2015年09月23日

もしアメフトの魅力を・・・物語を書くとしたら (第5章)

もしアメフトの魅力を知ってもらうための物語を書くとしたら

第5章 春の初戦

<第14話>


 5月3週目の日曜日。春の暖かさを感じる晴天の空に、人差し指を掲げて集まる男達。
「俺達の伝説はここからスタートだ。去年の悔しさを忘れるな。あれから俺達は成長した。絶対に勝てる。去年の借りを返してやろうぜ!」主将の高橋の声に続き、全員が同調し、気合を叫ぶ。
 僕も、ユニフォームを着てヘルメットをかぶり、男達の輪に参加する。そして大声で叫ぶ。僕にとっても初めて経験する試合だ。先輩達も普段とは全然違っていて、興奮し、闘争心がみなぎっている。僕も興奮している。わくわくする。
 しかし、今日の試合には僕は出場しない。能力的な問題もあるが、試合のコンセプトとして、1年生は試合に出ない。まだ入部間もなく身体が出来上がっていないから、無理をさせないため。もう1つは、去年の屈辱は去年のメンバーで晴らしたいという先輩達の思いがあるためであり、その思いはひしひしと伝わってくる。試合には出られないものの、先輩達の試合を応援するのも初めてであり、僕はただ単純に興奮し、わくわくしていた。
 
 今日の試合は、春のオープン戦の初戦であり、対戦相手は昨年2部リーグ5位のチーム。今日の試合は、去年と同じシステムで戦い、個人の能力とチームの総合力で相手を上回ることを目標に掲げている。去年はリーグ最終戦で対戦し28-35と惜敗したが、うちのチームは3年生以下で構成されていたため、卒業による戦力ダウンはなく、今年も学年が繰り上がり、全員がチームに残っているからである。一方、相手チームは昨年の主力の4年生が数名抜けており、他のチームも同様だが、春は世代交代によるチーム再建の時期である。力の差は歴然としているはずだ。
 その理由により、今年のシステムとして準備を始めている「フレックスボーン(ダブルスロットシングルバック)」はこの試合では使わない。アメフトは頭脳戦であり、試合前の相手チームの分析による準備が必要だ。だから、新システムを導入していることは、出来る限り他チームには知られたくない。温存したい。そういう意図があって、この試合では、新システムではなく、昨年用いた旧システム(バランス良くオーソドックスなプロI体系)で戦うこととしている。そもそも、新システムは導入したばかりで、まだまだ試合で使える水準には至っていないから、温存でも何でもないのだが・・・。

 試合は、相手チームのキックオフで始まった。攻撃の司令塔であるQBは主将の高橋。UB(2年)の速いタイミングのランプレー、TB(3年)の遅いタイミングのランプレー、WR(2年、3年、4年)へのパスプレーとバランス良くプレーを展開し、相手陣地に攻め込む。
 高橋は、昨年と同じメンバー、昨年と同じプレーで勝つという他に、もう1つ自らに課していた。それは、「自分で走るプレーをやらない」というものだった。



<プロI体系>
040209_01-1[1]


<フレックスボーン>
040212_01[1]




<第15話>

 昨年も同じようにバランス良くプレーを展開したが、当時1年、2年の若手メンバーには相手守備陣の壁をスピード又はパワーで切り開くには荷が重く、特に怪我人等の交代要員にはさらにその壁は高く、選手層が薄くチームの歴史や経験の浅いこのチームにとって、最後の拠り所は主将高橋の個人能力だった。
 特に第3Q以降は、QB高橋が自らボールを持つランプレーを中心にゲームを組み立て、高橋の走力で相手守備陣を切り開き、得点を重ねた。当然のことながらQBへのマークは厳しさを増し、QBにマークが集中したところで裏プレーやフェイク(囮)プレーで応戦するも、最後は封じられてしまった。
 あの時、壁を切り開くことが出来なかった若いメンバーが伸び伸びと実力を発揮し、自信を持てるような試合にして欲しい。その願いを込めて、高橋はこの試合で自分がボールを持つランプレーは出来るだけやらないことを決めていた。

 試合は終始優勢だった。1つのプレーが決まるたびに、僕はベンチから大声で叫び、チームを盛り上げていた。こんなに興奮して、こんなに大声で叫んだのは、人生で初めてだった。隣を見ると、同期の児玉も朝長も、とても興奮し大声で叫んでいた。同じ興奮と同じ喜びを共有していた。そして、自分も早く試合で活躍したいと強く思った。ベンチの横では、マネージャー同期の大島が試合を観ずに、自分の与えられた仕事を一生懸命やっていた。そのプロ意識にも、心が響いた。

 相手チームも卒業生が抜けた穴を埋めるべく、2年や3年の若手メンバーが必死に立ち向かっていた。しかし、同じ2年や3年では、昨年の実戦と悔し涙を経験したうちのチームの選手が、堂々とプレーしており力も技術も大きく上回っていた。高橋はバランス良くプレーを選択し、多くの選手に機会を与えながら、自分のランプレーを温存した上で、24-7で勝利した。スコア以上にチーム力の差を感じ、何より多くの若い選手の自信につながったことが大きな収穫だった。試合後の整列では、チーム全員が笑顔を見せていた。
「さて、3位争いくらいに見えてくれていれば良いが」主将の高橋は、心の中でつぶやいた。アメフトはスカウティングによる分析が重要なスポーツ。春のオープン戦とは言え、2部リーグ所属の他チームはビデオ数台を持ってこの試合を録画している。そして、徹底的に分析される。相手チームに今の試合がどう映ったか?「優勝争いに加わる」評価だとマークが厳しくなるので、「3位争い」くらいのチーム評価に留まっていて欲しいのが本音だ。

「伝説のスタートね。」マネージャーの前田が手を差し出し、高橋が強く握る。
「第一歩としてはまあまあかな。」

 未来を見据えた2人が熱く握手し、誓い合った。


<登場人物>
宮脇拓哉/みやわきたくや
 …主人公(僕)。1年生。
高橋湊斗/たかはしみなと
 …アメフト部主将。4年生。
児玉悠斗/こだまはると
 …1年生。アスリートで自信家。
朝長幹男/ともながみきお
 …1年生。巨漢。AKB好き。
前田奈津子/まえだなつこ
 …4年生。主務兼女子マネージャー。
大島陽子/おおしまようこ
 …1年生。女子マネージャー。


kou_blue97 at 22:48│Comments(0)TrackBack(0) 后箆∈椒轡蝓璽困發痢 | 検淵▲瓮侫箸里海函

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kou_blue97

〇札幌生まれ札幌育ち。現在は東京在住(←徳島←千葉…)。転勤族のサラリーマン。ミスチル世代の団塊ジュニア。
〇好きなモノ
 アメフト観戦、ミスチル鑑賞、blog執筆、子供とおでかけ、宮脇咲良を応援、転勤で知らない土地を満喫、現実と妄想の狭間で微笑ましく生きる、小さな幸せのかけらを積み重ねる。

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