2015年10月06日

もしアメフトの魅力を・・・物語を書くとしたら (第15章)

もしアメフトの魅力を知ってもらうための物語を書くとしたら

第15章 そんな涙はゴメンだ

<第41話>

  8月。大学は、2か月近い長い夏休みに突入した。全国のアメフト部員達は、開幕まで残り1ヶ月となり、チームとしての最後の仕上げとなる熱い夏を迎えていた。
 僕達のチームは、試験期間が終わり次第、また本格的な練習が始まった。残り1ヶ月、無駄に出来る時間はないことを誰もが理解していた。8月1週目は、試験期間前に取組み始めた新システムの発展型について最終確認を行った。ダミーチームの控え選手達も、仮想北都大に成りきり、高い意識をもって練習に挑んだ。僕も、北都大のLBのように動き、攻撃陣の練習相手として意味があるように全力でプレーした。仮想北都大のエースラインメンの代わりは、ジャスティンが務めてくれた。アナライジングスタッフとなった多田も、プレーのコーディネーターとして存在感を発揮していた。あっという間に、1週間が過ぎ去った。

「明日は1日オフ。そして明後日からは夏合宿だ。1週間、アメフトだけに取組み、チームを完成させる。夏の合宿が終われば、秋の初戦までは2週間となる。後悔だけはしないように、万全の準備を行い、万全に体調を整えて、元気に合宿初日を迎えよう。」

 明後日からは夏合宿が始まる。春の合宿は、大学構内の合宿施設を利用していたためマネージャーの自炊が必要だったが、夏の合宿は、本格的な外部の合宿施設で行う。もちろん食事もついており、マネージャーもアメフトに全精力をつぎ込める。午前は朝9時から11時半まで練習し、午後は15時から18時まで練習、そして20時半から22時半までミーティングを行うのが大まかなスケジュール。文字通り、朝から夜までアメフトだけに取組む内容だ。

 合宿開始から2日前の練習後、主将の高橋、守備の柏木リーダー、攻撃陣と守備陣の各サブリーダー、QBの児玉、そしてアナライジングの多田、この6人が部室に残り、合宿に備えてシステムの最終確認を行っていた。
 実戦形式の練習が出来るのは、実質5日間。毎日、明確なテーマを決めて、練習、ビデオ確認、ミーティングによる反省を行い確実に理解していく。例えば攻撃面では、相手ゴール前オフェンス(ゴール前でランに特化した守備を突破する)練習に1日、キャッチアップオフェンス(負けている状況でリスクの高いパス重視の組み立て)練習に1日が必要となり、通常の攻撃練習は3日に限られてくる。また、各々の状況で、北都大がどのような守備体型を使ってくるかを予測し、想定される相手システムを練習でダミーチームにやらせなければならない。毎日、プレーに意味を持たせるためには、事前準備が必要だ。
 守備陣の練習はさらに複雑だ。守備のシステムがどう機能するかをプレー毎に確認するため、全てのプレーについて、誰がどう動き、どうブロックするか、あらかじめダミーチームに指示しておかなければならない。練習後に、その動きにちゃんとリアクション出来ているか、一人一人の動きを全てビデオで確認するため、全てのプレーに明確な意図を持たせているのだ。
 
合宿中、一番寝る間のないのは自分だろうと、アナライジングの多田は覚悟していた。




<第42話>

 相手がこう来たらこうするとか、さらにこうして来たらこうするとか、戦略的に考え出したらキリがない。いくらたくさんのプレーを用意していたとしても、そのプレーを確実に遂行できる理解度と完成度がないと、全く意味をなさない。適正なプレーの数とそれに費やせる練習時間。その組み合わせが最適となる答えを見つけ出さなければならないのだ。

 攻撃陣は、フレックスボーンとトリップスからのパス、ランプレーに加え、プレーアクション、ドロー、スクリーン、ショベルパスなどは合宿前にひと通り仕上げてきた。さすがにフレックスボーン(1バック)だけでは厳しいシチュエーションもあり、スロットT体型からのランプレーにも取り組んでいる。ショートヤードやゴール前ではスロットT体型が基本となる。概ね準備は出来た。
 さらに、児玉が怪我した場合のプレーの組み立て、高橋が怪我した場合のプレーの組み立て、朝長が怪我した場合のプレーの組み立ても考えた。雨が降った場合のプレーの組み立ても考えた。それでも不安の種は尽きない。
 後は、負けている時もこのプレーがあるから逆転出来るという、チーム全員にとって信じることができる確固たる切り札プレーが必要だ。

 フレックスボーンから、左のSB(スロットバック)が右にモーションし右トリップス体型に。そしてQBからRBに右にピッチし、フリーフリッカーのようにロングパスを投げる振りをする。DLがRBのいる右に集まり、DB陣がロングパスだと多い後ろのゾーンに行ったところで、左オープンに走りこんだQBにパスを投げるプレーを練習で披露。戦力の落ちているダミーチームとはいえ、一発タッチダウン。このプレーには僕も感動した。試合での披露が待ち遠しい。

 キャッチアップオフェンスでは、ハドル(40秒の作戦会議)を行う時間がない場合に備え、ノーハドルによのプレーの伝達のための暗号化にも取り組んでいる。プレーが終わり次第、すぐに次のプレーを行えるようセットし、暗号によりプレーを伝達するものだ。例えば、「ブルー47のA」や「レッド32のB」などの暗号で、色が体型、数字がプレー内容、アルファベットがコールを伝えるものだ。

 普通のプレーの場合でも、オフェンスがセットした際に、今の指示されたプレーは通用しない守備体型だとQBが判断した場合には、その場の判断でプレーを変更することがあり、オーディブル(作戦変更)という。その際にも、QBがセットした味方選手に暗号でプレーを伝達することもある。
 
 そもそものハドルでもプレーを暗号で伝達する場合も多く、選手達はリストバンドの中に暗号表をつけ、いつでも対応できる準備を整えている。リストバンドに入れる暗号表の作成も、アナライジングの多田の役目となった。


(リストバンドのイメージ)
d0006690_165445[1]




<第43話>

 夏合宿も終盤に差し掛かる。春の合宿とは異なり、徹底的に身体をしごき抜くような時期ではなく、戦術やシステムの完成を目指す練習内容であり、身体の疲労感よりも、頭と精神の疲労感の方が大きい毎日だった。
 夏の合宿も練習は残り2日。チームとしての完成度は高まってきた。プレーの精度も、システムの完成度も、戦術面の理解度も全て順調に進んでいる。
「大丈夫だ。問題ない。」そう自分に言い聞かせながら、主将の高橋は毎日夜遅くまで戦術面の打合せを行っていた。そして夜の全体ミーティング。
「みんな、目をつぶろう。」主将がいきなりみんなに言い出した。
「この1年、自分達がやってきた道のりを思い出そう。そして、1年前の自分と今の自分を比べてみよう。どうだ、大きく成長しているはずだ。実感出来るか?」高橋は一呼吸置いて続ける。
「そして今、北都大は手の届くところまで来ているか?相手に勝つイメージ、試合に勝つイメージは出来ているか?」高橋の声が響きわたる。
「この合宿で、やっと勝てるイメージが見えてきたやつ、勝つイメージが出来たやつも多いだろう。でも、どこかでこう思っていないか?『誰かがやってくれるから勝てる』と。それじゃあ、絶対に勝てない。『自分は関係ない』1人でもその思ったら、絶対に負ける。試合に出るやつは、自分のプレーが上手くいけば勝てると自覚しよう。OLは、自分が後1秒長くブロック出来たら、試合に勝てると信じて戦おう。WRはあと一歩速く動ければ、パスが来て試合に勝てると信じで戦おう。RBは後1ヤード進めば試合に勝てると信じて、DLはあと一歩速くOLのブロックを処理出来ればと、LBはあと一歩速くリアクション出来ればと、DBはあと一歩パスカバーが速く出来ればと、全員がそう信じて戦おう。ベンチの選手だって出来ることはある。相手のプレーがわかったらすぐに大声で叫びフィールドに伝え、試合中に何か気になることがあったらすぐにスポッターの多田に伝え、40秒のカウントダウンを大声で伝えるとか、今チームのために自分が出来ると思ったことを全力で取り組もう。『誰かが頑張れば勝てる』じゃなくて、『自分が頑張るから勝てる』という意識を持つんだ。チームの勝利のために自分に何が出来るのか、自分は何をしなければならないのか、もう一度よく真剣に考えて、残された時間を有意義に使おう。『精一杯頑張ったけど、あと一歩、届かなかった。』そうやって泣き崩れる未来の自分をイメージ出来るか?そんな涙なんかゴメンだよ。でも大丈夫だ。俺達にはまだ時間がある。自分達を信じよう。」

 合宿の最後2日間も、さらに気合いが乗って充実した練習を続けることが出来た。そんな涙なんか、みんなゴメンだと意識を高め、夏合宿は幕を閉じた。

 秋のシーズン開幕まで、残り2週間。




<登場人物>
・宮脇拓哉/みやわきたくや
 …主人公(僕)。1年生。LB(守備)。
・児玉悠斗/こだまはると
 …1年生。アスリートで自信家。QB(攻撃)
・朝長幹男/ともながみきお
 …1年生。巨漢。AKB好き。OL(攻撃)兼DL(守備)
・高橋湊斗/たかはしみなと
 …アメフト部主将兼オフェンスリーダー。4年生。RB(攻撃)。
・柏木行雄/かしわぎゆきお
 …アメフト部副将兼ディフェンスリーダー。4年生。LB(守備)
・前田奈津子/まえだなつこ
 …4年生。主務兼女子マネージャー。
・大島陽子/おおしまようこ
 …1年生。女子マネージャー。
・森保/もりやす
 …1年生。高身長。WR(攻撃)。
・田島/たしま
 …1年生。万能タイプ。DB(守備)。
・多田/おおた
 …3年生。DB(守備)からアナライジングスタッフに転向。


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kou_blue97

〇札幌生まれ札幌育ち。現在は東京在住(←徳島←千葉…)。転勤族のサラリーマン。ミスチル世代の団塊ジュニア。
〇好きなモノ
 アメフト観戦、ミスチル鑑賞、blog執筆、子供とおでかけ、宮脇咲良を応援、転勤で知らない土地を満喫、現実と妄想の狭間で微笑ましく生きる、小さな幸せのかけらを積み重ねる。

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