2015年09月18日

もしアメフトの魅力を・・・物語を書くとしたら (第4章)

もしアメフトの魅力を知ってもらうための物語を書くとしたら

第4章 春の合宿終了

<第9話>

 合宿中、1年生だけを集めたアメフトの理解度テストが行われる。部員も、マネージャーも参加しなければならない。テストは、主将の指示のもと、マネージャーの前田奈津子が作成した。
「はい、それではアメフト理解度テストを行います。赤点取ったら、補修だけではなく、ペナルティが待っているから、諦めないで頑張ってね!」明るい声で話す前田の目は、全然笑っていない。
「えっ、ペナルティって何!聞いてないけど。」ざわつく1年生14人。僕は、アメフト自体にも興味を持ち始め、自分でもアメフトの本を買って勉強した。体力で劣る分、知識でカバーしなければならないと思っていた。だから、ちょっと自信はある。

第1問
「アメフトの三大精神を答えなさい」
 これは簡単だ。入部して一番最初に教えてもらったやつだ。「闘争、協調、犠牲」。楽勝、楽勝。

第2問
「アメフトで得点が入るパターンと点数を書きなさい」
 。圍帖淵織奪船瀬Ε鵝泡6点。
 ■藤如淵侫ールドゴール)→3点、
 PAT(ポイントアフタータッチダウン)→プレー2点、キック1点。
あれ、これだけだったかちょっと自信ない。

第3問
「攻撃権の獲得と攻撃権の放棄について説明しなさい」
 だんだん難しくなってきた・・・。
「攻撃チームは、4回の攻撃権が与えられる。4回の攻撃で10ヤード進むことが出来れば、新たに4回の攻撃権が与えられる(これを1stダウン獲得と呼ぶ)。4回の攻撃権で10ヤード進むことが出来なければ、攻守交代となり、相手チームに攻撃権が移る。3回の攻撃で10ヤード進めそうにない場合は、攻撃権を放棄して陣地を獲得するためにボールをキックすることが出来(パントと呼ぶ)、点数を獲得するためにボールをキックすることも出来る(フィールドゴールと呼ぶ)。」

そして、第9問目までを回答。なんとか及第点が取れそうだ。

第10問
「あなたは、どのポジションをやりたいですか。理由も含めて書きなさい。」
 これは、僕たちのポジションの希望。そういえば、春合宿が終わったらそれぞれの個性や特性を見極めて、ポジションを決めるって主将が言っていた。これはアピールチャンスだ。
 「自分は、身体は特別大きくないけど、ボールキャリアに対して勇気を持ってタックルし、フィールドの中央からランプレーでもパスプレーでも粘り強くタックルに向かう、LB(ラインバッカー)がやりたいです。」



<第10話> 

 1年生達がテストと格闘している頃、4年生は今期の戦術面について議論を交わしていた。本来であれば、昨シーズンが終わった段階で明確なビジョンを掲げるべきだが、少人数のチームであるため、新入生の入部状況によって導入するシステムの選択肢が変わることから、新入生が入部し、春の合宿でそれぞれの個性や特性を見たうえで、システム決定することとしていた。
 昨年の攻撃システム「プロI」では勝てない。それは誰もがわかっている。プロI体型はどんなプレーも展開出来るバランスの良い体型だが、バランスが良いからこそ、各個の集結である総合力の差がそのまま出てしまう。全てのポジションにバランスよく戦力を分散させ、総合力で相手に勝るほど、知識もパワーも経験も技術も持ち合わせていない。特に最大の壁である北都大学は、昨年まで1部常連校であり、昨年は僅差で2部落ちしたものの部員数、経験、スピードとパワーいずれも2部リーグでは飛び抜けた総合力を誇る。バランス良く、オーソドックスに戦っても勝てる相手ではない。それは、昨シーズン痛いくらい身に染みている。
 具体的にどう戦えば良いのかイメージはまだ固まっていないが、まず何をしなければいけないのかは、4年生全員が理解していた。それは、「期待の新人2人を秋のシーズンまでに戦力として育てなければならない」ということ。そして、それが出来なければ、優勝など絶対に手が届かないということを。

 朝長は、その体格とパワーを生かし、OL(オフェンスライン)のエースとして、ランプレーで相手守備陣を打ち負かし、パスプレーではQB(クォーターバック)を守り抜き、またDL(ディフェンスライン)のエースとして、相手の攻撃を食い止める存在となることが求められている。彼が、スクリメージ(フィールド)を支配し、試合をコントロールしている姿を想像するのは難しくない。

 さらに児玉は、その高い身体能力を生かし、チームNo.1の得点力を発揮することが求められている。彼がボールをエンドゾーン(相手ゴール)に運び、チームを勝利に導く姿を想像するのは難しくない。
 しかし、児玉の高い身体能力を最大限生かせるポジションは、どこなのか。システムはどれなのか。早い段階で決定しなければ、秋のシーズンには間に合わない。スピードを兼ね備えた力強い走力に加えて、野球で鍛えた投力を生かすには、QB(クォーターバック)として育てるべきか。または、ボールを持つ回数が最も多く、エースランナーとして常に前に向かって道を切り開く、RB(ランニングバック)として育てるべきか。さらには、パスに特化したチーム作りをするのであれば、スピードと球際の強さを生かせるWR(ワイドレシーバー)として育てるべきか。
 
 そしてもう1つの問題がある。現エースQBの主将高橋が、QBであり続けるべきかどうか。たしかに、チームで誰にも負けない知識と情熱と経験とリーダーシップを兼ね備えた高橋をQBにこそ相応しい。しかし、さらに高い壁を越えていくために、児玉をQBに抜擢した方が、チームが成長し可能性が広がるのかどうか。その選択が未来を変える。



<第11話> 

 春合宿の後半日程が始まった。練習後、僕と児玉が2人グラウンドに残って、先輩達が練習していたプレーの内容について確認していた。

「勉強熱心だな。」振り向くと、主将の高橋が近づいてきた。
「お疲れ様です。主将。」僕と児玉が揃って声をかける。
「宮脇は、LB(ラインバッカー)志望だったな。LBは守備の要だから、戦術とプレーに対する知識が必要だ。そして全てのプレーに向かっていく熱い気持ち。宮脇は、勉強熱心だし、熱いハートを持っているから、LBに向いているかもな。しっかりと身体を作れば、良いLBになれるぞ。頑張れよ!」
「はい。ありがとうございます。」主将がしっかりと僕の希望を理解してくれていて、僕のことを見てくれていることが、僕はとても嬉しかった。
「児玉、お前はQB(クォーターバック)で気持ちは揺るがないか?」高橋は次に児玉に話しかける。
「もちろんです。俺はQBがやりたいです。」児玉が即答する。
「QBとして、チームの全責任を負えるか?その覚悟は出来ているか?」高橋は、鋭い眼差しでさらに児玉に詰め寄る。
「アメフトの知識と経験はこれからですが、俺の心と身体と大学生活は、全てアメフトに捧げる覚悟は出来ています!」児玉も鋭い眼差しで応える。
「2人とも、1年生とは思えない熱さだな。チームとしては嬉しいけど、先は長いから気負い過ぎず、無理し過ぎるなよ。」高橋は、一瞬笑顔を見せるも、また一段と厳しい顔つきでさらに2人に語りかける。
「でも、アメフトはチームスポーツだ。闘争心だけではなく、協調しなければならない時も、犠牲にならなければならない時もある。もし、希望のポジションが与えられなかった時はどうだ?頑張れるか?」
「もちろん、どんなポジションも大切だし、そんなポジションもやりがいがあるはずなので、僕は頑張れます。やります!」僕は正直な気持ちを伝えた。
 児玉は、少し沈黙が続いた後で、口を開いた。
「俺は、QBがやりたいです。もし今年QBが出来ないなら、それは自分の実力不足だから、与えられたポジションで精一杯頑張ります。でも、来年はQBやります。QBに相応しい実力を身につけます。絶対に。」

 今年、どう戦うべきか、高橋は答えを見つけ始めていた。



<第12話>

 そして合宿も最後日を迎えた。合宿最後の練習。練習場の隣にある小高い山を走るメニューだ。アメフトには、持久力よりも、瞬発力と回復力が必要だ。だから、山の上まで長距離を走る練習はない。簡単だ。笛が鳴ったら全力で走り、笛が鳴ったら走るのを止める。その繰り返し。上り坂を、5秒全力でダッシュして、10秒休んで、5秒ダッシュしてのインターバル。この厳しさは、合宿最後の練習メニューに相応しい。
 最初の数本こそダッシュに勢いがあったが、すぐにスピードは落ちていく。体力の限界だ。先輩達にドンドン離されていく。遅れながら、何とかゴール地点まで走り抜いた。
 感じたのは、最後まで走りきった達成感と、先輩達との大きな距離間。足りないのは、体力だけではなく、きっと精神力や根性も全然足りていないのだろう。大きな力不足を感じながら、練習が終わった。

 練習場から戻る途中、1年生マネージャーの大島陽子(おおしまようこ)が練習用の道具を持って歩いていた。
「いよいよ合宿も終わりだね。どうだった?身体は大丈夫?」大島が心配して僕に話しかける。
「身体はもう限界だけど、それよりも自分の弱さと未熟さを身に染みて感じているよ。」僕が応じる。
「なんかさ、私もだけどさ、軽い気持ちというかアメフトは良く分からないけど、勢いだけでアメフト部に入ったじゃない。たぶん、1年生はみんなそうだよね。児玉君以外は。」
「たしかに、児玉以外はアメフトなんて知らないけど、主将の熱さとか部の雰囲気とかに魅せられて、勢いで入部したよね。」僕もそう思う。
「もう辞めちゃった人もいるけど、残っている1年生は、みんなこの合宿ですごく頑張っているよね。見ていて強く感じる。勢いだけで入部しただけなのにさ。みんな、こんなにアメフトに熱くなれるなんて驚き。その中でも、特に宮脇君と朝長君の2人は本当に一生懸命で、一番頑張りが伝わってくる。成長しているなって素人でもわかる。」
「本当?嬉しい。でも、ついていくのに、いっぱいいっぱいなだけだし、全然ついてもいけてないんだけどね。」と言い、僕は深くため息をついた。 
「それでもこんなに熱くなれて、こんなに頑張れて。かっこいいよ。私も、こんなにみんなが一生懸命な部活に入れて、凄く嬉しい。私も、チームのために頑張ろうって思う。ここで、私も成長したいって前向きに思える。」大島の本音を聞くのは初めてだ。
「そう思ってもらえて嬉しいよ。俺ももっと頑張らないとな。一緒に努力して、チームのために頑張って、お互い大きく成長しようぜ!」僕のモチベーションは少し高まり、一歩一歩頑張り続けるしかないという事実を再認識した。



<第13話>

アメフトの世界では、秋のリーグ戦が最大の決戦の場。大学日本一を決める12月の甲子園ボウルに向け、1年間かけてチームを作り上げる。そして北海道リーグは、9月頭の開幕から10月末までの開催。各チームは、5月の連休の春合宿でチームを鍛え、5月中旬から7月中旬までの春のオープン戦でチームを強化し、8月の夏の合宿でチームを仕上げ、9月の秋シーズンを迎える。通常は、3月までにはチームの方向性、4月の時点では具体的な戦術やシステムが固まっており、春の合宿は、短期間で集中して戦術やシステムを理解し、その質を高め始めていく位置づけだ。そして5月中旬からのオープン戦でそのシステムを試すことにより、課題や反省点、改善策などの検討を重ね、システムを発展させていく。この流れが一般である。
 春合宿も最終日の練習が終わり、最後のミーティングを迎えた。2週間後には、春のオープン戦が始まるが、まだこのチームは具体的な戦術やシステムは決まっていない。そんな状況で、合宿最後のミーティングが行われた。
「合宿、お疲れ様。この合宿で得たものは大きく、チームとしての可能性は高まった。まだ具体的な戦術は示していないが、何も心配しなくて良い。みんなも感じていると思うが、2年生以上の成長ぶりは大きく、1年生のポテンシャルは高く、秋までには強いチームが出来上がる。明日から2日間のオフの間に、幹部(4年生が主体)で話し合い、この合宿の内容を踏まえた最終的な戦術とシステムを作り上げ、3日後のミーティングで説明する。それまでゆっくり身体と頭を休めて欲しい。」主将の高橋が、さらに続ける。
「今後の方針だが、春のオープン戦は、2試合を予定している。初戦は5月3週に、昨年5位のチームと対戦する。昨シーズンの最終戦を戦った相手だ。この試合は、昨年のリベンジだから、昨年と同じメンバー、昨年と同じシステムだけで戦う。新しい事は何もしない。ただ、個人が経験を重ね成長した分だけ相手を上回り、そして勝つ。それで勝てなければ、優勝など不可能だ。そして、2戦目は6月最終週に、昨年2位のチームと対戦する。昨年は35−0で負けた相手だ。この試合でも、昨年と同じシステムだけで戦う。この試合は、勝ち負けは問わない。その時点での戦力の差を確認する。昨年2位のチームとの差はまだあるのかを確かめる。そして、最後の実戦になるので、スタメンがケガをした場合を想定し、いくつかのポジションで試合に出てもらう。さらに1年生も身体が出来た者は試合を経験させる。楽しみにして欲しい。新システムは、9月頭のリーグ初戦まで温存する。初戦の相手は、昨年の順列的に昨年1部から降格してきた北都大学。新システムのお披露目相手に不足はない。ここで必ず勝利し、優勝を成し遂げる。しかし・・・」
「優勝は絶対に成し遂げる。しかし、現時点ではシステムの完成度及び浸透度については、うちが1番遅れており、秋のシーズンまでに間に合うかどうかは、みんな一人一人の意識の持ち方にかかっているので、それだけは忘れないでほしい。」

 この言葉で、春の合宿は幕を閉じた。    


<登場人物>
宮脇拓哉/みやわきたくや
 …主人公(僕)。1年生。
高橋湊斗/たかはしみなと
 …アメフト部主将。4年生。
児玉悠斗/こだまはると
 …1年生。アスリートで自信家。
朝長幹男/ともながみきお
 …1年生。巨漢。AKB好き。
前田奈津子/まえだなつこ
 …4年生。主務兼女子マネージャー。
大島陽子/おおしまようこ
 …1年生。女子マネージャー。






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kou_blue97

〇札幌生まれ札幌育ち。現在は東京在住(←徳島←千葉…)。転勤族のサラリーマン。ミスチル世代の団塊ジュニア。
〇好きなモノ
 アメフト観戦、ミスチル鑑賞、blog執筆、子供とおでかけ、宮脇咲良を応援、転勤で知らない土地を満喫、現実と妄想の狭間で微笑ましく生きる、小さな幸せのかけらを積み重ねる。

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