特別な想いが詰まっている。

俺「恋はどう?芽生えてるか?」

遥「芽生えてたら、また先輩なんかに逢いに来ませんよーだ。」

俺「適当なドライブだからなんも情報ないけど、とりあえずなんか食うか。」

遥「行き当たりばったりで、水曜どうでしょうみたいでなんかいい感じ。」

俺「このゆるい感じでも楽しめる関係がいいよね。お前はやっぱり最高だよ。」

遥「じゃあ、ここで食べよう。「漁師めし」だって。面白そう。」

35c7a7f0.jpg漁師めし


俺「なんか近くに今治城ってお城があるみたいだけど、興味ある?」

遥「せっかくだから行ってみたいです、殿」

俺「お前もその気じゃないか。こっちにもっとよれ。」

遥「とっ、殿。お戯れを・・・」

俺「えーい、何を今さら・・・って危ないわ!事故るわ!」

遥「じゃあ、夜までおあずけね。ウフフっ。」

そんなこんなで今治城。

a77d755e.jpg今治城


俺「ここまで来たから、しまなみ海道を渡って、広島まで行こうか。で、瀬戸大橋を渡って帰って来よう。」

遥「私、神戸から高速バスで明石海峡大橋を渡ってきたから、今日だけでぜんぶ制覇出来ちゃいますね。凄い。行きましょう!」

因島の橋のふもとで休憩。

79a3aeb1.jpg因島


俺「海がきれいだね。」

遥「ホント癒される。ありがとう・・・。ねえ、ここなら誰も見てないから、キスして・・・。」

遥が目を瞑り、俺に身体を寄せてくる。

俺「遥。逢いに来てくれてありがとう。大好きだよ。」

土曜日の昼下がり。

大自然の下で、熱い抱擁とキスを交わす2人。

遥「やっぱり、離れられないくらい、大好き・・・。」










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kou_blue97

〇札幌生まれ札幌育ち。現在は東京在住(←徳島←千葉…)。転勤族のサラリーマン。ミスチル世代の団塊ジュニア。
〇好きなモノ
 アメフト観戦、ミスチル鑑賞、blog執筆、子供とおでかけ、HKT宮脇咲良を応援、転勤で知らない土地を満喫、現実と妄想の狭間で微笑ましく生きる、小さな幸せのかけらを積み重ねる。

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