2015年09月13日

もしアメフトの魅力を・・・物語を書くとしたら (第2章)

もしアメフトの魅力を知ってもらうための物語を書くとしたら

第2章 チームの歴史

<第4話>

 合宿2日目の朝。主将の高橋は朝5時半に目を覚ました。起きる時間にはまだ早いが、空模様を確認するために玄関に向かった。途中、食堂では既に女子マネのリーダーであり部の主務である前田奈津子(まえだなつこ)が、他のマネが集まる前に、一人朝御飯の準備を始めていた。
「なっちゃんおはよう。」主将が声をかける。
「おはよう。早いね。疲れてるんだから、ギリギリまで寝ていれば良いのに。」
「なっちゃんこそ、まだ早いんじゃない?ありがたいけど、無理しないでね。」
「だって、部員もこの春で一気に30人、マネも入れたら35人の大所帯になったんだよ。もう、朝からご飯、何合炊かなきゃならないと思ってるの?」
 前田は少し口を尖らせて主将に詰め寄る。前田は、少し不満げな素振りを見せているが、部員が増えたことで本心は喜んでいる。それを主将もわかっている。

 このアメフト部は、創部3年目と歴史は浅い。2年前に、現主将の高橋の手で部が立ちあげられたばかりであり、北海道リーグに加盟したのは昨年。対外試合も当然ながら昨年が初めて。結果は、2部リーグ全敗で最下位に終わった。部員達は試合を出来た喜びとこのスポーツの魅力を感じるとともに、勝てない悔しさに打ちのめされる、最高に充実したシーズンとなった。

 高橋は、神奈川県出身。中学高校と陸上部に所属し、短距離走でそれなりの成績を残してきた。彼が毎日トラックで汗を流している頃、隣のグラウンドではアメフト部の同級生が汗を流していた。部室も、アメフト部が隣だった。そんな縁もあり、アメフト部の試合もたまに観に行った。試合に勝ちチームメイトと喜ぶ姿や試合に負けて泣きながら抱き合う姿を見て、チームスポーツへの憧れを覚えた。そして、アメフトへの興味も高まっていった。
 志望する学部と自分の偏差値、そして北海道での一人暮らしをしたいという思いから、高橋はこの大学へ進学した。個人競技である陸上を続けるつもりはなかった。しかし、この大学には興味を示し、本気で取り組みたいと思える部もサークルも、スポーツもなかった。そんな中、週末に河川敷でアメフトをやっているチームに気が付いた。地元の社会人チームだった。すぐにチーム所属し、アメフトを始めることを決意した。社会人チームはサラリーマン主体のため練習は週末のみだが、平日は走り、身体を鍛え、アメフトを勉強した。そして大学1年生の秋、社会人チームの交代要員としてユニフォームをまとい、試合に出場した。
陸上で鍛えた脚力には自信があったが、彼はアメフトを知らな過ぎた。ボールを持って、「さあ行くぞ」とギアを加速する前に、相手選手にタックルされて、地面に仰向けに倒れこんだ。太陽が眩しく、身体は痛かった。それよりも、味わったことのない屈辱を感じた。

「アメフトだ。大学で、アメフト部を立ち上げよう!」そう決意した瞬間だった。



<第5話>

 北海道では11月下旬には雪が降っており、野球やサッカーを初めとする外のスポーツが出来ないオフシーズンを迎える。アメリカンフットボールも同様だ。社会人チームの活動が11月で終わると、高橋は来年の春には新しいアメフト部が誕生すると信じて、文字通り草の根の活動から動き始めた。
 高橋と同じ1年生の中には、高校時代に運動部を経験し、大学でも何か運動を続けたかったものの、その何かを見つけられず、何か物足りない毎日を過ごしている者もいた。あるいは、サークルに参加したものの、その活動内容では刺激が足りず飢えている者もいた。しかし、大学2年生以上の者は、日々に物足りなさを感じている者は存在したものの、何か新しいことに挑戦しようという意欲がアメフトに向かう者には出会えなかった。
結局、高橋は1年生の中からアメフト部立ち上げに賛同する男4人に加え、誰よりも高橋の情熱と熱意に感銘を受けそして誰よりも熱いハートを持った女1人(前田奈津子)の計6人により、アメフト同好会が立ちあがった。

 2月には期末テストも無事終わり、大学生は長い春休みを迎える。そして、1年で最も大切な時期とも言える「新入生の勧誘」の季節である。高橋とその仲間達には乗り越えなければならない壁が2つあり、1つは「同好会から部として正式に認められること」、そしてもう1つは「試合が出来る11名のプレーヤーを確保すること」である。
 同好会は立ちあがったものの、雪深くグラウンドは使えないので、体育館での体力づくりと身体づくりが中心の彼らには、まだユニフォームがなければ防具もない。そんな状況での新入生の勧誘は、当然ながら難航する。それでも、彼らは熱心に話しかけ、語りかけた。最初からアメフトをやりたいと思う人などいない。アメフトに興味を持っている人などいるはずがない。でも、自分たちのように、いつかアメフトに興味を持ってくれるかもしれない。そう信じて、アメフト部の売り込みだけではなく、大学の先輩として、どんな学生生活を送るべきか、本音で真摯にアドバイスを送った。高橋も、仲間達も、そして前田も。

 高橋には予想外の出来事が2つあった。1つは、新入生の勧誘が想像以上に難しかったことだ。アメフト部を立ち上げようと思いつき、約2カ月で同好会メンバー5人を口説き落とした実績から、新入生の勧誘もそれなりに上手くいくと思っていた。しかし、同好会メンバーは同級生として友達感覚で口説くことが出来たし、何より運動部経験者や今の学生生活の状況というフィルタにかけられたターゲットを絞り込んでいた。だから、それなりの効果が見出せた。しかし新入生の勧誘はフィルタにかける余裕もないなかで、口説かなければならず、想像以上の困難さであった。もう1つの予想外の出来事は、自分の勧誘以上に、主務の前田の勧誘の効果が大きいことだった。

 努力の結果、新入生は5人入り、計11人にて正式にアメフト部として認められることとなった。しかし、マネージャーを除くとプレーヤーは10人だった。



<第6話>

 主将の高橋の2年生のシーズンは、アメフト部が成立し、北海道リーグに正式に加入したものの、プレーヤーは10人であり、公式な対外試合を行うことはなかった。平日の練習の他、週末は社会人チームの練習に全員で参加させてもらい、経験豊富なオジさん達から技術や知識を学んだ。試合形式での練習はもちろん、社会人チームの人数不足の際には助っ人で試合にも出させてもらった。ここでも主務の前田の存在は大きく、社会人チームには大きな便宜を図ってもらえた。

 そして高橋が3年生となる頃には、新入部員が10人、新入マネージャーが5人入部した。部の雰囲気は大きく変わった。春及び夏の合宿を終える頃には、新入部員は8人、新入マネージャーは2人に減っていたが、熱いハートを持つ者たちが全員生き残った。

 アメフト部として初めて挑む秋のシーズンが始まった。北海道リーグには12の大学が存在し、1部6チーム、2部6チームで構成される。新加入のチームは、当然ながら2部リーグの最下位の位置からのスタートとなる。「公式戦、初勝利」を掲げて戦ったものの、5戦5敗の最下位に終わった。
 全敗対決の最終戦。主将高橋の個人能力により点の取り合いとなったシーソーゲームも、シーズン終盤の総力戦の中では、層の薄さが致命的となり、28−35で惜しくも敗れた。足が速い高橋がリーダーシップを発揮し、攻撃ではQB(クォーターバック)、守備ではFS(フリーセーフティ)と文字通り縦横無尽にフィールドを駆け回ったが、チームとしての武器は足の速さだけだった。社会人チームが採用しているオフェンス(プロI体型)をそのまま用いて、バランス良くオーソドックスに戦った。セオリー通りに攻撃し、セオリー通りに相手に防がれた。それを打ち砕くだけの戦術もシステムも持ち合わせていなかった。

 それまでの試合でも敗戦の悔しさは身にしみていたが、最終戦だけは主審の笛が鳴り敗戦が決まると、全員がフィールドの上で悔し涙を流した。
 アメフト部を立ち上げようと決意してから2年、高橋は部を立ち上げ、仲間も増やし、試合を行うことを実現した。大きな喜びと達成感を味わうことが出来たが、その喜びと達成感を超える悔しさと不甲斐なさを痛感した。
「俺は、こんな想いを味わうためにアメフトを始めたわけじゃない。まだ甘えがあった。勝つために、俺はまだやらなければならないことがある。」主将の高橋は強く誓った。
 フィールドの横でも、控えの1年生達とマネージャーも悔し涙を流していた。
「勝つために、まだやれなければならないことがある。」前田も同じく、強く心に誓っていた。



<登場人物>
宮脇拓哉/みやわきたくや
 …主人公(僕)。1年生。
高橋湊斗/たかはしみなと
 …アメフト部主将。4年生。
児玉悠斗/こだまはると
 …1年生。アスリートで自信家。
朝長幹男/ともながみきお
 …1年生。巨漢。AKB好き。
前田奈津子/まえだなつこ
 …4年生。主務兼女子マネージャー。




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kou_blue97

〇札幌生まれ札幌育ち。現在は東京在住(←徳島←千葉…)。転勤族のサラリーマン。ミスチル世代の団塊ジュニア。
〇好きなモノ
 アメフト観戦、ミスチル鑑賞、blog執筆、子供とおでかけ、宮脇咲良を応援、転勤で知らない土地を満喫、現実と妄想の狭間で微笑ましく生きる、小さな幸せのかけらを積み重ねる。

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