2015年09月

2015年09月30日

もしアメフトの魅力を・・・物語を書くとしたら (第9章)

もしアメフトの魅力を知ってもらうための物語を書くとしたら

第9章 試合前の葛藤 

<第25話>

 ディフェンスシステムの理解も深まり、いよいよ春の第2戦まで1週間となった週明けの月曜日。試合デビューが決まっている児玉と朝長以外の1年生は、何とか試合に出るチャンスを貰おうといつも以上に練習では気合いが入り、先輩達に猛アピール。チーム全体も盛り上がってきた。
 そんな中、注文していた1年生のユニフォームが届いた。ホーム用のブルーのジャージと、ビジター用のホワイトのジャージだ。みんな早速身につける。憧れのスタイル。やっぱり格好いい。
 「おいおい、練習で破れて穴が開いたらもったいないから、試合までとっておけよ!」先輩達に注意されるも、今日はこのまま練習したい気分だ。僕の背番号は「97」。アメフトのユニフォームは1番〜99番まで、一部はポジションによって制約があるものの、好きな番号をつけることが出来る。僕は、他のスポーツではあり得なくて、これぞアメフトという番号をつけようと思い、「97」を選んだ。深い意味はないけど、気に入っている。ユニフォームを身にまとうと、やはり「試合に出たい」という気持ちが強くなる。同じ1年生の中でも、何も考えずに「絶対に出たい」と全力で願うやつもいれば、自分はどちらかというと「試合に出たい」という気持ちと「自信がないし、怖い」という気持ちもあるのが本音だ。でも、ユニフォームの魔力は強く、「試合に出たい」気持ちが膨らんでいく。
 
 今日の練習は、試合形式のスクリメージが中心。僕もダミーチームではLBで出させてもらい、2週間前と比べて少しずつプレー判断が出来るようになってきた。とは言え、攻撃のシステムを理解しているからついていけてるだけだと思うけど。実際にQB児玉と対戦すると、パスの迫力も出てきているし、貫録というか凄みが出てきた。これがエースのオーラなのかもしれない。パスを止めてやると意識すると、児玉と高橋主将のランは全然追いつかない。切れ味抜群だ。この攻撃力がどこまで通用するのか楽しみになる。でも、北都大の攻撃陣も同等か、またはこれ以上の攻撃力があるかと思うと、僕は、秋までにどれだけ戦力に近付けるのか不安にもなる。もっと成長の速度が必要だなと痛感しながら、僕は練習後にシャワーを浴びながら練習を振り返っていた。

 試合前の練習は緊張感が増して、質が高まるこの充実感が気持ちいいな、と思いながら帰ろうとすると、人影が見える。6月で日が長くなってきたとはいえ、北海道はまだまだうす暗くなるのも早い。「誰だろう」と心の中で考えると、テニスラケットを担いだジャージ姿の女の子がいた。
「あ、宮脇くん。ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
 一般教養の授業のグループワークとかでよく一緒になるテニス部の女の子だ。僕たちは、校庭にあるベンチに腰をかけた。さっき、ユニフォームを貰った時と同じように感情が高まりつつあった。 



<第26話>

「宮脇くん、お疲れ様。ごめんね、練習でお疲れのところ。」彼女が話しかける。
「全然大丈夫だよ。テニス部も遅くまで頑張っているんだね。お疲れ様。」
「アメフト部は大会近いとか、忙しいの?
「アメフトは、秋のシーズン一本勝負だから夏から秋にかけてがピークだよ。春は調整の時期だから、そんなに忙しいってわけじゃないかな。でも、今週末に春の最後の試合があるから、今日は緊張感があったね。テニス部は?」
「テニス部は春の大会が終わったところで、ほっと一息かな。」2人の間の空気が少し緊張している。
「私さ、宮脇くんと授業が一緒だったり、グラウンドで練習している姿を見たりして、ちょっと気になる存在になってきている。だから、もっと仲良くなりたいな。良かったら、明日練習終わった後、ご飯でもいきませんか?」たぶん僕は、彼女に誘われている。
「明日もこの時間に終わると思うけど、それでも良かったらいいよ。」僕は快諾する。
「ありがとう。じゃあ、明日練習が終わったら連絡してね。」連絡先を渡されて、彼女は立ち去った。遠くの方に同じジャージの女の子達が待っていたみたいだ。僕は、「デートをしたい」気持ちと、「自信がなくて、怖い」気持ちが混在していた。

 翌日、僕達は練習後に待ち合わせをし、パスタを食べに行った。ジャージ姿の彼女とは違い、オシャレな姿に驚いた。彼女からはお姉さんのような雰囲気を感じた。僕達は、部活の話、大学生活の話し、いろんな話題で盛り上がった。久しぶりにアメフトを忘れて楽しい時間を過ごすことが出来た。

 そして試合前の最後の本格的な練習となる金曜日。僕は、朝長達と学食で昼食を食べていた。僕は、A定食にササミチーズカツをプラス。朝長は、ご飯代わりに「牛とろ丼」、味噌汁代わりに「みそラーメン」、そして飲み物代わりに「カレー」。見ているだけで胸やけを起こしそうだ。
学食を出ると、テニス部の彼女が僕を見つけて手を振ってきた。
「ごめんね。今ちょっといい?」彼女に言われ、僕は校舎の影に連れて行かれた。
「私、宮脇君のことが好きです。もっと知りたいし、もっと一緒にいたい。だから、つき合ってください。」告白された。
 こないだの火曜日に一緒にご飯を食べて、とても楽しい時間を過ごせた。彼女は可愛いし、話も合うし居心地の良い女性だった。声をかけてくれて嬉しかったし、告白されたことは本当に嬉しかった。中学生の時はよく告白されたが、高校生の時は告白されず、久しぶりのトキメキだった。
 でも、今はアメフトのことで精一杯だし、時間があればもっとアメフトに染まりたい。秋までは時間がない。たぶん、彼女を優先することは出来ないし、彼女の気持ちにも応えることは出来ないだろう。ここ数日で考えていた結論だ。
「その気持ちはとても嬉しいけど、ごめんなさい。今はアメフトに集中したいから、お付き合いは出来ません。」僕は、明日の試合に集中したかった。



<登場人物>
宮脇拓哉/みやわきたくや
 …主人公(僕)。1年生。LB(守備)。
児玉悠斗/こだまはると
 …1年生。アスリートで自信家。QB(攻撃)
朝長幹男/ともながみきお
 …1年生。巨漢。AKB好き。OL(攻撃)兼DL(守備)
高橋湊斗/たかはしみなと
 …アメフト部主将兼オフェンスリーダー。4年生。RB(攻撃)。
柏木行雄/かしわぎゆきお
 …アメフト部副将兼ディフェンスリーダー。4年生。LB(守備)
前田奈津子/まえだなつこ
 …4年生。主務兼女子マネージャー。
大島陽子/おおしまようこ
 …1年生。女子マネージャー。


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2015年09月29日

もしアメフトの魅力を・・・物語を書くとしたら (第8章)

もしアメフトの魅力を知ってもらうための物語を書くとしたら

第8章 ディフェンスシステム 

<第22話>

 北都大の試合観戦後、オフェンスは「新システムの完成」、ディフェンスは「オプション対策」という2つの大きな壁を乗り越えるべく、僕達はまた練習の日々が続いた。北都大のフレックスボーンの衝撃は大きかったが、そのおかげでもう一度原点に戻って自分達を見つめ直すことが出来た。自分達はどこが勝っていて、どこが劣っているか、冷静に考えてみた。

 北都大には飛び抜けたスター選手が存在しない。その代わりに、昨年まで1部リーグで凌ぎを削った精鋭達が揃っており、技術も経験も能力も平均以上の選手ばかりだ。オプションプレーを中心に、プレーの完成度やシステムの浸透度はレベルが高い。一方、僕達のチームは、高橋・児玉の走力、児玉の投力、そして朝長のパワーは相手を上回るが、それ以外の選手は一部の者が互角で、大勢は個人の能力では劣っている状況だ。
やはり、高橋・児玉の走力を生かすゲームプランでしか活路は見出せない。それは相手も分かっている。相手は、ランを警戒する守備システムを用意するはずだ。だから相手の守備の意識をラン以外に分散させるため、フレックスボーンを見せ、パスで試合を組み立てる。パスを警戒してQB児玉にプレッシャーをかけてくれれば、スクリーンやドローなどすれ違いを狙ったRB高橋のランプレーで組み立てる。ランを警戒してくれば、プレーアクションなどのパスプレーで組み立てる。全てを警戒してバランスを重視すれば、個人能力で勝る児玉・高橋の能力で押し切る。相手ディフェンスに的を絞らせず、常に相手の裏をかくプレーを用意すれば勝てる自信がある。後はプレーの質を高めることと、試合中に冷静に適したプレーを選択出来るかどうかだけだ。

 一方、守備は根本的なところから見直さなければならなくなった。北都大の伝統のオプション攻撃を守るには、8人のフロントメン(DL+LB)が必要であり、4(DL)−4(LB)−3(DB)をベースとするシステムを予定していた。しかし、フレックスボーンでセットされるとパスターゲットが4人になるため、パスを守るDBが3人では不足する。したがって、DBを4人とする4(DL)−3(LB)−4(DB)で守らなければならず、フロントメンは7人となる。ここから、プレーが始まる直前にどちらかのサイドにジェットモーションすることで攻撃陣が1人増えるため、その一瞬の動きの中で守備もフロントメンを8人にしなければ、おそらくオプション攻撃は止められない。最初からモーション後を前提にフロント8メンで守ると、パスプレーで1人足りないため、そうも出来ない。

相手がモーションしない場合に備えて守備の選手達がフロント7メンでアサイメント(役割)を持ち、モーションした場合はフロント8メンのアサイメント(役割)に変更するという、一瞬の動きの中で判断することが可能なのかどうか、経験則の乏しい僕達のチームでは、なかなか答えが出なかった。



<第23話>

 練習後、北都大学の試合のビデオを見直すため、部室には数名の選手が残っていた。北都大は1部校を相手に互角の戦いを繰り広げた試合だ。1部校のディフェンスは、終始4−3−4体型。いわゆるフロント7メンでの守備だが、大型DLと積極的に前に上がって来るDB陣の活躍により、要所要所で北都大のオプション攻撃を止めていた。
「春の段階だからかもしれないが、守備はシステムで止めているというよりも、個人の能力で止めているという感じだな。あまり、参考にはならないな。」このビデオを既に何度も見ている主将が言う。
「このオプション攻撃とみせかけてのパスプレーは見分けがつきにくいな。パスかもしれないと頭にあると、中々思い切って前には上がれない。」ディフェンスリーダーの柏木行雄(かしわぎゆきお)がため息をつく。柏木は、副将兼ディフェンスリーダーの4年生であり、宮脇と同じLBのポジションである。
「オプションとオプションフェイクのランはどうやって見分けるんですか?」僕は柏木リーダーに聞く。
「パスの時は、攻撃のラインメンはスクリメージラインを越えて前には出られない。ラインメンで判断しろ。しかしプレーアクションパスの場合はブロックに行くふりをするから、なおさら見分けにくい。まあ、慣れと経験だな。LBであればランプレー優先で間違えても構わないから、最初は思いっきり行け。」柏木リーダーが答える。

 ひと通り試合を見たが、特段新しいアイデアは浮かばない。

「そういえば、ここ数年は甲子園ボウルを見てもショットガン体型主体のチームばかりですよね。北海道リーグでは敵なしの北海道大も昨年からショットガン体型を併用し始めていますし。」最近、疑問に思っていたので先輩達に聞いてみた。
「確か、北海道にオプション攻撃をいち早く導入したのも北海道大だったはず。なんで、オプション攻撃を止めたんだろうな。」柏木リーダーが話を膨らませる。
「オプション攻撃の守り方が存在するはずだ。だから、みんなオプションを捨ててショットガンに乗り換えている。フレックスボーンからのオプションと言えば、京都大学の通称ギャングボーン。ギャングボーンはどのように攻略されたのか、関西リーグのビデオを集めよう。」主将が大声で叫ぶ。



<第24話>

 主将の高橋が1年生の時に所属していた社会人チーム等の協力で、関東や関西リーグを中心とした試合のビデオが何本か手に入った。時間もないことから、何人かずつ手分けして、オプション攻撃が出てくるシーンのディフェンスを探し出すこととなり、僕は柏木リーダーの補佐として、リーダーの家でビデオ観戦するチームになった。柏木リーダーとは同じポジションだから、ポジション毎の個別練習でもいつも一緒に汗を流しているが、2人だけとなる機会はあまりない。

「このLBの動き、神業だな。」柏木リーダーは、自分の気に入ったディフェンスプレーがあると、いちいち止めて何度も繰り返し見るので、全然進まない。勉強にはなるけど、全部のプレーを見終わるには、日付が変わるのを覚悟しなければならなそうだ。

「攻撃は、アサイメントの遂行が命だ。全員が自分の役割を果たして、ボールキャリア―が走るコースやパススペースを作り出す。しかし、守備はアサイメントも大事だけど、それ以上にリアクションが命。相手の一瞬の動きを見て相手のプレーを判断し、相手がデザインするプレーを崩すんだ。『作り出す側』と『壊す側』、このかけひきが堪らない。」
 柏木リーダーも、それほど恵まれた体格や足の速さはないが、プレーリアクションの速さで相手に勝り、確実に相手をタックルする。僕の目指すべき選手だ。

「実は、俺も高橋も、オプションに対する守り方はだいだい決まっているんだ。ディフェンスには、全てのプレーを止められる完璧なシステムは存在しない。ただし、どんなプレーにも備えリスクを抑えたバランスの良い守り方がある。この守り方だと、どんなプレーでも大きなゲインを許さないが、小さなゲインは止められない。相手チームとの個人能力や総合力の差で、全てのプレーで許すゲインが平均3ヤード以内なら、ずっとバランス良く守るだけでいい。でも、許すゲインが平均3ヤードを超えるとズルズルと攻め込まれることとなる。この場合は、守備はリスクを取らなければならない。何もしなければただやられるだけなので、どこかの守りを捨ててでも、やられている所の守りを強くする。その繰り返しだ。だから、オプション攻撃も同じ。相手のブロックアサイメントを崩す意図として、DLやLBのポジションを動かしたり、プリッツやチャージなどでプレッシャーをかけたり、役割を交換したり。リスクを負うが、止めに行く術はある。なかったら、『優勝』なんて目標は掲げないよ。」柏木リーダーが僕に教えてくれる。

「そうなんですね。安心しました。今回のビデオを大量に見る意図はあるんですか?」

「うちのチームはな、経験不足が大きな弱さだけど、さらに2部リーグには完成度の高いオプションチームはなかったから、オプションに対する経験が圧倒的に足りない。もっとオプションを目で見てイメージしなければならないので、今回は完成度の高いプレーを探しているんだ。そして、俺もどこタイミングでどういうリスクを取ってプレー指示をしていかなければならないか、その当たりの経験も補わないとな。」

 その日は空が明るくなり始めるまで、2人はビデオを観続けていた。




<登場人物>
宮脇拓哉/みやわきたくや
 …主人公(僕)。1年生。LB(守備)。
児玉悠斗/こだまはると
 …1年生。アスリートで自信家。QB(攻撃)
朝長幹男/ともながみきお
 …1年生。巨漢。AKB好き。OL(攻撃)兼DL(守備)
高橋湊斗/たかはしみなと
 …アメフト部主将兼オフェンスリーダー。4年生。RB(攻撃)。
柏木行雄/かしわぎゆきお
 …アメフト部副将兼ディフェンスリーダー。4年生。LB(守備)
前田奈津子/まえだなつこ
 …4年生。主務兼女子マネージャー。
大島陽子/おおしまようこ
 …1年生。女子マネージャー。


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2015年09月28日

もしアメフトの魅力を・・・物語を書くとしたら (第7章)

もしアメフトの魅力を知ってもらうための物語を書くとしたら

第7章 春の北都大学

<第19話>

 6月最初の日曜日。今日は、試合のスカウティング。観戦相手は、2部リーグ優勝候補筆頭であり、秋のシーズンの初戦の相手である北都大学。北都大学(昨年1部6位、2部降格)が昨年1部リーグ4位のチームと対戦する。
「北都大学は、春のオープン戦は1部リーグとの試合しか組んでないね。目指すは1部リーグ復帰で、2部リーグなんて優勝して当然、眼中にないって感じなのかな?」僕が話しかける。
「ふん、なめやがって。シーズン初戦でいきなり俺たちにぶちのめされ、敗北を味わうのが楽しみだな。」児玉の闘争心に火がつく。
「まあ、現時点では向こうが格上だよ。とりあえず、1部常連校のお手並み拝見といこうか。」朝長が冷静に返す。

 僕はこの試合、ディフェンスのメンバーとして、北都大学のオフェンスシステム、プレー傾向、キーマンを目に焼き付けるつもりだ。実際の分析はマネージャーのビデオで何度も確認するが、生での観戦での第一印象も重要だ。
 そう言えば、朝から同期マネージャーの大島も緊張すると言っていた。試合のビデオ撮影の担当であるが、今日の試合の重要性はマネージャーも認識している。しっかりとビデオを撮らなければダメージは大きい。責任は重大だ。
通常、ビデオは3台用意する。バーチ、タイト、ワイドからの撮影。バーチは、ラインを中心にセットの位置や動きを見るため、全てのプレーを真後ろから撮影する。プレー毎に開始するボールの場所が変わるため、毎回真後ろの場所を確保しなければならない。他チームのスカウティング部隊との熾烈な場所取り合戦が繰り広げられる。タイトは、主にQBを中心とした狭い範囲を競技場のスタンドから撮影する。ワイドは、選手全員の動きがわかるように広い範囲を撮影する。2部リーグの試合は競技場ではなく大学グラウンドが多いので、スタンドはなく、小高い場所の確保等が難しく、同じく熾烈な場所取り合戦が繰り広げられる。
 児玉は北都大学のディフェンスシステムの特徴を、朝長は同じく第一線でぶつかり合う北都大学のラインメンの体格や動きについて、それぞれのメンバーが自分とマッチアップする相手の戦いぶりに注目していた。

 試合は、北都大学の攻撃で試合が開始された。ライバル校と言っても、現時点では一方的にライバルと思っているだけだが、目標達成の最大の壁となる北都大学がどのような戦い方をするのか、楽しみに思えるメンバーが多かった。しかし、北都大学の試合最初のプレーが始まる時に、主将の高橋を始め、全員が凍りついた。予想していなかった光景が目の前で起こっていた。

 北都大学も、今年から「フレックスボーン」の攻撃システムを使い始めていた。



<第20話>

「主将、あれってフレックスボーンですよね・・・。」僕は聞いた。
「ああ、そうだな。驚いた。だが、他のチームも大勢いるので、ここではそれ以上は語るな。」主将から、僕を含めた全員にフレックスボーンについて話題にしないよう指示があった。
 北都大学がフレックスボーン体型を用いるということは、その強みはもちろん弱みも認識しており、どう守れば良いかもわかっているということだ。秋のシーズン初戦で、北海道リーグではあまり普及していないため実戦で経験していないだろうフレックスボーンで意表をつき、相手ディフェンスを混乱するという意図もあった。しかし、実戦で経験していないだろうという点での効果は見込まれなくなった。おそらく、フレックスボーンは、毎日の練習で散々目にしていることだろう。

 北都大学は、昨年まで1部リーグ所属。ここ数年は1部リーグ中堅に位置していたが、部員の減少等により戦力が低下し、昨年はついに2部リーグに降格。部員が減少とは言え、各学年10名弱ずつでプレーヤーは合計35人と2部リーグでは最大数の選手層である。北海道リーグの中では、ランプレーを中心としたグラウディングアタックが特徴。ここ数年はオプション攻撃を取り入れており、体格とパワーに依存したランプレーから、理論的な組み立てによるランプレーへと進化している途中のチームだった。
 北都大学にとって格上の1部リーグ所属チームとの春の戦い。お互い手の内を見せないながらも、ハイレベルな戦いを繰り広げている。北都大学は、フレックスボーン体型からのオプション攻撃が主体。スタメン2年目の4年生QBのオプション攻撃は板についており、新しく入れ替わった今年の攻撃陣によるプレー感触を確かめるよう、1つ1つのプレーを確実に遂行している感じにも見える。最終スコアは17−17のドロー。1部相手に互角の戦い。やはり、自分達の目標を達成するために最大の壁として立ちはだかることは間違いなさそうだ。

「フレックスボーンの体型は似ているというか見た目はうちのチームと同じ感じだけど、システムのコンセプトはうちとは全然違うな。予想通り、オプション攻撃をどう守るかが鍵で、そこは変わらない。しかし、それが1番難しい・・・。」主将がささやく。

 今日の第2試合は、2部リーグ同士の戦い。昨年3位と昨年4位のチームの対戦が組まれている、どちらも秋のシーズンの対戦相手。優勝するためには負けられない相手だ。予定では2試合目も全員でスカウティングを予定していた。
「2年生以下とマネージャーにスカウティングは任せて、3年生以上は部室に戻ってミーティングだ。」
 主将の高橋がみんなに告げる。対北都大学戦のプランについて、早急に練り直さなければならない事態となった。



<※オプション攻撃とは>
・QBが相手守備の選手の動きをみて、自分でボールを持って走るかRBにボールを渡すか判断するプレー。
・プレーが始まると、まずQBはDTを見る。DTがHBにタックルする動きだったら、QBはHBにはボールを渡さず、HBはそのままDTをブロックする。もしDTが外へ動いたら、QBはHBにボールを渡す。
・HBにボールを渡さなかった場合は、QBが外側のLBに向かって走っていって、自分でキープするか、もうひとりのHBにピッチするかを選ぶプレー。
・QBが攻撃参加するため有利な人数であり、守備側にオプション専用の守備を強いることが出来るため戦力の分散化が図られ、確実に進めるプレーを選択出来る。一方、QBには高度な判断力が求める。

オプション




<第21話>

 僕達は、スカウティングのため引続き第2試合を観戦していたが、北都大学のフレックスボーン導入の衝撃が大きく、なかなか試合に集中出来なかった。試合に集中出来ていたのは、一生懸命にビデオを撮ってくれているマネージャー達だけだった。
 試合の後は解散となったが、不安な気持ちのまま帰りたくない気持ちの僕達は、とりあえず1年生全員でご飯を食べて帰ることとなった。車に乗り合い、ハンバーグレストランに向かう。
「初めてのビデオ撮影はどうだった?難しかった?」児玉が、大島に聞く。
「うん。めっちゃ緊張したよ。だって重要な試合だもんね。とりあえずは、先輩がフォローしてくれたから大丈夫だと思うけど。」大島が続ける。
「プレー毎にね、『ホワイト、自陣35ydから、2ndダウン5ヤード』とかって、ビデオ撮りながら説明するんだよ。先輩が見本見せてくれたけど、覚えることがたくさんあって、混乱するー。」マネージャーの仕事も奥が深い。
「そっか。お疲れお疲れ。頑張ったね!今日はマネージャーの分は俺達が奢るから、いっぱい食べてください。」児玉がリーダーシップを発揮する。
「本当?ありがとー。遠慮なく、パフェまでいただきまーす。」大島が笑顔を見せる。
 あれから数時間続いていた重苦しい雰囲気が、一気に揺るいでいった。やはり、同期で過ごす時間は大切だ。気分も持ち直し、ハンバーグからパフェと食後のコーヒーまで、終始和やかに時間を過ごす事が出来た。

 解散後、僕の家に寄りたいと児玉が言い出し、児玉は初めて僕の実家に来ることとなった。僕も児玉も実家から大学に通っており、大学の近くに1人暮らしをしている朝長や高橋主将の家には行くことがあるが、大学から離れている実家にはお互い足を踏み入れたことがない。僕の部屋に入り、アメフトゲーム「マッデンNFL」の対戦をしながら、今日の出来事を振り返る。
「北都大のフレックスボーンは、最初のセットは1バック(RBが1人)だけど、ジェットモーション(※モーション=プレーが始まる直前に1人だけ選手が動かせる)で結局RBが2人になるから、通常のスロットIフォーメーションと一緒だよな。展開するパスも、ランも、昨年の北都大のプロIとコンセプトは変わらない。」児玉が分析する。
「そうだけどさ。最初のセットがバランス体型(左右対称)だから、守備も左右どちらも対応出来るようにバランスで守らなければならない。でも、攻撃陣はモーションで結局片方のサイドにマンパワー(人数)が偏るから、守備もモーションに合わせて体型と人数を片方のサイドにアジャスト(調整)しなければならない。それに合わせてオプション攻撃にも対応しなければならない。守備側から見ると、昨年と同じコンセプトながら、相当に守り難い。」僕の言葉で会話は途切れ、沈黙の中で「マッデンNFL」だけが僕の部屋で音を発していた。



<登場人物>
宮脇拓哉/みやわきたくや
 …主人公(僕)。1年生。
高橋湊斗/たかはしみなと
 …アメフト部主将。4年生。
児玉悠斗/こだまはると
 …1年生。アスリートで自信家。
朝長幹男/ともながみきお
 …1年生。巨漢。AKB好き。
前田奈津子/まえだなつこ
 …4年生。主務兼女子マネージャー。
大島陽子/おおしまようこ
 …1年生。女子マネージャー。


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2015年09月25日

もしアメフトの魅力を・・・物語を書くとしたら (第6章)

もしアメフトの魅力を知ってもらうための物語を書くとしたら

第6章 新システムの導入

<第16話>


 春の初戦に勝利したことが大きな自信となり、翌週からも気合いが入ったまま、また普段の練習に取組むことが出来た。特に、初めて試合で結果を残せた2年生を中心とした若手メンバーは高い意識で練習に臨み、そんな先輩達の勇姿を間近で見て刺激を受けた僕達1年生は、さらに高い意識で練習に励むことが出来た。次の試合までは約1ヶ月。それまでの頑張りによっては、1年生も試合に出してくれる、その主将の言葉を胸に、僕も精一杯練習を頑張れた。このチームの成長と雰囲気が、ずっと長い間続いていくものだと誰もがそう信じていた。
 しかし、それは長くは続かなかった。新しく導入する攻撃体型、フレックスボーン。新システム。この新システムの導入そしてチームへの浸透は、予想よりも難しく、大きな壁として立ちはだかった。

 まずは、新たにQB(クォーターバック)に指名された1年生の児玉が、新たに覚えるパスコースやランプレーの種類に追われ、練習ではいつも手探り状態となり、持ち前の思い切りの良さは消えていた。そして、焦りや重圧から単純なミスも増え始め、負の連鎖に飲み込まれ始めていた。
 次に、新システムで新たにSB(スロットバック)のポジションが置かれることとなり、今までRB(ランニングバック)で成長していた2人(先の試合で活躍した2年生と3年生)がSBのポジションにつくこととなった。児玉と同じく、新たに覚えるパスコースやランプレーの種類に追われる状況であり、せっかく試合で得ることが出来た自分への自信が、失われ始めていた。
 ポジションが変わることがないOL(オフェンスライン)やWR(ワイドレシーバー)も、それぞれ求められる役割と技術が今までとは異なる部分が増え、彼らもまた基本からやり直す必要があった。

 春の初戦でチームとしての第一歩を踏み出し、旧システムでのプレーの完成度は高まり、昨年度からの成長を肌で感じられた2年生以上のプレーヤーには、今まで築きあげてきたものが全て音を立てて崩れ去り、また0からのスタートに戻ってしまったような喪失感が大きく感じられた。
 その思いは、人によっては焦りに、また人によってはプレッシャーに形を変え、「このままで秋のシーズンに間に合うのか」という不安や不信感として、プレーヤー達の心の中に芽生え始めてしまっていた。

 秋のシーズン開幕まで、残り3カ月。



<第17話>

 練習の後、部室でマネージャーが撮ってくれた練習ビデオを見ながら反省するのがアメフト部の毎日の日常だ。同じプレーを何度も何度も巻き戻し再生して、1人1人の動きが間違えていないか、システム的に問題ないかどうか、チェックする。一通りチェックが終わった後、過去の試合のビデオや関東関西リーグの試合のビデオなどを見る日もある。そんな時、1年生の中で最後まで先輩達と部室に残るのは、僕と児玉の2人だ。僕達は純粋にアメフトが好きだからということもあるし、少しでも詳しくなりたい思いもある。

「よし、飯食いに行こうぜ。」主将の高橋が、最後まで残っていた僕と児玉、新しくSB(スロットバック)となった2人を誘い、近所の定食屋に向かう。ご飯が大盛りでボリュームがたっぷりの店だ。トンカツ定食が有名。僕は、ビタミンよりもタンパク質で身体を大きくしたいので、チキンカツ定食を頼む。僕のこだわりだ。
「勉強熱心の宮脇、フレックスボーンについては詳しくなったか?」主将が話しかける。
「RBが1人しかいなくて、WRが2人とSBが2人なので、パスが中心となるシステムに思えます。」僕が応える。
「そう見えるよな。そう見えて欲しい。うちのチームの一番の武器は、QB児玉の走力とRB高橋(俺)の走力だ。走力では絶対に負けない。ランプレーで勝つ。」トンカツを頬張りながら、主将が続ける。
「しかし、プロI体型からのオプション攻撃やウィッシュボーン体型(RBが3人)とかランプレーに強いシステムも考えたが、それだと相手守備もランプレーに特化して守りやすくなる。分が悪い。あえてフレックスボーンでパスを意識させながら、QB児玉は肩も強く投げれるから実際にパスを織り交ぜて、守備の意識を広く分散させたうえで、俺と児玉のランプレーで切り込む。的を絞らせない攻撃だ。このシステムを上手くチームに浸透させれば、1部リーグでも戦える。」主将は自信を持って言い切る。
「SBは初めてで経験者もいませんが、何を第一に意識すればいいですか?」大きな不安を抱えるSB陣が質問する。
「お前ら2人は、昨シーズンはRBとして活躍してくれた。SBは、UBと同じくリードブロックやパスブロックを意識するとともに、TBの走力を生かしてパスコースにも出てもらう。またローテーションでRBも入るので、活躍の場は広がった。覚えることは多いが、ランにパスと縦横無尽に暴れて欲しい。」主将がまた熱く語り出す。
「児玉は、もっと自信持てよ。らしくないぞ。パスは、ショートのタイミングパスを中心に、WRとSBと息を合わせてくれ。肩の強さは申し分ないから、後はタイミングだ。繰り返し練習しろ。パスが脅威になればなるほど、俺達のランの鋭さと切れ味は増す。楽しみだろう?」主将の熱さは止まらない。
「そして俺。俺は、シチュエーションに応じて速いタイミングのランプレーも出来るようにセットを近づける。ドロー、スクリーン、フレアーパスとフィールドを駆け巡る。そして、パスも投げる。」

 全員が主将の夢に引き込まれていった。



<第18話>

 6月に入り、チームはまた1歩ずつ成長を始めていた。主将の想いを何度も繰り返し聞くうちに、「新システムが完成すれば、絶対に勝てる。」というイメージがみんなの中に生まれ始め、練習を重ねる毎にそのイメージが大きく膨らみ、自信に変わっていった。

 特に、QBの児玉はもともと身体能力と意識が高く、彼の心の中で自信が湧いてくるとともに、プレーの質も高まった。QBのモチベーションが上がり、プレーと気持ちに自信を持ってリーダーシップを発揮出来れば、チームは活性化する。パスの呼吸も少しずつ合い、それぞれのポジションが自分の役割を理解し始めてきた。
 
 オフェンスチームの活性化にとって、同じ1年生の朝長の影響も大きかった。チームで1番の体格を有するとともに、持ち前の根性と我慢強さを発揮し、ウェイトトレーニングから防具を身に付けたヒットの練習まで、熱心に取り組んだ。彼はチームのエースラインメンとして、攻撃でも守備においても秋のシーズンで活躍することを誰もが期待しており、朝長はその周囲の期待をひしひしと感じていた。朝長は、期待される喜びと、その期待の大きさとともに比例するプレーシャーを理解した上で、その全てをエネルギーに代えることが出来た。「俺がこのチームを支えられる存在になる。」という使命感が彼には心地よいものだった。

 そして、僕もウェイトトレーニングや防具を身に付けたヒットの練習が認められ、やっとスクリメージ練習(実戦形式)に参加させてもらうことが出来るようになった。とは言っても、ダミーチームが中心であるが。アメフトのスクリメージ練習では、ダミーチームが存在する。分りやすく言えば、仮想相手チームである。例えば、オフェンスの実戦練習を行う場合は、レギュラー11人が攻撃メンバーに入りフレックスボーン(新システム)を組み、残り11人がダミーチームの守備メンバーに入って、相手チームのスカウティングや分析によって想定される守備体型を組む。逆に、ディフェンスシステムの実戦練習を行う場合は、守備のレギュラー11人がシステムを組み、残り11人がダミーチームの攻撃メンバーとして想定される攻撃体型を組む。

 僕の出番は、攻撃の実戦練習の時に、ダミーチームの守備陣として念願のLB(ラインバッカー)のポジションが与えられる。もちろん、仮想相手チームのLBに成り切らなければならないので、想定される動き(ランを重視する等)をすることとなるが、それでも楽しいし、勉強になる。LBとして成功するには様々なプレーを経験することが大切なので貴重な経験だ。頭では理解していても、実戦で見てみなければわからないこともたくさんある。そしてもう1つ。主将の熱い想いが詰まったフレックスボーンを一番間近で体験できることが大きな幸せだ。これが進化していく過程を見られるのは楽しみだ。僕は、僕のダミー守備陣の立場から、フレックスボーンの欠点やさらに発展の可能性を見つけ出すことが大きな使命となることを感じていた。

 「何かを感じ、何かを見つけ出したい」


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2015年09月23日

もしアメフトの魅力を・・・物語を書くとしたら (第5章)

もしアメフトの魅力を知ってもらうための物語を書くとしたら

第5章 春の初戦

<第14話>


 5月3週目の日曜日。春の暖かさを感じる晴天の空に、人差し指を掲げて集まる男達。
「俺達の伝説はここからスタートだ。去年の悔しさを忘れるな。あれから俺達は成長した。絶対に勝てる。去年の借りを返してやろうぜ!」主将の高橋の声に続き、全員が同調し、気合を叫ぶ。
 僕も、ユニフォームを着てヘルメットをかぶり、男達の輪に参加する。そして大声で叫ぶ。僕にとっても初めて経験する試合だ。先輩達も普段とは全然違っていて、興奮し、闘争心がみなぎっている。僕も興奮している。わくわくする。
 しかし、今日の試合には僕は出場しない。能力的な問題もあるが、試合のコンセプトとして、1年生は試合に出ない。まだ入部間もなく身体が出来上がっていないから、無理をさせないため。もう1つは、去年の屈辱は去年のメンバーで晴らしたいという先輩達の思いがあるためであり、その思いはひしひしと伝わってくる。試合には出られないものの、先輩達の試合を応援するのも初めてであり、僕はただ単純に興奮し、わくわくしていた。
 
 今日の試合は、春のオープン戦の初戦であり、対戦相手は昨年2部リーグ5位のチーム。今日の試合は、去年と同じシステムで戦い、個人の能力とチームの総合力で相手を上回ることを目標に掲げている。去年はリーグ最終戦で対戦し28-35と惜敗したが、うちのチームは3年生以下で構成されていたため、卒業による戦力ダウンはなく、今年も学年が繰り上がり、全員がチームに残っているからである。一方、相手チームは昨年の主力の4年生が数名抜けており、他のチームも同様だが、春は世代交代によるチーム再建の時期である。力の差は歴然としているはずだ。
 その理由により、今年のシステムとして準備を始めている「フレックスボーン(ダブルスロットシングルバック)」はこの試合では使わない。アメフトは頭脳戦であり、試合前の相手チームの分析による準備が必要だ。だから、新システムを導入していることは、出来る限り他チームには知られたくない。温存したい。そういう意図があって、この試合では、新システムではなく、昨年用いた旧システム(バランス良くオーソドックスなプロI体系)で戦うこととしている。そもそも、新システムは導入したばかりで、まだまだ試合で使える水準には至っていないから、温存でも何でもないのだが・・・。

 試合は、相手チームのキックオフで始まった。攻撃の司令塔であるQBは主将の高橋。UB(2年)の速いタイミングのランプレー、TB(3年)の遅いタイミングのランプレー、WR(2年、3年、4年)へのパスプレーとバランス良くプレーを展開し、相手陣地に攻め込む。
 高橋は、昨年と同じメンバー、昨年と同じプレーで勝つという他に、もう1つ自らに課していた。それは、「自分で走るプレーをやらない」というものだった。



<プロI体系>
040209_01-1[1]


<フレックスボーン>
040212_01[1]




<第15話>

 昨年も同じようにバランス良くプレーを展開したが、当時1年、2年の若手メンバーには相手守備陣の壁をスピード又はパワーで切り開くには荷が重く、特に怪我人等の交代要員にはさらにその壁は高く、選手層が薄くチームの歴史や経験の浅いこのチームにとって、最後の拠り所は主将高橋の個人能力だった。
 特に第3Q以降は、QB高橋が自らボールを持つランプレーを中心にゲームを組み立て、高橋の走力で相手守備陣を切り開き、得点を重ねた。当然のことながらQBへのマークは厳しさを増し、QBにマークが集中したところで裏プレーやフェイク(囮)プレーで応戦するも、最後は封じられてしまった。
 あの時、壁を切り開くことが出来なかった若いメンバーが伸び伸びと実力を発揮し、自信を持てるような試合にして欲しい。その願いを込めて、高橋はこの試合で自分がボールを持つランプレーは出来るだけやらないことを決めていた。

 試合は終始優勢だった。1つのプレーが決まるたびに、僕はベンチから大声で叫び、チームを盛り上げていた。こんなに興奮して、こんなに大声で叫んだのは、人生で初めてだった。隣を見ると、同期の児玉も朝長も、とても興奮し大声で叫んでいた。同じ興奮と同じ喜びを共有していた。そして、自分も早く試合で活躍したいと強く思った。ベンチの横では、マネージャー同期の大島が試合を観ずに、自分の与えられた仕事を一生懸命やっていた。そのプロ意識にも、心が響いた。

 相手チームも卒業生が抜けた穴を埋めるべく、2年や3年の若手メンバーが必死に立ち向かっていた。しかし、同じ2年や3年では、昨年の実戦と悔し涙を経験したうちのチームの選手が、堂々とプレーしており力も技術も大きく上回っていた。高橋はバランス良くプレーを選択し、多くの選手に機会を与えながら、自分のランプレーを温存した上で、24-7で勝利した。スコア以上にチーム力の差を感じ、何より多くの若い選手の自信につながったことが大きな収穫だった。試合後の整列では、チーム全員が笑顔を見せていた。
「さて、3位争いくらいに見えてくれていれば良いが」主将の高橋は、心の中でつぶやいた。アメフトはスカウティングによる分析が重要なスポーツ。春のオープン戦とは言え、2部リーグ所属の他チームはビデオ数台を持ってこの試合を録画している。そして、徹底的に分析される。相手チームに今の試合がどう映ったか?「優勝争いに加わる」評価だとマークが厳しくなるので、「3位争い」くらいのチーム評価に留まっていて欲しいのが本音だ。

「伝説のスタートね。」マネージャーの前田が手を差し出し、高橋が強く握る。
「第一歩としてはまあまあかな。」

 未来を見据えた2人が熱く握手し、誓い合った。


<登場人物>
宮脇拓哉/みやわきたくや
 …主人公(僕)。1年生。
高橋湊斗/たかはしみなと
 …アメフト部主将。4年生。
児玉悠斗/こだまはると
 …1年生。アスリートで自信家。
朝長幹男/ともながみきお
 …1年生。巨漢。AKB好き。
前田奈津子/まえだなつこ
 …4年生。主務兼女子マネージャー。
大島陽子/おおしまようこ
 …1年生。女子マネージャー。


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2015年09月18日

もしアメフトの魅力を・・・物語を書くとしたら (第4章)

もしアメフトの魅力を知ってもらうための物語を書くとしたら

第4章 春の合宿終了

<第9話>

 合宿中、1年生だけを集めたアメフトの理解度テストが行われる。部員も、マネージャーも参加しなければならない。テストは、主将の指示のもと、マネージャーの前田奈津子が作成した。
「はい、それではアメフト理解度テストを行います。赤点取ったら、補修だけではなく、ペナルティが待っているから、諦めないで頑張ってね!」明るい声で話す前田の目は、全然笑っていない。
「えっ、ペナルティって何!聞いてないけど。」ざわつく1年生14人。僕は、アメフト自体にも興味を持ち始め、自分でもアメフトの本を買って勉強した。体力で劣る分、知識でカバーしなければならないと思っていた。だから、ちょっと自信はある。

第1問
「アメフトの三大精神を答えなさい」
 これは簡単だ。入部して一番最初に教えてもらったやつだ。「闘争、協調、犠牲」。楽勝、楽勝。

第2問
「アメフトで得点が入るパターンと点数を書きなさい」
 。圍帖淵織奪船瀬Ε鵝泡6点。
 ■藤如淵侫ールドゴール)→3点、
 PAT(ポイントアフタータッチダウン)→プレー2点、キック1点。
あれ、これだけだったかちょっと自信ない。

第3問
「攻撃権の獲得と攻撃権の放棄について説明しなさい」
 だんだん難しくなってきた・・・。
「攻撃チームは、4回の攻撃権が与えられる。4回の攻撃で10ヤード進むことが出来れば、新たに4回の攻撃権が与えられる(これを1stダウン獲得と呼ぶ)。4回の攻撃権で10ヤード進むことが出来なければ、攻守交代となり、相手チームに攻撃権が移る。3回の攻撃で10ヤード進めそうにない場合は、攻撃権を放棄して陣地を獲得するためにボールをキックすることが出来(パントと呼ぶ)、点数を獲得するためにボールをキックすることも出来る(フィールドゴールと呼ぶ)。」

そして、第9問目までを回答。なんとか及第点が取れそうだ。

第10問
「あなたは、どのポジションをやりたいですか。理由も含めて書きなさい。」
 これは、僕たちのポジションの希望。そういえば、春合宿が終わったらそれぞれの個性や特性を見極めて、ポジションを決めるって主将が言っていた。これはアピールチャンスだ。
 「自分は、身体は特別大きくないけど、ボールキャリアに対して勇気を持ってタックルし、フィールドの中央からランプレーでもパスプレーでも粘り強くタックルに向かう、LB(ラインバッカー)がやりたいです。」



<第10話> 

 1年生達がテストと格闘している頃、4年生は今期の戦術面について議論を交わしていた。本来であれば、昨シーズンが終わった段階で明確なビジョンを掲げるべきだが、少人数のチームであるため、新入生の入部状況によって導入するシステムの選択肢が変わることから、新入生が入部し、春の合宿でそれぞれの個性や特性を見たうえで、システム決定することとしていた。
 昨年の攻撃システム「プロI」では勝てない。それは誰もがわかっている。プロI体型はどんなプレーも展開出来るバランスの良い体型だが、バランスが良いからこそ、各個の集結である総合力の差がそのまま出てしまう。全てのポジションにバランスよく戦力を分散させ、総合力で相手に勝るほど、知識もパワーも経験も技術も持ち合わせていない。特に最大の壁である北都大学は、昨年まで1部常連校であり、昨年は僅差で2部落ちしたものの部員数、経験、スピードとパワーいずれも2部リーグでは飛び抜けた総合力を誇る。バランス良く、オーソドックスに戦っても勝てる相手ではない。それは、昨シーズン痛いくらい身に染みている。
 具体的にどう戦えば良いのかイメージはまだ固まっていないが、まず何をしなければいけないのかは、4年生全員が理解していた。それは、「期待の新人2人を秋のシーズンまでに戦力として育てなければならない」ということ。そして、それが出来なければ、優勝など絶対に手が届かないということを。

 朝長は、その体格とパワーを生かし、OL(オフェンスライン)のエースとして、ランプレーで相手守備陣を打ち負かし、パスプレーではQB(クォーターバック)を守り抜き、またDL(ディフェンスライン)のエースとして、相手の攻撃を食い止める存在となることが求められている。彼が、スクリメージ(フィールド)を支配し、試合をコントロールしている姿を想像するのは難しくない。

 さらに児玉は、その高い身体能力を生かし、チームNo.1の得点力を発揮することが求められている。彼がボールをエンドゾーン(相手ゴール)に運び、チームを勝利に導く姿を想像するのは難しくない。
 しかし、児玉の高い身体能力を最大限生かせるポジションは、どこなのか。システムはどれなのか。早い段階で決定しなければ、秋のシーズンには間に合わない。スピードを兼ね備えた力強い走力に加えて、野球で鍛えた投力を生かすには、QB(クォーターバック)として育てるべきか。または、ボールを持つ回数が最も多く、エースランナーとして常に前に向かって道を切り開く、RB(ランニングバック)として育てるべきか。さらには、パスに特化したチーム作りをするのであれば、スピードと球際の強さを生かせるWR(ワイドレシーバー)として育てるべきか。
 
 そしてもう1つの問題がある。現エースQBの主将高橋が、QBであり続けるべきかどうか。たしかに、チームで誰にも負けない知識と情熱と経験とリーダーシップを兼ね備えた高橋をQBにこそ相応しい。しかし、さらに高い壁を越えていくために、児玉をQBに抜擢した方が、チームが成長し可能性が広がるのかどうか。その選択が未来を変える。



<第11話> 

 春合宿の後半日程が始まった。練習後、僕と児玉が2人グラウンドに残って、先輩達が練習していたプレーの内容について確認していた。

「勉強熱心だな。」振り向くと、主将の高橋が近づいてきた。
「お疲れ様です。主将。」僕と児玉が揃って声をかける。
「宮脇は、LB(ラインバッカー)志望だったな。LBは守備の要だから、戦術とプレーに対する知識が必要だ。そして全てのプレーに向かっていく熱い気持ち。宮脇は、勉強熱心だし、熱いハートを持っているから、LBに向いているかもな。しっかりと身体を作れば、良いLBになれるぞ。頑張れよ!」
「はい。ありがとうございます。」主将がしっかりと僕の希望を理解してくれていて、僕のことを見てくれていることが、僕はとても嬉しかった。
「児玉、お前はQB(クォーターバック)で気持ちは揺るがないか?」高橋は次に児玉に話しかける。
「もちろんです。俺はQBがやりたいです。」児玉が即答する。
「QBとして、チームの全責任を負えるか?その覚悟は出来ているか?」高橋は、鋭い眼差しでさらに児玉に詰め寄る。
「アメフトの知識と経験はこれからですが、俺の心と身体と大学生活は、全てアメフトに捧げる覚悟は出来ています!」児玉も鋭い眼差しで応える。
「2人とも、1年生とは思えない熱さだな。チームとしては嬉しいけど、先は長いから気負い過ぎず、無理し過ぎるなよ。」高橋は、一瞬笑顔を見せるも、また一段と厳しい顔つきでさらに2人に語りかける。
「でも、アメフトはチームスポーツだ。闘争心だけではなく、協調しなければならない時も、犠牲にならなければならない時もある。もし、希望のポジションが与えられなかった時はどうだ?頑張れるか?」
「もちろん、どんなポジションも大切だし、そんなポジションもやりがいがあるはずなので、僕は頑張れます。やります!」僕は正直な気持ちを伝えた。
 児玉は、少し沈黙が続いた後で、口を開いた。
「俺は、QBがやりたいです。もし今年QBが出来ないなら、それは自分の実力不足だから、与えられたポジションで精一杯頑張ります。でも、来年はQBやります。QBに相応しい実力を身につけます。絶対に。」

 今年、どう戦うべきか、高橋は答えを見つけ始めていた。



<第12話>

 そして合宿も最後日を迎えた。合宿最後の練習。練習場の隣にある小高い山を走るメニューだ。アメフトには、持久力よりも、瞬発力と回復力が必要だ。だから、山の上まで長距離を走る練習はない。簡単だ。笛が鳴ったら全力で走り、笛が鳴ったら走るのを止める。その繰り返し。上り坂を、5秒全力でダッシュして、10秒休んで、5秒ダッシュしてのインターバル。この厳しさは、合宿最後の練習メニューに相応しい。
 最初の数本こそダッシュに勢いがあったが、すぐにスピードは落ちていく。体力の限界だ。先輩達にドンドン離されていく。遅れながら、何とかゴール地点まで走り抜いた。
 感じたのは、最後まで走りきった達成感と、先輩達との大きな距離間。足りないのは、体力だけではなく、きっと精神力や根性も全然足りていないのだろう。大きな力不足を感じながら、練習が終わった。

 練習場から戻る途中、1年生マネージャーの大島陽子(おおしまようこ)が練習用の道具を持って歩いていた。
「いよいよ合宿も終わりだね。どうだった?身体は大丈夫?」大島が心配して僕に話しかける。
「身体はもう限界だけど、それよりも自分の弱さと未熟さを身に染みて感じているよ。」僕が応じる。
「なんかさ、私もだけどさ、軽い気持ちというかアメフトは良く分からないけど、勢いだけでアメフト部に入ったじゃない。たぶん、1年生はみんなそうだよね。児玉君以外は。」
「たしかに、児玉以外はアメフトなんて知らないけど、主将の熱さとか部の雰囲気とかに魅せられて、勢いで入部したよね。」僕もそう思う。
「もう辞めちゃった人もいるけど、残っている1年生は、みんなこの合宿ですごく頑張っているよね。見ていて強く感じる。勢いだけで入部しただけなのにさ。みんな、こんなにアメフトに熱くなれるなんて驚き。その中でも、特に宮脇君と朝長君の2人は本当に一生懸命で、一番頑張りが伝わってくる。成長しているなって素人でもわかる。」
「本当?嬉しい。でも、ついていくのに、いっぱいいっぱいなだけだし、全然ついてもいけてないんだけどね。」と言い、僕は深くため息をついた。 
「それでもこんなに熱くなれて、こんなに頑張れて。かっこいいよ。私も、こんなにみんなが一生懸命な部活に入れて、凄く嬉しい。私も、チームのために頑張ろうって思う。ここで、私も成長したいって前向きに思える。」大島の本音を聞くのは初めてだ。
「そう思ってもらえて嬉しいよ。俺ももっと頑張らないとな。一緒に努力して、チームのために頑張って、お互い大きく成長しようぜ!」僕のモチベーションは少し高まり、一歩一歩頑張り続けるしかないという事実を再認識した。



<第13話>

アメフトの世界では、秋のリーグ戦が最大の決戦の場。大学日本一を決める12月の甲子園ボウルに向け、1年間かけてチームを作り上げる。そして北海道リーグは、9月頭の開幕から10月末までの開催。各チームは、5月の連休の春合宿でチームを鍛え、5月中旬から7月中旬までの春のオープン戦でチームを強化し、8月の夏の合宿でチームを仕上げ、9月の秋シーズンを迎える。通常は、3月までにはチームの方向性、4月の時点では具体的な戦術やシステムが固まっており、春の合宿は、短期間で集中して戦術やシステムを理解し、その質を高め始めていく位置づけだ。そして5月中旬からのオープン戦でそのシステムを試すことにより、課題や反省点、改善策などの検討を重ね、システムを発展させていく。この流れが一般である。
 春合宿も最終日の練習が終わり、最後のミーティングを迎えた。2週間後には、春のオープン戦が始まるが、まだこのチームは具体的な戦術やシステムは決まっていない。そんな状況で、合宿最後のミーティングが行われた。
「合宿、お疲れ様。この合宿で得たものは大きく、チームとしての可能性は高まった。まだ具体的な戦術は示していないが、何も心配しなくて良い。みんなも感じていると思うが、2年生以上の成長ぶりは大きく、1年生のポテンシャルは高く、秋までには強いチームが出来上がる。明日から2日間のオフの間に、幹部(4年生が主体)で話し合い、この合宿の内容を踏まえた最終的な戦術とシステムを作り上げ、3日後のミーティングで説明する。それまでゆっくり身体と頭を休めて欲しい。」主将の高橋が、さらに続ける。
「今後の方針だが、春のオープン戦は、2試合を予定している。初戦は5月3週に、昨年5位のチームと対戦する。昨シーズンの最終戦を戦った相手だ。この試合は、昨年のリベンジだから、昨年と同じメンバー、昨年と同じシステムだけで戦う。新しい事は何もしない。ただ、個人が経験を重ね成長した分だけ相手を上回り、そして勝つ。それで勝てなければ、優勝など不可能だ。そして、2戦目は6月最終週に、昨年2位のチームと対戦する。昨年は35−0で負けた相手だ。この試合でも、昨年と同じシステムだけで戦う。この試合は、勝ち負けは問わない。その時点での戦力の差を確認する。昨年2位のチームとの差はまだあるのかを確かめる。そして、最後の実戦になるので、スタメンがケガをした場合を想定し、いくつかのポジションで試合に出てもらう。さらに1年生も身体が出来た者は試合を経験させる。楽しみにして欲しい。新システムは、9月頭のリーグ初戦まで温存する。初戦の相手は、昨年の順列的に昨年1部から降格してきた北都大学。新システムのお披露目相手に不足はない。ここで必ず勝利し、優勝を成し遂げる。しかし・・・」
「優勝は絶対に成し遂げる。しかし、現時点ではシステムの完成度及び浸透度については、うちが1番遅れており、秋のシーズンまでに間に合うかどうかは、みんな一人一人の意識の持ち方にかかっているので、それだけは忘れないでほしい。」

 この言葉で、春の合宿は幕を閉じた。    


<登場人物>
宮脇拓哉/みやわきたくや
 …主人公(僕)。1年生。
高橋湊斗/たかはしみなと
 …アメフト部主将。4年生。
児玉悠斗/こだまはると
 …1年生。アスリートで自信家。
朝長幹男/ともながみきお
 …1年生。巨漢。AKB好き。
前田奈津子/まえだなつこ
 …4年生。主務兼女子マネージャー。
大島陽子/おおしまようこ
 …1年生。女子マネージャー。






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2015年09月16日

もしアメフトの魅力を・・・物語を書くとしたら (第3章)

もしアメフトの魅力を知ってもらうための物語を書くとしたら

第3章 チーム目標

<第7話>

 春の合宿も、折り返し地点である中日(なかび)を迎えた。普段は午前と午後の二部練習だが、この日は午前のみの練習となっており、ハードワークで疲労した身体を少し休めるために昼食後は昼寝をし、15時から時間をかけたミーティングが行われる。

 1年生は基礎中心の別メニューとは言え、肉体的な疲労は相当蓄積されている。いくらアメフトが「大学から始めるみんなが同じスタート」のスポーツだとしても、高校時代に体育会系の部活で鍛えた者と、僕のように高校時代に帰宅部だった者の差は大きい。勧誘されて今年入部した部員15人のうち、高校での部活経験者は10人で、帰宅部は5人。やはり高校での部活経験者は体力的には強く、時にラグビー部、サッカー部、野球部などの出身者は、即戦力と期待されていた。一方、帰宅部出身者は体力的に練習についていくのがやっとだったが、中学時代までは何らかのスポーツを経験した者ばかりであり、高校時代に部活をやっていなかった先輩達がグラウンドで激しくプレーをしているのを見ると、体力さえ戻れば俺も活躍出来るはずだと勇気付けられた。しかしながら、帰宅部出身の5人のうち、入部1ヶ月で3人が辞めた。やはり、体力的についていけないのが理由だった。帰宅部出身で残っているのは、僕(宮脇)と朝長の2人のみとなった。

 僕は、「とりあえずやると決めたからには1年間は絶対に続ける。もし体力的に、または能力的にどうしてもついていけない場合は、1年経った段階で考える。でも、最低1年間は根性見せてやる。」そう決めていた。アメフトの楽しさとか魅力とかは、たぶんそれなりに苦しい思いを乗り越えないと味わえないだろうということは、容易に想像できた。少しでもアメフトの魅力を味わえないまま、負け犬のように去ることだけはしたくなかった。しかし、合宿もまだ半分終わっただけの段階で、全身の筋肉痛は普段想像していた限界値を超えており、正直「1年も持つだろうか」と不安が芽生え始めていた。

 朝長は、中学時代の柔道部での経験では、主に顧問の先生からのみ期待され、ただ逆らえずに厳しい練習に耐えるものだった。先生は恐ろしく、自分から辞めるなんて言い出せるわけなどなく、卒業までその苦痛は続くこととなった。肉体的な成長以上に、根性を初めとする精神的な成長を得られることが出来たが、「もう二度と柔道なんか、スポーツなんかやるものか」と、中学卒業の時に堅く心に決めた。しかし、今や先輩を含めてもアメフト部内No.1の体格を有していることからも、非常に厳しい練習に耐えなければならないのは昔と同じであったが、高橋主将を初めとする先輩部員達からも、そして前田奈津子先輩を初めとする先輩マネからも、真に必要とされ、真に期待されることで、味わったことのない高いモチベーションを得られる日々だった。高校時代は、部屋で一人AKBを観るのが自分の唯一の居場所かと内に籠ってしまう時間もあった。

しかし、彼は今、本当の自分の居場所を見つけることが出来たのだった。



<第8話>

 春合宿中日、午後の全体ミーティング。部員30人(4年生5人、3年生5人、2年生8人、1年生12人)とマネージャー5人(4年生1人、2年生2人、1年生2人)が揃う中で、主将の高橋が全員の前で伝える。

「1年も含めて全員揃ったので、改めてこの機会に再認識して欲しい。昨シーズンは、『初勝利』という目標を掲げたが、目標は達成出来なかった。2年生以上は、その悔しさを痛いぐらい感じたはずだ。それを踏まえて、今年の目標は『2部優勝』。さらに高い目標を掲げた。客観的に見て、今のチームの戦力はおそらく2部リーグ6チームのうち最下位を争うところに位置している。しかし、どこのチームにも負けていない強みが2つある。1つは、卒業生がいないので、昨年からの戦力ダウンがなく、あの悔しさを味わった2年生以上の者全員に雪辱を果たすチャンスが与えられてること。もう1つは、新たに12人の新戦力が加入し、選手層が厚くなったことだ。2年生以上は、昨年の借りを返すために昨年以上の努力をしなければならないし、1年生は秋のシーズンには戦力となるよう努力をしなければならない。マネージャーには部の運営や練習のサポートだけではなく、戦術面での協力もしてもらうこととなる。まさしく、ここにいる全員の力が必要だ。」

 この場にいる全員が、主将の言葉を噛みしめる。

「そして、今年のスローガンは『トータルフットボール』だ。文字通り、全員で攻撃し、全員で守備を行うだけではなく、全員がどのポジションでも機能するチームを目指す。アメフトは、それぞれの特徴を生かしたポジションでの専門性を発揮するスポーツであり、1人が複数のポジションを出来るようにするには練習量や練習時間が必要であり、非効率でもある。しかし、アメフトはハードでありシーズンを乗り切るにはまさしく総力戦となる。スタメン全員が全てのプレーに参加出来ることは想定し難い。誰かがけがをしても、誰かがいなくても、システムとして機能し力を発揮し続けることが重要だ。そのためには、体力が必要であり、システムへの理解力とアメフトへの知識力が必要であり、何より高い意識が持たなければならない。今シーズン、最後のプレーが終わり、レフリーの最後の笛が鳴り止んだ時、笑って終われるシーズンにしよう!」全員の、大きな拍手が鳴り響いた。

「いや、笑って終われるシーズンなんかじゃなくて、4年生達を歓喜の涙で男泣きさせるシーズンにしようぜ!」というのが、僕達1年生の間では影のスローガンとなった。

 主将の頭の中では、「2部優勝」という目標に対し、目標設定に必要な3要素のうち、最初から充分に要件を満たしていた「具体的であること」及び「魅力的であること」に加え、一番の難関である「達成可能であること」についても、新入生の入部により充分に要件を満たすことになったものと確信していた。もちろん、この高い目標については、主務である前田とも事前に相談し、彼女の意向も充分に踏まえたものであった。



<登場人物>
宮脇拓哉/みやわきたくや
 …主人公(僕)。1年生。
高橋湊斗/たかはしみなと
 …アメフト部主将。4年生。
児玉悠斗/こだまはると
 …1年生。アスリートで自信家。
朝長幹男/ともながみきお
 …1年生。巨漢。AKB好き。
前田奈津子/まえだなつこ
 …4年生。主務兼女子マネージャー。


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2015年09月13日

もしアメフトの魅力を・・・物語を書くとしたら (第2章)

もしアメフトの魅力を知ってもらうための物語を書くとしたら

第2章 チームの歴史

<第4話>

 合宿2日目の朝。主将の高橋は朝5時半に目を覚ました。起きる時間にはまだ早いが、空模様を確認するために玄関に向かった。途中、食堂では既に女子マネのリーダーであり部の主務である前田奈津子(まえだなつこ)が、他のマネが集まる前に、一人朝御飯の準備を始めていた。
「なっちゃんおはよう。」主将が声をかける。
「おはよう。早いね。疲れてるんだから、ギリギリまで寝ていれば良いのに。」
「なっちゃんこそ、まだ早いんじゃない?ありがたいけど、無理しないでね。」
「だって、部員もこの春で一気に30人、マネも入れたら35人の大所帯になったんだよ。もう、朝からご飯、何合炊かなきゃならないと思ってるの?」
 前田は少し口を尖らせて主将に詰め寄る。前田は、少し不満げな素振りを見せているが、部員が増えたことで本心は喜んでいる。それを主将もわかっている。

 このアメフト部は、創部3年目と歴史は浅い。2年前に、現主将の高橋の手で部が立ちあげられたばかりであり、北海道リーグに加盟したのは昨年。対外試合も当然ながら昨年が初めて。結果は、2部リーグ全敗で最下位に終わった。部員達は試合を出来た喜びとこのスポーツの魅力を感じるとともに、勝てない悔しさに打ちのめされる、最高に充実したシーズンとなった。

 高橋は、神奈川県出身。中学高校と陸上部に所属し、短距離走でそれなりの成績を残してきた。彼が毎日トラックで汗を流している頃、隣のグラウンドではアメフト部の同級生が汗を流していた。部室も、アメフト部が隣だった。そんな縁もあり、アメフト部の試合もたまに観に行った。試合に勝ちチームメイトと喜ぶ姿や試合に負けて泣きながら抱き合う姿を見て、チームスポーツへの憧れを覚えた。そして、アメフトへの興味も高まっていった。
 志望する学部と自分の偏差値、そして北海道での一人暮らしをしたいという思いから、高橋はこの大学へ進学した。個人競技である陸上を続けるつもりはなかった。しかし、この大学には興味を示し、本気で取り組みたいと思える部もサークルも、スポーツもなかった。そんな中、週末に河川敷でアメフトをやっているチームに気が付いた。地元の社会人チームだった。すぐにチーム所属し、アメフトを始めることを決意した。社会人チームはサラリーマン主体のため練習は週末のみだが、平日は走り、身体を鍛え、アメフトを勉強した。そして大学1年生の秋、社会人チームの交代要員としてユニフォームをまとい、試合に出場した。
陸上で鍛えた脚力には自信があったが、彼はアメフトを知らな過ぎた。ボールを持って、「さあ行くぞ」とギアを加速する前に、相手選手にタックルされて、地面に仰向けに倒れこんだ。太陽が眩しく、身体は痛かった。それよりも、味わったことのない屈辱を感じた。

「アメフトだ。大学で、アメフト部を立ち上げよう!」そう決意した瞬間だった。



<第5話>

 北海道では11月下旬には雪が降っており、野球やサッカーを初めとする外のスポーツが出来ないオフシーズンを迎える。アメリカンフットボールも同様だ。社会人チームの活動が11月で終わると、高橋は来年の春には新しいアメフト部が誕生すると信じて、文字通り草の根の活動から動き始めた。
 高橋と同じ1年生の中には、高校時代に運動部を経験し、大学でも何か運動を続けたかったものの、その何かを見つけられず、何か物足りない毎日を過ごしている者もいた。あるいは、サークルに参加したものの、その活動内容では刺激が足りず飢えている者もいた。しかし、大学2年生以上の者は、日々に物足りなさを感じている者は存在したものの、何か新しいことに挑戦しようという意欲がアメフトに向かう者には出会えなかった。
結局、高橋は1年生の中からアメフト部立ち上げに賛同する男4人に加え、誰よりも高橋の情熱と熱意に感銘を受けそして誰よりも熱いハートを持った女1人(前田奈津子)の計6人により、アメフト同好会が立ちあがった。

 2月には期末テストも無事終わり、大学生は長い春休みを迎える。そして、1年で最も大切な時期とも言える「新入生の勧誘」の季節である。高橋とその仲間達には乗り越えなければならない壁が2つあり、1つは「同好会から部として正式に認められること」、そしてもう1つは「試合が出来る11名のプレーヤーを確保すること」である。
 同好会は立ちあがったものの、雪深くグラウンドは使えないので、体育館での体力づくりと身体づくりが中心の彼らには、まだユニフォームがなければ防具もない。そんな状況での新入生の勧誘は、当然ながら難航する。それでも、彼らは熱心に話しかけ、語りかけた。最初からアメフトをやりたいと思う人などいない。アメフトに興味を持っている人などいるはずがない。でも、自分たちのように、いつかアメフトに興味を持ってくれるかもしれない。そう信じて、アメフト部の売り込みだけではなく、大学の先輩として、どんな学生生活を送るべきか、本音で真摯にアドバイスを送った。高橋も、仲間達も、そして前田も。

 高橋には予想外の出来事が2つあった。1つは、新入生の勧誘が想像以上に難しかったことだ。アメフト部を立ち上げようと思いつき、約2カ月で同好会メンバー5人を口説き落とした実績から、新入生の勧誘もそれなりに上手くいくと思っていた。しかし、同好会メンバーは同級生として友達感覚で口説くことが出来たし、何より運動部経験者や今の学生生活の状況というフィルタにかけられたターゲットを絞り込んでいた。だから、それなりの効果が見出せた。しかし新入生の勧誘はフィルタにかける余裕もないなかで、口説かなければならず、想像以上の困難さであった。もう1つの予想外の出来事は、自分の勧誘以上に、主務の前田の勧誘の効果が大きいことだった。

 努力の結果、新入生は5人入り、計11人にて正式にアメフト部として認められることとなった。しかし、マネージャーを除くとプレーヤーは10人だった。



<第6話>

 主将の高橋の2年生のシーズンは、アメフト部が成立し、北海道リーグに正式に加入したものの、プレーヤーは10人であり、公式な対外試合を行うことはなかった。平日の練習の他、週末は社会人チームの練習に全員で参加させてもらい、経験豊富なオジさん達から技術や知識を学んだ。試合形式での練習はもちろん、社会人チームの人数不足の際には助っ人で試合にも出させてもらった。ここでも主務の前田の存在は大きく、社会人チームには大きな便宜を図ってもらえた。

 そして高橋が3年生となる頃には、新入部員が10人、新入マネージャーが5人入部した。部の雰囲気は大きく変わった。春及び夏の合宿を終える頃には、新入部員は8人、新入マネージャーは2人に減っていたが、熱いハートを持つ者たちが全員生き残った。

 アメフト部として初めて挑む秋のシーズンが始まった。北海道リーグには12の大学が存在し、1部6チーム、2部6チームで構成される。新加入のチームは、当然ながら2部リーグの最下位の位置からのスタートとなる。「公式戦、初勝利」を掲げて戦ったものの、5戦5敗の最下位に終わった。
 全敗対決の最終戦。主将高橋の個人能力により点の取り合いとなったシーソーゲームも、シーズン終盤の総力戦の中では、層の薄さが致命的となり、28−35で惜しくも敗れた。足が速い高橋がリーダーシップを発揮し、攻撃ではQB(クォーターバック)、守備ではFS(フリーセーフティ)と文字通り縦横無尽にフィールドを駆け回ったが、チームとしての武器は足の速さだけだった。社会人チームが採用しているオフェンス(プロI体型)をそのまま用いて、バランス良くオーソドックスに戦った。セオリー通りに攻撃し、セオリー通りに相手に防がれた。それを打ち砕くだけの戦術もシステムも持ち合わせていなかった。

 それまでの試合でも敗戦の悔しさは身にしみていたが、最終戦だけは主審の笛が鳴り敗戦が決まると、全員がフィールドの上で悔し涙を流した。
 アメフト部を立ち上げようと決意してから2年、高橋は部を立ち上げ、仲間も増やし、試合を行うことを実現した。大きな喜びと達成感を味わうことが出来たが、その喜びと達成感を超える悔しさと不甲斐なさを痛感した。
「俺は、こんな想いを味わうためにアメフトを始めたわけじゃない。まだ甘えがあった。勝つために、俺はまだやらなければならないことがある。」主将の高橋は強く誓った。
 フィールドの横でも、控えの1年生達とマネージャーも悔し涙を流していた。
「勝つために、まだやれなければならないことがある。」前田も同じく、強く心に誓っていた。



<登場人物>
宮脇拓哉/みやわきたくや
 …主人公(僕)。1年生。
高橋湊斗/たかはしみなと
 …アメフト部主将。4年生。
児玉悠斗/こだまはると
 …1年生。アスリートで自信家。
朝長幹男/ともながみきお
 …1年生。巨漢。AKB好き。
前田奈津子/まえだなつこ
 …4年生。主務兼女子マネージャー。




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2015年09月10日

もしアメフトの魅力を・・・物語を書くとしたら (第1章)

もしアメフトの魅力を知ってもらうための物語を書くとしたら

第1章 アメフトとの出会い

<第1話>

 3月上旬。北海道では、桜どころか街中はまだ雪景色で肌寒い季節。春の気配はまだ遠く冷たい風が吹く中、僕の身体は、3回、4回と胴上げされて宙を舞った。人生て初めて体験する胴上げ。
大学の合格発表を見に来た僕は、いきなりアメフトの防具を身に付けた男たちに担ぎあげられた。
「合格、おめでとう。」
志望大学に合格した僕は、合格の嬉しさと胴上げされた高揚感により興奮したまま、その鮮やかな青のユニフォーム姿の男達に連れられた。
 アメフトというスポーツ。僕の人生には全く関係のないものだった。男達は、大学生活の過ごし方について、部活やサークルについて、アメフト部について、語ってくれた。いろいろ勉強になることも多かった。うちの大学は地方の小さな大学なのでサークルが少なく活発でないことを知った。帰り道、僕がアメフトをやっている姿を想像しようと試みたが、身体の大きな男達につぶされる姿しか想像できなかった。
 
 それから1ヶ月後、僕はアメフト部に入部した。

 僕の名前は、宮脇拓哉(みやわきたくや)。大学生になって、まさかアメフト部に入るなんて思ってもみなかった。親も、高校時代の友達も驚いている。だって、僕は特別運動神経が良いわけではなく、身長や体重も人並みだ。小学校の頃はスイミングや少年野球、中学ではバスケ部に入っていたものの、高校では特にスポーツはやらなかった。
 高校生活は、部活をやっている仲間と比べ、自分のペースで勉強したり、自分のペースで好きなことをしたりと自由度は高く、そのおかげで大学受験を乗り切ることが出来たのかもしれないが、充実感としてはやや物足りなかった。だから、大学生活では勉強以外にも、また何か一生懸命打ち込めるものに挑戦したいという思いが強く芽生えていた。
 だが、何をやるかと考えると、経験している水泳、野球、バスケなどは、今から大学で始めても高校までの経験者には敵わない現実に気付く。選択肢は必然的に絞られる。
 合格発表の後、多くの部活やサークルからの勧誘が続いた。アメフト部の先輩達は、良く見ると身体の大きな人もいれば、そうでない人も結構いることに気付いた。そこで、初めてアメフト部が僕の選択肢に加わった。主将の高橋湊斗(たかはしみなと)さんを初めとして、優しそうな先輩が多かった。

 最終的に、僕がアメフト部に決めたのは、部の雰囲気も大きいが、殺し文句は「関東関西と違い、地方のアメフト部は、全員が初心者からのスタート。努力した分だけ、結果につながる。」という言葉だった。



<第2話>

 4月に入学式を終え、4月下旬のゴールデンウィーク。山の雪解けも進み、桜の花が今まさに花開こうという季節。大学生活とは、花見をして、ジンギスカンを食べて、友達と車でドライブしたりして過ごすもの。僕は、ずっとそう思っていた。
 しかし、僕達のゴールデンウィークは、グラウンドで走り、体育館でトレーニングをし、朝から夜までアメフト漬けの合宿生活だった。入部した新入生15人のうち、既に3人が辞めていた。

 春合宿の1年生のテーマは、身体づくり。大切なことは3つ。走って体力をつけること、トレーニングで筋肉をつけること、そして食事で身体を大きくすること。それが全て。それ以上でもそれ以下でもない。そんな合宿でも楽しいこともある。その1つは、女子マネージャーの手料理。夕食はもちろん特盛で、ご飯はお代わりが必須。ハードなトレーニングをした先輩達は余裕で平らげる。
 夕食後は、ミーティング、勉強会、練習内容のビデオ確認と続く。特に1年生は、アメフトのルールすら知らないので、ここでみっちりと教えられる。合宿中にテストもある。身体は休めても、頭は休まらない。アメフトの戦術性が「頭脳スポーツ」とか「フィールドのチェス」と呼ばれる所以だ。

こうして合宿初日が終わろうとしている。身体も頭もクタクタとなったその時、主将が1年生に声をかける。
「鬼退治の時間!」
主将が待つ食堂に集まると、夜食用の大きなおにぎりが山積み。このおにぎりの山を食べて退治することが、1年生に課せられた本日最後の役割。通称「おに退治」。
「ちょうど小腹が空いてきたところ。超絶美味しい。」と同期トップの巨漢である朝長幹男(ともながみきお)がハイペースでおにぎりを退治する。
「これもエースQBへの試練の道。俺に乗り越えられないわけがない。」と同期トップのアスリート兼自信家である児玉悠斗(こだまはると)も続く。
僕も、この日最後の強敵に苦戦しながらも、無事に退治することが出来た。

布団に到達する頃には、肉体も、まぶたも、そして胃袋も、自分の限界に挑戦していた。



<第3話>

 僕と同期の仲間達も全員がアメフト未経験者=初心者である。巨漢である朝長も、アスリート兼自信家である児玉も同様だ。そしてもちろん、アメフト部との出会いは僕と同じく、あの胴上げから始まった。

 朝長も、僕より1時間ほど遅れて、ユニフォーム姿の先輩達に胴上げされた。ただし僕とは違い、先輩方には最重要人物として、丁重に扱われた。それは、身長はもちろん、体重を確認してからは、さらに顕著になった。彼は、まさしく大型新人だ。
 ただし、朝長にとっても、アメフトというスポーツは全く縁のないものだった。先輩達は、大学生活の過ごし方について、部活やサークルについて、アメフト部について、語った。「その身体を生かせば、試合で活躍できる。」という先輩達の言葉は全く響かなかったが、女子マネージャーの勧誘の笑顔と優しい眼差しはとても響いた。帰り道、自分がアメフトの試合で活躍し、女子マネージャーの視線を独占している姿しか想像できなかった。
それから1ヶ月後、彼はアメフト部に入部した。

 朝長は、中学の時は担任の先生の薦め(半強制)で柔道をやっていたが、高校時代は帰宅部だった。インドア派であり、外で体を動かすよりもパソコンでAKBの動画を見ているほうが楽しい性格だった。推しメンは、小嶋真子だ。

 児玉も、朝長よりさらに1時間ほど遅れて、ユニフォーム姿の先輩達に胴上げされた。彼も、その身長と筋肉で引き締まった身体つきから、先輩方には丁重に扱われた。
 児玉にとって、アメフトというスポーツはビジュアル的に憧れるものだった。先輩達は、大学生活の過ごし方について、部活やサークルについて、アメフト部について、語った。
「その筋肉はエース間違いなし。」という先輩達の言葉に大きく揺さぶられた。どのスポーツでも活躍出来る自信があり、どのスポーツで活躍するか悩んでいたが、彼は帰り道、自分がエースQBでタッチダウンパスを決めているシーンを想像し、試合後にチアリーダーと喜びハグするところまで想像することは容易だった。
 その翌日、彼はアメフト部に入部した。それから1ヶ月後、この大学にはチアリーダーが存在しないことに気付いたのが、彼の大きな誤算だった。

 児玉は、小・中・高と野球部所属。小学校時代からピッチャーでエースの看板を背負っていたが、中学と高校は絶対的エースの存在により、控えピッチャー兼外野手のポジション。エースへのこだわりは強く、自分が一番エースに相応しいとの自信だけは、絶対的エースをも上回るものだった。



<登場人物>
宮脇拓哉/みやわきたくや
 …主人公(僕)。1年生。
高橋湊斗/たかはしみなと
 …アメフト部主将。4年生。
児玉悠斗/こだまはると
 …1年生。アスリートで自信家。
朝長幹男/ともながみきお
 …1年生。巨漢。AKB好き。





kou_blue97 at 23:30|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 后箆∈椒轡蝓璽困發痢 | 検淵▲瓮侫箸里海函

2015年09月09日

もしアメフトの魅力を・・・物語を書くとしたら

もしアメフトの魅力を知ってもらうための物語を書くとしたら

北海道の地方大学を舞台にしたアメフトの物語。
大学でアメフトに出会い、アメフトに青春を捧げた男の、熱い情熱と苦悩と戦略的な思考をテーマとした物語。
アメフトに興味を持つ人が増えて欲しいです。

7b9417c3.jpgアメフト


kou_blue97 at 21:23|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 后箆∈椒轡蝓璽困發痢 | 検淵▲瓮侫箸里海函
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