2013年05月16日

誰がために鐘は鳴る(remake版)〜前半〜

『誰がために鐘は鳴る』 〜サラリーマンの物語〜

※この物語は、5年前に僕が書いた短編小説です。かけだし金融マンのblog(2008年2月)に掲載されているもののリメイクです。


<第1話>

今日もあいつの罵声が工場に鳴り響く。マジうざい。能力も人間的魅力もなく、けつの穴も小さいくせに、ゴマすりとおべんちゃらで出世を続け、今や本社の部長。いつも工場長や現場で働く俺たちに偉そうに怒鳴り散らし、自分は定時あがりで飲み会三昧。ホントいい身分だよな。

それに比べて工場長はすげえ。口は悪いしいろいろうるさいが、部下の生活や働きやすい環境のことをしっかり考えてくれていて、何より自分が率先してバリバリ働いてる。この人にならついていきたいと思えるほど男気たっぷり。

そんな部長と工場長はそりが合わない。部長は、工場長が言うことを聞かないので面白くない。工場長は、部長の言っていることが理不尽であり、部下を思うとそんな指示は到底受けられない。

まさに水と油。

そんな中、工場長が左遷されるという噂が僕の耳に入ってきた。


<第2話>

俺の名前はケンタ。社会人3年目。小さい頃から楽しく生きることがモットーで、学生時代はやんちゃばかり楽しい日々だった。でも、曲がったことが大嫌いで、人の気持ちとか、人と人とのふれ合いとか、そういうものは大切にしてきたつもりだ。特に、大学時代にアメフトというスポーツを通じて得た経験と出会った仲間たちのおかけで、本当に大切なものは何かってことに気付くことが出来た。

で、今は某メーカーの会社に就職して3年目。工場に配属されて、ヘルメットをかぶり作業着を着ながら、現場のおっちゃんに怒られたり、どなられたりしながらもうまく連携をとり、事務やら、企画やら、運営やらを頑張っている毎日。

就職活動では、大手都銀とかからも内定をもらっていたけど、銀行なんかよりメーカーの方が、人情味があるというか、泥臭いというか、なんか人と人とのふれ合いがありそうと思ったから今の会社を選んだ。ヘルメットだってアメフトで慣れっこだし、作業着を着て現場に出れるってのも、俺にぴったりな感じだと思う。

工場長も男気があり、人間の温かみを感じさせてくれる人だから、今の環境でバリバリ頑張ろうって、そんな生活を送っていた。

そんな矢先に、工場長が異動でどこかに飛ばされるなんて噂が流れてきた。
まさか。。。


<第3話>

「あなた、お風呂が沸いてるわよ。最近お疲れみたいね。温まってゆっくり休んでください。」台所から妻の声が聞こえる。

子供たちは無事に独立して、今は妻と二人暮らし。俺がこうして工場長になることが出来たのも、子供たちが無事に大人になることが出来たのも、全ては妻のおかげだ。

そして工場で働くみんなにも、支えてくれる妻や、生きがいを与えてくれる子供たちなど、守らなければならない家族が存在するのだ。

最近、部長が進めようとしている「工場合理化計画」。合理化計画という名のリストラ、首切り。たしかに、3年前までは不採算部門で会社の足を引っ張ってはいたが、中期改善計画のもと前期は黒字回復。そして今期も黒字見込みではないか。

俺も工場長になって5年。前社長の意思を受け継ぎ、現場の前面に出て、率先して中期計画を実現してきた。工場のみんなも一生懸命頑張ってくれた。やっと軌道に乗り、さあこれからっていう時に。結果も出しているのに。理不尽な首切りなど、納得なんか出来るわけがない。そして何より、頑張ってくれている工場のみんな。口が悪かったり、不器用だったり、いろいろな人がいるが、不採算部門を黒字化するために、一生懸命頑張ってくれた。その結果として、工場の今がある。

工場のためにも、工場で働く人々のためにも、工場で働く人々が支えていかなければならない家族のためにも、俺は、この「合理化計画」という名の首切りを、絶対に阻止しなければならない。断固、反対する!!

そんな俺に、部長からの呼び出しがかかった。


<第4話>

都内の某小料理屋。「工場縮小計画。成功すれば、お前も取締役の仲間入りだな。」お酒も入り饒舌な専務が俺に伝える。業績不振で前社長が引責辞任したのは3年前。社長交代により、社長−専務ラインの派閥の俺も、専務の計らいで事業部長へと順調に昇進。そして、今、目の前には取締役就任への道が開け始めている。これも全て専務のおかげ。

前社長の象徴とも言えるあの工場を大幅に縮小し、前社長の色、息のかかった人材をを全て無くすこと。専務、ひいては新社長の意向。それが、俺の出世の条件。人事部への根回しも済み、後任の工場長は俺の息のかかった部下を送り込み、工場で大幅なリストラを決行する。計画に問題ない。

「そろそろ実行に移す時期だな。」環八を走るタクシーの中で、俺の決意は固まった。

取締役まで、後一歩。


<第5話>

『これからの時代は国内から海外へ。我が社も生産拠点をアジアへシフトすることが必要だ。君の工場での実績は高く評価している。君の力を、我が社のアジア進出に生かすため、是非海外調査室で頑張ってもらいたい。』

人事部から呼ばれた後、事業部長から話があった。

君の実績を高く評価している、だと。とんだ狸め。だが人事部まで根回ししているとなると、どうやら俺の異動は揺るがないようだ。海外調査室か。事実上の左遷であることは誰の目にも明らかだ。たしかに、国内生産でコスト競争を勝ち抜くのは難しい。工場にもさらなる効率化が求められるのも当然だ。人員削減を含めたリストラクチャリングの必要性もやむを得ない。ただし、削減すべき人員は工場だけではなく、むしろ役員や本社にこそあり、
見直し再構築すべきものは、役員や部長などの心構えにこそあろう。

長かった工場勤務の終わりが現実味を帯びてきたが、工場とその従業員の未来は閉ざしてはいけない。


<第6話>

『おい、ケンタ。ちょっと飲みに行くぞ。』 上司の菊池課長に連れられ、居酒屋の暖簾をくぐる。

『お前、今日はいったいどうしたんだ。何ずっとふてくされてるんだよ。』 バイトと思われる店員さんが、ふてくされている俺とは対照的な笑顔で、生中2杯を運んできた。

『だって、工場長の左遷と工場の縮小なんて納得出来ないッスよ。』 ジョッキーの1/3程を流し込む。

『たしかに工場長の左遷はデメリットが多いが、工場の縮小は今の情勢を考えるとやむを得ない面もある。ケンタだってそれくらいわかってるだろ。』 笑顔がキュートな店員さんが枝豆とたこわさを運んでくる。バイトの女子大生だろうか。

『でも、工場長がいるから工場がうまくいってるのに。頑張っていて部下の信頼も厚くて、そんな人が左遷させられ、人望がないのに世渡り上手なだけで出世するなんて、そんなの絶対におかしいッスよ。何のために毎日頑張ってるのか、こんな会社にいていいのか、なんかわかんなくなってきました。』 串焼きを運んでくれたさっきのお姉さんに、生ビールのお代わりを注文する。キュートな笑顔が、大学時代のマネージャーのミキちゃんに似ている。

頑張っていたあの頃の記憶が蘇る。


<第7話>

大学4年の時、俺はアメフト部のキャプテンだった。今だから言えるが、キャプテンとしての自覚と責任は並大抵のものではなかった。ただ、キャプテンを任される以上、それは当然だった。

お金目当てではなく、私利私欲のためでもなく、自分のために、仲間のために、そしてチームのために、大学生活という貴重な時間を捧げてくれる、大切な仲間達。絶対に裏切ってはいけない存在。

そんな仲間達みんなの想いを背負って、キャプテンとしての決断をしていかなければならない。明確なビジョンと、それを実現する具体的なイメージを示しながら。たかだか50人ちょっとの部活のキャプテンでさえそうなんだから、みんなの生活や将来をも背負いながら、みんなから慕われ続けたあの工場長の苦労は計り知れない。

はたして事業部長や新しい工場長は、いったいどれほどのものを背負ってくれているのか。僕たち部下に対して、どれだけ責任を感じてくれているのだろうか。不安は尽きない。

会話を続けながらも、いつの間にか、課長はビールから熱燗へと変わっていた。


<第8話>

熱燗をやりながら、課長がしんみり語り始めた。

『俺たちも入社したての頃は、やってやろうじゃねぇかと、熱いハートを持った仲間が多かったな。ケンタを見てると思い出すよ。』ナスの浅漬けをつまんでいる課長の顔に笑みが浮かぶ。

『課長が入社した頃って、高度経済成長の時代ッスか?』

『バカやろう。俺がそんなに老けて見えるか?俺なんてついこないだも、30代かと思ったぁ〜、って言われたんだぞ。吉祥寺のキャバクラの○×△□。。。おい、何冷たい目で見てるんだよケンタ。冗談に決まってるだろ。』軽く無視してミキちゃん似の店員さんにカシオレを注文する。

『でもうちの会社も当時はすごい勢いだった。技術革新やらなにやらで、現場だけでなく営業や事務方でも、モノづくりの誇りを感じていられたんだ。多分、会社や仕事に夢を持つことが出来たから、出世や保身なんか考えなくとも良かったのかもしれないな。』カシオレの甘さとともに、複雑な想いが胃を通じて体に響く。


<第9話>

『まあ、ケンタの言いたいことも理解出来る。そして、時代背景や経済情勢が大きく変わり、会社も右肩上がりではなくなったことも要因の1つだ。それで、お前はどうするんだ?ふてくされたままでいいのか?』課長はいつになく真剣な眼差しだ。

『今回の会社の方針は到底納得なんか出来ません。新しい工場長にも会ったことありませんし。と言っても期待なんかしてないっすけど。課長のおかげでちょっとは頭が冷めました。馬鹿なことはしないから安心してください。モチベーションをあげるのは難しそうだけど、工場のためになんとか頑張ります。』 周りのテーブルのサラリーマン達も、ボチボチ切り上げる時間帯だ。

『ケンタ。俺たちサラリーマンは所詮仕えの身だ。だが誇りを持って、強い心を持って頑張らなきゃいかん。社会や会社の中で、汚い部分やヒドい部分が見えるときもある。そんな時も心を折るな。強い心で頑張れ。そして、今ケンタが抱いているような感情を忘れないで、お前ら若い世代がこの会社を変えていくんだ。だからくじけるな。』

酒が入っているせいか、課長の言葉で体が熱くなっていた。


<第10話>

『ご馳走さまでした。今日はいろいろありがとうございました。』そう言って僕は課長と別れ、帰りの電車に揺られている。

課長とは色々な話をすることが出来、事実僕の心は落ち着きを取り戻しつつあった。たしかに今の俺の力では、
何も変えることなど出来ないし、誰も守ることなど出来やしない。だが、真面目に一生懸命働いている人達が同じ目にあわないように、希望を持って入社してくる後輩達が同じ思いをしないように、俺は知識と経験を積み、モノを言える力をつけていくしかないんだろうな。

『長く遠い道のりだな。』つり革に掴まりながら、独りつぶやく。周りには仕事帰りのサラリーマンやOLばかり。くたびれている姿もあれば、赤ら顔でご機嫌な姿もある。窓に映る僕の顔は、やや疲れてはいるけれども、目はまだまだ死んではいない。

駅からアパートまでの帰り道。夜空を見上げると、東京にも、北海道と同じ月が顔を出していた。『窓にうつる 哀れな自分が 愛おしくもある この頃では 僕は僕のままで 譲れぬ夢を抱えて どこまでも歩き続けてゆくよ いいだろう? Mr.myself?』ミスチルを口ずさみながら、僕の心は明日に向かっていた。

<後半に続く>

※この物語は、「かけだし金融マン」で2008年2月に掲載された、自作の短編小説です。

kou_blue97 at 22:43│Comments(0)TrackBack(0) 后箆∈椒轡蝓璽困發痢 

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kou_blue97

〇札幌生まれ札幌育ち。現在は東京在住(←徳島←千葉…)。転勤族のサラリーマン。ミスチル世代の団塊ジュニア。
〇好きなモノ
 アメフト観戦、ミスチル鑑賞、blog執筆、子供とおでかけ、宮脇咲良を応援、転勤で知らない土地を満喫、現実と妄想の狭間で微笑ましく生きる、小さな幸せのかけらを積み重ねる。

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