2015年10月

2015年10月04日

もしアメフトの魅力を・・・物語を書くとしたら (第13章)

もしアメフトの魅力を知ってもらうための物語を書くとしたら

第13章 夏の初めの再始動

<第35話>

 試合の後、帰宅した高橋はゆっくり風呂に入った後、柏木の家に向かった、一刻も早く、今日の試合について語りたい。それは、2人とも同じ考えだった。

「お疲れ。今日は相当タックルしたよな。身体、大丈夫か?」高橋が柏木に確認する。
「ああ、フロント面の踏ん張りのおかげで、良いタックルもたくさん出来た。おかげで身体の芯までクタクタだ。高橋だって、ボールを持つ回数が相当多かったな?」
「今日は児玉のランを封印したら、結果的にボールを持つ回数は増えたよ。でも、ブロック陣が頑張ってくれたから、走りやすかったさ。」

 2人とも、試合中はアドレナリンにより痛みを感じる暇などないが、試合が終わって数時間が経過し、心地よい痛みと疲労感が全身に広がっている。試合の夜くらいはゆっくりと休む予定だったが、やはり今日の試合が気になった。
「収穫は大きかった。チーム力は、順調に底上げ出来ている。ラインもセカンダリーも戦えている。あの制限されたプレー内容で、よく17点取ったよ。選手たちを褒めるべきだ。」柏木が高橋に伝える。
「そうだな。守備陣も前半は完封だったし、最初の失点は攻撃陣のミスだから、よく戦えているよ。本当に。」高橋も同感だ。さらに続ける。
「選手たちは、本当によくやったよ。思い切りよく、全力だった。出来ていなかったのは俺達だけだよ。完全にブレブレだった。」高橋が反省を述べる。
「迷ったな。迷いが生じた。それだけは絶対にやってはいけない。」柏木も反省を述べる。
「リーダーたるもの、軸がぶれてはいけない。そんな主将じゃ、誰もついてこなくなるよな。」高橋が続ける。
「頑張った1年生は試合に出すと言っておきながら、森保と田島までしか出せなかった。試合、出たかっただろうな、みんな。」こんな弱気な高橋は、珍しい。
「おいおい主将。そんなに落ち込むなよ。それこそ誰もついて来なくなるぞ、弱気な顔は俺以外に見せるなよ。おまえは主将なんだから、何があっても自信を持っていてくれ。明日のミーティングで、1年生には素直に頭を下げよう。その時何を考えたか、全て正直に説明しよう。明日で終わりだ。絶対に、このわだかまりを引きずってはいけない。」柏木が熱く高橋に想いをぶつける。
「そうだな。明日は素直に頭を下げて、また明日から全員で前に向かって進まなければならないからな。俺たちに、立ち止っている時間などない。」高橋は、少しだけ元気が出てきた。

「それよりも、ベンチワークだろ?一番の問題は。俺とお前が、ベンチで話し合う時間がない。意思疎通が取れない。このままでは、試合中のアジャストが出来ない。選手の交代やプレー指示など、全てにおいて機能していないな。致命的な状態だ。」柏木が語る。
「そうだな。薄々感じていて、問題意識は持っていたが、手つかずだったな。本当に致命的だ。うちのチームは、OBもいなければ、学生として残留しているコーチも不在だから、尚更だ。わかってはいるんだけど、こればっかりは良いアイデアが浮かばないんだ。」

 2人の間に、重たい沈黙が続いた。



<第36話>

 時は7月に入った。7月は中旬から2週間、大学の前期試験が行われ、試験が終わると8月から約2か月の夏休みに突入する。試験期間中は、月曜から木曜までは自主連、金曜と土曜に全体練習を行い、日曜はオフ、また月曜から木曜まで自主連となる。よって、7月は試験期間中の前までにシステム的な全体練習を終え、そのシステムの習得を各自の自主連で取り組めるような段取りが必要だ。

 この前の試合の翌日、全体ミーティングで試合の内容と今のチームの現状を振り返った、試合前に掲げていた「実戦経験」と「チーム力の現状認識」について議論を重ねた。総括すると、児玉や朝長や2年生を中心に実戦経験を積み、特に後半は強力な相手守備陣とのマッチアップや相手オプション攻撃との対戦等、重要な経験を積むことが出来た。一方、1年生を中心に試合経験を積ませられなかったことが反省点だ。また、チーム力としては、基本プレーだけである程度戦えるくらいまで底上げが出来ていること、システムの完成度が高まればさらに伸びしろは大きいことを認識した。ただし、ベンチワークを含めコーチ陣不在の影響が大きく、秋までに組織として対策を取らなければならないという反省点を共有した。またチームとして成長の階段を一段登ったことを、全員が実感出来ていた。

 日曜日が試合の場合は、月曜日にミーティングにより試合のビデオを観て反省する等を行い、身体を休めるために火曜日はオフ。また水曜日から通常の練習が再開される。ミーティングの翌日、3年生のDB多田(おおた)が柏木リーダーに相談していた。

 3年生になる多田は、柏木リーダーと同じポジションのDB。チームが同好会から部に格上げした時からの付き合いだ。多田は、中学時代は将棋部、高校時代は弓道部を経て、大学でアメフト部に入部した。高橋と柏木の魅力にひかれた部分もあり、またアメフトというスポーツに興味を持ったからだ。運動能力はあまり高くなかったが、弓道部で培った精神力は強く、何よりも努力家だった。ウェイトトレーニングも理論的に行い、アメフトの動きについてもしっかりと勉強した。しかし、頭では十分理解出来ていても、身体がついていかなかった。
 2年生だった昨年は、夏合宿で肩の怪我をして秋のシーズンは試合に出られなかった。しかし、縁の下の力持ちとしてマネージャーとともに下働きを精一杯頑張った。ビデオの撮り方や練習時のマネージャーの動きなど、普段はプレーヤーが気付かないような視点で、マネージャーと連携し、チームに貢献していた。今年に入り3年生となり、後輩達が増えてきたものの、試合経験のない自分にとってプレーに関することを指導するのは難しく、悩みを掲げていた。

「柏木リーダー、ご相談があるのですが。」多田は、柏木に電話をする。
「わかった、今日はオフだ。夜に飯でも食いに行こうか。」柏木が伝える。

「あいつ、頑張ってきたけど・・・。まさか、辞めるつもりなんじゃ・・・。」



<第37話>

 店に入り、柏木と多田がそれぞれ食事を注文した。おしぼりで顔を拭きながら、柏木が話しかける。
「どうした?恋の悩みか?」絶対に違うとわかっていながら、場を和ませる。
「いえ、アメフト部のことです。」水を一口飲み、多田が続ける。
「春合宿から考え始めていましたが、今回の試合で決めました。僕はもう、選手としては無理です。諦めました。」
「辞めちゃうのか?」柏木が聞く。
「プレーヤーは辞めます。」多田の決心は揺るがない。
「でも、アメフト部は辞めません。アナライジングスタッフとして、スポッターやベンチワークの責任者になります。それが、僕に出来る一番のチームへの貢献だと思います。」

 その日、主将の高橋も合流し、3人でいろいろと話し合った。チームにとって、プレーヤーの充実は当然重要だが、ベンチスタッフの充実も重要だ。プレーヤーとしての兼務を勧めたものの、多田の決意は固く、アナライジングスタッフとなることを承諾した。

 秋のシーズンでは、多田がスタジアムの観戦席(グラウンドの場合は設置するやぐら)からフィールド全体を見渡し、ヘッドホンでベンチと情報のやり取りを行うこととなった。自分のチームの攻撃の時は、高橋がフィールドに入っているので、柏木がベンチでヘッドホンを装着する。自分のチームが守備の時は、柏木がフィールドに入っているので、高橋がベンチでヘッドホンを装着する。高橋と柏木の間で情報の伝達が必要な場合も、多田を介することで問題なくなった。また、相手チームのプレー傾向やシステム的な話も試合中に全て相談や分析が出来る体勢となる。怪我で試合に出られない選手又はマネージャーをスポッターに加えれば、さらに精度は高まっていく。

「これから1ヶ月で、俺と柏木の頭の中の戦術を全て理解してもらうからな。頼むぞ。」高橋が、多田に握手を求める。
「わかりました。精一杯頑張ります。やるべきことは変わっても、僕とチームの目標は変一緒ですから。」

 男達は熱く手を握りしめ、誓い合った。


(スポッターのイメージ)
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<登場人物>
・宮脇拓哉/みやわきたくや
…主人公(僕)。1年生。LB(守備)。
・児玉悠斗/こだまはると
…1年生。アスリートで自信家。QB(攻撃)
・朝長幹男/ともながみきお
…1年生。巨漢。AKB好き。OL(攻撃)兼DL(守備)
・高橋湊斗/たかはしみなと
…アメフト部主将兼オフェンスリーダー。4年生。RB(攻撃)。
・柏木行雄/かしわぎゆきお
  …アメフト部副将兼ディフェンスリーダー。4年生。LB(守備)
・前田奈津子/まえだなつこ
…4年生。主務兼女子マネージャー。
・大島陽子/おおしまようこ
…1年生。女子マネージャー。
・森保/もりやす
  …1年生。高身長。WR(攻撃)。
・田島/たしま
  …1年生。万能タイプ。DB(守備)。
・多田/おおた
  …3年生。DB(守備)からアナライジングスタッフに転向。


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2015年10月03日

もしアメフトの魅力を・・・物語を書くとしたら (第12章)

もしアメフトの魅力を知ってもらうための物語を書くとしたら

第12章 ゲームの行方は

<第32話>

 TD後のキックも決めて、7−0。昨年2位の格上チームから先制した。ここで第1Qが終了し、陣地を入れ替えて第2Qがスタートする。第2Qに入っても、ゲームの流れは変わらない。相手チームの攻撃は序盤より威力を増したものの、守備陣が踏ん張り、要所要所のプレーを柏木リーダーが中心にしっかりと止め、無失点を守り切る。一方、攻撃陣はQB高橋のバランスアタック、QB児玉のパスアタックと敵陣に切り込み、高橋のランでTDを重ねる。14−0で第2Qが終了。ハーフタイムだ。

「先輩達、すごい。そして、児玉も朝長も活躍している。これは、本当に優勝も夢じゃない。」僕は、心の中で喜んだ。試合に出られない1年生達も、同じ気持ちで目を輝かせている。そして、フィールドから戻る児玉と朝長を迎え入れ、活躍を称える。
「児玉、ナイスTD。」
「朝長も全然負けてない。大活躍だ。」
 ベンチは盛り上がる。
「よし、ハドル(集合)。時間はないぞ。オフェンスからミーティングだ。」
 ハーフタイムは12分。貴重な作戦会議の時間だ。攻撃陣のミーティングを行い、守備陣のミーティングを行う。前半のプレーの確認、相手チームの情報共有、そして後半のゲームプランの再確認。特に、攻撃と守備の両方のポジションを持つ選手は、なかなかベンチに戻って来れる時間もないため、貴重な伝達の時間となる。そして、後半は交代選手の入れ替えも順次行うことを再確認した。ミーティングが終わり、試合開始まで残り3分を切る。

「何かおかしいな。」柏木リーダーが主将高橋に話しかける。
「ああ、わかっている。俺達も成長したが、あいつらはこんなもんじゃない。」と高橋。
「QBは途中から#10が入っていた。明らかに控えの新米QBだ。2年生くらいか?」正直、相手チームのスカウティングはほとんどしていない。
「そうかもな。そして、控え選手を多く使ってきている。俺達も手の内を隠しているが、相手も相当温存しているよ。もう、この試合は勝ち負けじゃない。まあ、最初から勝ち負けじゃないけどな。成功する体験と、そのイメージを植え付けるのも悪くない。1年にも見せ場を作ってやろうぜ。」高橋がそう柏木に伝えた。
「よし、後半も暴れるか。」

「いいか、点差は関係ない。1つ1つの限られたプレーを大切に、思いっきりプレーしよう。最後まで、全力で戦おう。それが、チームの成長につながる。」全員の前で、主将が伝える。そして、後半が始まる。



<第33話>

 後半は、相手チームのキック、僕達のチームのレシーブで試合再開。自陣30ヤードからの攻撃。後半は、児玉のQBでのスタートだ。パスの実戦経験を重ねるため、早いタイミングパスを多用している。そして、1年生WR森保(もりやす)がフィールドに立つ。3人目の1年生のデビューだ。森保は、線はやや細いが高身長のバスケ部出身でパスキャッチのセンスは高い。高橋から攻撃のプレーが伝えられた。児玉から森保への早いタイミングのショートパスだ。
 攻撃陣がそれぞれの位置にセットする。相手守備体型が4−4パスカバー3から4−3パスカバー4に変更していた。
「4−3、4−3、カバー4。カバー4に変更。」児玉はゆっくりと、味方全員に相手チームの守備体型が変更したことを伝える。
「カバー4か、マズイな。無理して投げなくていいぞ」高橋は心の中で嫌な予感がしたが、アメフトでは一度静止した状態になった後は、プレーがスタートするまで動けない。したがって、児玉に伝える術はない。
 プレーが始まり、児玉はボールを受け、3歩下がってすぐにWRに向かって速いパスを投げる。前半までは守備陣はパスカバー3でパスを守る3人のDBが後ろのゾーンを守っていたが、今はパスカバー4なので、真ん中の2人が後ろのゾーンを、両側の2人は前のゾーンを守る。WR森保とマッチアップする相手CBは、前半と違い前のゾーンを守れるため近い位置にセットしていたことに加え、前半から何度も繰り返されたショートタイミングのパスであったため、完全にプレーを読まれていた。
 球際の競り合い。ボールに向かって2人が競り合う。最後の一歩が前に出た相手CBが競り勝ち、ボールを奪った。パスインターセプト。攻守交代。決して児玉のパスは悪くなかった。森保のコースも悪くなかった。ただ、相手CBが1枚上だっただけだ。森保にとっては、ほろ苦いデビューとなった。

 自陣35ヤードからの相手の攻撃。ゴールを背負った守備だ。4−4体型だ。守備でも1年生DB田島(たしま)がフィールドに立つ。4人目の1年生のデビュー。体格は僕に似てこれと言った特徴はないが、どんな練習メニューもソツなくこなす万能タイプだ。
 相手チームは前半に引続きプロI体型。QBは4年生の#4が戻っている。プレーが始まる。RBにボールを渡す振りをして、QBがオープンに走る。守備陣がQBにタックルしようとしたタイミングで、RBにボールをピッチする。田島は完全にWRにブロックされている。15ヤード走られたところで、かろうじて柏木がタックルする。
「まさかのオプション攻撃導入か。練習にはもってこいの相手だ。」柏木がつぶやく。
 自陣20ヤードからの相手チームの攻撃。プロI体型から、RBにボールを渡す振りをして、QBがオープンに走る。先程と同じだ。田島は、次こそは自分が止めると意気込み、前に出る。しかし次の瞬間、QBはパスを投げる体勢を取る。
「しまった。オプションフェイクのパスだ。」田島は急いでパスカバーに戻るが、時すでに遅し。相手のパスはWRがキャッチし、TD。14−7と相手チームが迫りくる。田島にとっても、ほろ苦いデビューとなった。 



<第34話>

 次のうちのチームはQB高橋のシリーズ。スタメンが揃った相手守備陣の壁は、プレーを温存した状態では到底敵わない。3つのプレーを止められて、攻守交代だ。

「せっかく相手守備陣がフルメンバーとなったんだ。攻撃陣もフルメンバーを揃えて、力比べをしたい。ガチで戦力比較をするチャンスだ。」という気持ちと、
「予定通り多くの選手に試合でのプレー経験を積ませ、チームの底上げを行うべきだ。」という気持ちが、主将の高橋の心の中で揺れ動く。

「相手のオプション攻撃は予想外だが、対北都戦の実戦練習にもってこいだ。守備陣もフルメンバーを揃えて、オプション攻撃対策を徹底的に行うべきだ。」という気持ちと、
「予定通り多くの選手に試合でのプレー経験を積ませ、チームの底上げを行うべきだ。」という気持ちが、柏木リーダーの心の中で揺れ動く。

 高橋は攻撃の全てのプレーに参加、柏木は守備とキックゲームの全てのプレーに参加しており、ベンチで2人は顔を合わせる機会がない。相談が出来ず、意思疎通が図れないのは大きな弱点だ。
 結局、高橋も柏木も、フルメンバーでの経験アップを重視した。攻撃陣は、高橋と児玉を中心にゲインを重ねるもTDは取れず、FG(フィールドゴール)の3点に留まった。守備陣は、今年導入したばかりで精度があまり高くないオプション攻撃にも手こずり、後半だけで2TDと1FGを許し17点の失点となった。
 そして、第4Qに入り、申し訳程度に控えの2年生から順次試合に出し始めるも、選手交代やポジション入れ替え等が上手くいかず、交代違反での反則が1回、交代のミスによる時間切れの反則が1回と、後味の悪い終わり方となった。試合に出場出来た1年生は、児玉・朝長・森保・田島の4人に留まった。僕は、試合に出場出来なかった。

 春の最後の試合、昨年2部リーグ2位の格上チーム相手に、17−17のドローと健闘した。スコア的には十分な試合結果となったものの、試合の後、高橋にも、柏木にも、誰にも充実感と笑顔はなかった。

 秋のシーズン開幕戦まで、残り2か月。



<登場人物>
・宮脇拓哉/みやわきたくや
 …主人公(僕)。1年生。LB(守備)。
・児玉悠斗/こだまはると
 …1年生。アスリートで自信家。QB(攻撃)
・朝長幹男/ともながみきお
 …1年生。巨漢。AKB好き。OL(攻撃)兼DL(守備)
・高橋湊斗/たかはしみなと
 …アメフト部主将兼オフェンスリーダー。4年生。RB(攻撃)。
・柏木行雄/かしわぎゆきお
 …アメフト部副将兼ディフェンスリーダー。4年生。LB(守備)
・前田奈津子/まえだなつこ
…4年生。主務兼女子マネージャー。
・大島陽子/おおしまようこ
 …1年生。女子マネージャー。
・森保/もりやす
 …1年生。高身長。WR(攻撃)。
・田島/たしま
 …1年生。万能タイプ。DB(守備)。



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2015年10月02日

もしアメフトの魅力を・・・物語を書くとしたら (第11章)

もしアメフトの魅力を知ってもらうための物語を書くとしたら

第11章 先制点

<第30話>

 児玉が激しくタックルされ、フィールドに叩きつけられた。今まさに投げようとしていたボールは、児玉の手からこぼれ落ち、地面を転がった。フリーボールだ。ボールを確保した方が、攻撃権を得るが、運よく転がったボールは高橋が押さえた。7ヤードのロス。

「おい、大丈夫か?」高橋、そして朝長が児玉に駆け寄る。
「だ、大丈夫です・・・」声を絞り出し、児玉はなんとか立ち上がろうとする。
「無理に立ち上がるな。時間切れで反則になる。倒れたままでいろ。」高橋が命令する。
 児玉はフィールドに横たわったままでいると、審判が笛を吹く。
「レフリータイムアウト」負傷者のためのタイムアウトだ。
 ベンチにいた柏木リーダーの指示で、僕達1年生とマネージャーが児玉に駆け寄る。児玉は自分で立ち上がり、僕の肩に持たれかけながらゆっくりとベンチに歩き出す。
「宮脇、ゆっくりとフィールドを出ていけ。ゆっくりだぞ。時間をかせげ。」高橋が僕にささやく。
 児玉が無理に立ち上がると、40秒ルールが開始されるため、高橋は児玉を無理に立ち上がらせずに、審判に時計を止めてもらうことを選んだ。そして、動揺する朝長を落ち着かせ、自分もQBとして次からのプレーの組み立てを頭の中で整理するため、ゆっくりと時間をかけるよう指示を出した。高橋は冷静だ。

 ボールは自陣に戻され、2ndダウン17ヤード。
「パスコースはガラ空きだ。左スロットIから、5ドロップのパス。右からポスト、アウト、ポスト、コール1。レディ」高橋の指示に全員で応える。
「ブレイク」
 高橋は、相手チームがパスカバー出来ていないのを見て、先のプレーと左右反対の同じプレーを選択した。

 朝長は、「対面の選手に気を取られ過ぎた。あの外側への膨らみは、内側を開けるための連携プレーだったんだな。ただパワーが強いだけじゃダメだ。もっと視野を広く、もっと週中しろ!」自分に喝を入れる。

 児玉はセンターからボールを受け、5歩ドロップバックで下がり、相手DBの3人の動きを見極める。相手FSは過剰に動かず身構えている。
「よし、空いた」
 高橋の目には、通すべきパスコースが見えていた。パスを投げる体勢を取ろうとした時、今度は左サイドのLBがオープンからブリッツをしかけていた。



<第31話>

 2ndダウンロングのパスシチュエーション。オープンからのブリッツは、十分予測出来ていた。高橋は、パスを投げる体勢に入るその瞬間、自分に迫りくる守備選手はいないか確認した。自分の死角となるブラインドサイド(左側)からLBが突き進んでくるのが見えた。OL陣は崩されていない。スクランブル(緊急発進)だ。外側からブリッツしてくるLBをRBが外側に弾くようにブロックしたのを見た高橋は、朝長とRBの間のスペースを確認し、自ら駆け上がる。
 スクリメージラインを越えてトップスピードに乗った高橋は止められない。左サイドライン沿いを縦に走り抜け、相手DB陣にサイドアウトに追いやられるまで、25ヤードのロングゲイン。敵陣30ヤード地点まで切り込んだ。
 サイドラインに追いやられた高橋のもとにベンチで休んでいた児玉が駆け寄る。
「ナイスランです!」
「児玉、いけるか?」高橋が確認する。
「いけます!」児玉がフィールドに戻る。

 高橋は熱くなりかけた頭を冷やし、落ち着きを取り戻す。中央の遅いランプレーで5ヤード、WRへのショートのパスで5ヤード進み、リズムよく新たな攻撃権を獲得。敵陣20ヤードに迫る。
 「さっきのスクランブルもあり、ここでブリッツはない。右スロットIから、5ドロップのパス。右からポスト、イン、ストレート、コール1。レディ」「ブレイク!」
 右WRとSB、FSがカバーに来ない方がターゲット。児玉はセンターからボールを受け、5歩ドロップバックで下がり、相手DBの3人の動きを見極める。FSの動きが中途半端だ。右WR、SBともにどちらもカバー出来ていないようであり、カバー出来そうでもある。迷いが生じる。第3ターゲットの左WRを見ると、CBのカバーが甘い。今までポストパターンが続いており、今回は一瞬のポストへのフェイントに相手CBは大きくひっかかり、結果としてカバーが甘くなったものだ。

 自分に迫りくる守備陣はいない。仲間達のパスプロテクションは完璧だ。児玉は持ち前の肩の強さと投力を発揮し、エンドゾーン(相手ゴールエリア)目がけてこの試合初のロングパスを投げ込む。相手守備陣の迫りくるプレッシャーがなければ、パスには自信がある児玉だ。20ヤードのパスが成功し、児玉は人生初のタッチダウンパスを経験した。
 決める時は決める。決定力を感じさせるパスだった。しかし、見た目は華やかなロングパスだったが、第1、第2ターゲットへ投げられず迷いが生じていたこと、迷いながらも味方のパスプロテクションが完璧だったから投げられただけであって、もっと判断力を速めなければいけないことを痛感していた。

 児玉の顔に、大きな笑みは浮かばなかった。






<登場人物>
・宮脇拓哉/みやわきたくや
 …主人公(僕)。1年生。LB(守備)。
・児玉悠斗/こだまはると
 …1年生。アスリートで自信家。QB(攻撃)
・朝長幹男/ともながみきお
 …1年生。巨漢。AKB好き。OL(攻撃)兼DL(守備)
・高橋湊斗/たかはしみなと
 …アメフト部主将兼オフェンスリーダー。4年生。RB(攻撃)。
・柏木行雄/かしわぎゆきお
 …アメフト部副将兼ディフェンスリーダー。4年生。LB(守備)
・前田奈津子/まえだなつこ
 …4年生。主務兼女子マネージャー。
・大島陽子/おおしまようこ
 …1年生。女子マネージャー。


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2015年10月01日

もしアメフトの魅力を・・・物語を書くとしたら (第10章)

もしアメフトの魅力を知ってもらうための物語を書くとしたら

第10章 QB児玉のデビュー

<第27話>

 春のオープン戦(第2戦)の試合の朝を迎えた。僕はまだプレッシャーを感じる立場ではないので、ぐっすりと眠ることが出来た。家を出る前に、ブラックコーヒーを飲む。NBAのスーパースターであるマイケル・ジョーダンが、試合前に必ずブラックコーヒーを飲むというのを真似てみた。ほろ苦い。たしか、集中力を高めるのと、程よい興奮状態になるためだったかな。忘れちまった。ゲン担ぎだから、何でもいい。気合いを入れて、僕は試合会場に向かった。

 試合前の土曜日。練習前のミーティングで、スタメンが発表された。1年生からのスタメン出場は、朝長がDLで選ばれたのみだった。大きなサプライズはない。スタメン発表を行った主将の高橋が、続けてみんなに伝える。

「いよいよ明日が、春の最終戦だ。相手は昨年2位の強豪。昨年は35‐0で完敗した相手だ。あれから、どれだけ力の差が縮まったか楽しみだな。明日は、勝ち負けなんか気にしないで、思いっきり暴れよう。」主将の話は続く。
「この試合が終わったら、2か月後の北都大戦まで試合はない。最後の実戦だ。だから、勝ち負けなんかよりも、最大限の実戦経験を積むこと、そして現時点でどこまで戦えるかチームの現状を認識すること、この2点が最重要だ。秋に向けて全てのシステムを温存したいところだが、さすがに全てぶっつけ本番というわけにもいかない。いくつか経験しなければならないことがある。まず、オフェンスはQB2枚看板で行く。俺と児玉がそれぞれ半々だ。システムは、スロットI(SB1人とRB2人)。TEを置く意味がないので、今までのプロIは使わない。SBからのブロック、そしてパスコースへの出方について、実戦で経験してみて欲しい。ただし、フレックスボーンは温存する。プレーはシンプルに、バランス良くランとパスを織り交ぜる。QB児玉の走力は試すまでもないし、怪我のリスクもあるので、児玉のランプレーは使わない。パスは、実戦で試して感覚をつかんで欲しい。児玉のパス能力が高いのはスカウティングされてもしょうがない。むしろ、走れないパス専門のQBだと思ってもらっていた方がいい。そして、オフェンスでも、ディフェンスでも、キックチームでも、1年生はローテーションで試合に出てもらう。とりあえず、思い切りの良さだけは忘れずに、全力でアメフトを感じて欲しい。」

 続いて、ディフェンスについて柏木リーダーが説明する。

「ディフェンスは、フロントメンは4−3と4−4を併用し、DBはカバー2とカバー3を併用する。それぞれ実戦で感覚をつかんで欲しい。チャージやブリッツ、ローテーション等は使わないで、シンプルに守る。前半は、シンプルに守って、個人でどこまで戦えているのか、チームでどこまで戦えているのかを試す。後半は、1年生を含めて多くの選手をローテーションで試合に出して経験を積む。システムで勝とうとはしないので、やられてもいいから個人の力で戦ってくれ。去年の俺達とは違うところを、自信を持って見せてやろうぜ。」

 さあ、いよいよ試合モードが全開になってきた。



<第28話>

 試合は、僕のチームのキックオフで開始した。前年度の成績(順列)が上のチームがホームカラ―のユニフォームを着るのが原則。よって、昨年度最下位の僕らは、今シーズンはビジターカラ―(ホワイト)のユニフォームしか着る機会がないのが残念だ。

 相手の攻撃から始まるシリーズ。相手チームは予想どおりプロI体型。うちのチームの守備は4−3体型。最初のシリーズは、中の早いランで2ヤード、外のランで3ヤード、中の遅いランで3ヤードと10ヤードに届かず、3プレーで相手の攻撃をシャットダウン。全てのプレーはLB柏木がタックルし、フィールドを自由に駆け巡る。
「リーダーすげえ」僕がサイドラインで興奮する。
「宮脇、柏木じゃない、朝長が凄いんだ。わかるか、相手のラインに負けてない。」主将の高橋が、次の攻撃に備えてヘルメットをかぶりながら教えてくれる。
「去年はな、DLが相手OLに押されて後ろの柏木は身動きが取れなかったんだ。でも、朝長達DLが相手に負けていないから、柏木が自由に動けるんだ。朝長、末恐ろしいな。」相手チームのパントキックが終わり、「オフェンス行くぞ!」の掛け声で、高橋はフィールドに入って行った。

 相手守備体型は4−4に近いフロント8メン。昨年と同じく、ランプレーに強い守備体型だ。スロットI体型から、中の早いランで2ヤード、外のランで4ヤード、中の遅いランで2ヤードと、相手守備陣が踏ん張り、10ヤードに届かないため新たな攻撃権は獲得ならず。最初のシリーズを見る限り、ラインの対決はほぼ互角か。昨シーズンから考えると、大幅な成長だ。

 次の相手の攻撃シリーズ。うちのチームの守備体型は、4−4体型へと変更。短いパス成功で4ヤード獲得、外のランで2ヤード、外のランフェイクのパスは失敗で、ここも守り切る。
 自陣35ヤード付近からのうちのチームの攻撃、2シリーズ目。児玉のQBデビューであり、朝長もOL(攻撃陣)としてのデビューだ。高橋の背番号「1」に対して、児玉は背番号「18」。野球でいうエースナンバーを志願した。
「QB#18に変わったよ。#1はTB。」相手ディフェンスが確認し合う。

 児玉のデビュープレーは、WRへのパス。相手は4−4のカバー3だ。CBが深めにパスを警戒しているので、CBの前のゾーンが狙い目だ。右スロットIから、広いサイドである左WRへの短いタイミングパス。練習通り、問題なく成功し、パスキャッチ後にもランで3ヤード進み、トータル8ヤードのゲイン。朝長も、左OTとして相手DE(4年生)とのマッチアップは一歩も譲らないパスプロテクション。そして2ndダウン2ヤード。RB高橋のオフタックル付近のランプレー。SBとUBのブロックのタイミングが良く、高橋のスピートを生かして10ヤードゲイン。新たな攻撃権獲得とともに、一気に敵陣に入り込む。サイドラインも盛り上がる。
順調な滑り出しだ。


<第29話>

 オフェンスは、全てのプレーの作戦を伝えるのは主将高橋が担っている。
「よし。いい流れだ。ここで児玉の肩の強さとパスの精度を見せつけてやろう。」
 高橋は、この流れのまま一気に押し切るプレーコールを選択した。右スロットIから、右WRがポスト、右SBがアウト、左WRがポストのコンビネーションパターンだ。成功すれば、ロングゲインが見込まれる。前のプレーが終わってから40秒以内に次のプレーを始めなければ反則だ。作戦会議の時間は短く、シチュエーションを理解し、最適なプレーを選択し、選手達に暗号で作戦を伝えなければならない。反則となればせっかく稼いだ陣地が、5ヤード罰退させられる。急いでハドルを解き、次のプレーを準備する。
「ロングパスだ。俺のパスを見せてやるぜ。」児玉は意気込む。ロングパスを成功させるためには、パスを投げるまでの時間、QBが相手ディフェンスにタックルされないように、ラインメン達がQBを守らなければならない。
「このパスを成功させるには、俺がこの対面の大型DEをしっかりブロックしなければならない。」朝長は集中する。

 児玉はセンターからボールを受け、5歩ドロップバックで下がり、相手DBの3人の動きを見極める。朝長は相手DEが左側からすり抜けてQBにタックルに行こうとするのを全力で食い止める。パスの第1ターゲットは右WRのポスト。FSがカバーに行かなければ、右WRに投げる。FSが右WRをカバーした場合、第2ターゲットの左WRに投げる。FSが左WRをカバーしたが、右WRが右CBにカバーされていれば、第3ターゲットの右SBのアウトに投げる。シミュレーションもバッチリだ。
 FSはまだ中央に残って両方を見ている。第1ターゲットの右WRは、少し後ろに右CBが見えるが、FSと右CBのゾーンの切れ目に投げれば、どちらも追いつかない。
「よし、見えた!」
 児玉は、右WRが進むコース上でかつ相手DB陣がカバーできないポイントが見えた。児玉は、腕を振り上げ、いざ投げようと左足を踏み込もうとした瞬間、背中と腰に大きな衝撃を受け、地面に叩きつけられた。
相手LBに激しくタックルされた。QBサックだ。左OTである朝長が、対面のDEに気を取られている隙に、LBが朝長の内側からブリッツしたものだった。

 相手守備陣、そして相手サイドラインが大きく盛り上がる。



〇右スロットIから、右WRがポスト、右SBがアウト、左WRがポスト

150930_2324~01



〇LBのブリッツ攻撃

150930_2326~01




<登場人物>
・宮脇拓哉/みやわきたくや
 …主人公(僕)。1年生。LB(守備)。
・児玉悠斗/こだまはると
 …1年生。アスリートで自信家。QB(攻撃)
・朝長幹男/ともながみきお
 …1年生。巨漢。AKB好き。OL(攻撃)兼DL(守備)
・高橋湊斗/たかはしみなと
 …アメフト部主将兼オフェンスリーダー。4年生。RB(攻撃)。
・柏木行雄/かしわぎゆきお
 …アメフト部副将兼ディフェンスリーダー。4年生。LB(守備)
・前田奈津子/まえだなつこ
 …4年生。主務兼女子マネージャー。
・大島陽子/おおしまようこ
 …1年生。女子マネージャー。


kou_blue97 at 00:00|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 后箆∈椒轡蝓璽困發痢 | 検淵▲瓮侫箸里海函
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kou_blue97

〇札幌生まれ札幌育ち。現在は東京在住(←徳島←千葉…)。転勤族のサラリーマン。ミスチル世代の団塊ジュニア。
〇好きなモノ
 アメフト観戦、ミスチル鑑賞、blog執筆、子供とおでかけ、宮脇咲良を応援、転勤で知らない土地を満喫、現実と妄想の狭間で微笑ましく生きる、小さな幸せのかけらを積み重ねる。

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